カテゴリー「(02) 薬学用語」の2件の記事

2013年1月11日 (金)

薬識不足が原因でアドヒアランスに問題のある患者へのアプローチ

薬識不足が原因でアドヒアランスに問題あり
いったい薬識のどこに、どんな問題があるのか
一言で書こうとするから「同じ」になってしまう

CASE 132

70歳 男性 
他科受診(-) 併用薬(-)
平成22年4月に脳梗塞(+)、後遺症(-)

定期処方:
Rp1) ミカルディス錠40mg 1T・プラビックス錠25mg 2T/1x朝食後 28日分
  2) セロクラール錠10mg 3T・レバミピド錠100mg 3T/3x毎食後 28日分
  3) リバロ錠2mg 1T・ファモチジンOD錠20mg 1T / 1x夕食後 28日分

患者のコメント:
「さいきん血圧が低くて110台。
 気色悪いから、半分しか飲んでいない。いかんかな?」

患者から得られた情報:
① ミカルディスは半錠に自己調整中で、今朝の血圧140/90
② 血圧が110台のときに自覚症状はない
③ サラサラの薬(プラビックス)は「一生飲まないといけない」と理解している
④ 血圧やコレステロールの薬を脳梗塞再発予防のために必要なことは理解していない

□CASE 132の薬歴
#1 血圧やコレステロールの薬を脳梗塞再発予防薬と位置付ける
  S)さいきん血圧が低くて110台。
 気色悪いから、半分しか飲んでいない。いかんかな?
 O) 今朝の血圧:140/90、110台のとき→自覚症状(-)
 プラビックスの生涯服用は理解OK、ミカルディスやリバロについては理解なし。
 A) ミカルディスやリバロを脳梗塞の再発予防薬と認識してもらう。
 そのうえで血圧の110台は問題ないことを伝える必要あり。
 P) 脳梗塞は再発をしやすい病気。
 サラサラの薬だけでなく、血圧やコレステロールのコントロールも一生続く。
 ○○さんにとっては血圧の薬もコレステロールの薬も脳梗塞の再発予防薬。
 血圧は100以上あれば大丈夫。再発しないように指示通りに続けましょう。
 R) わかった。関係あるんだね。

 
□解説
 「さいきん血圧が低くて110台。気色悪いから、半分しか飲んでいない。いかんかな?」

 この問いに対して、「110台ならだいじょうぶ。勝手に減らさずに先生の指示通りに一錠ずつ飲んでおきましょう」と答えていたら、どうなっていただろう。

 案外、血圧の下がりすぎではないことがわかり、安心して、ちゃんと飲んでくれたかもしれない。でも、このR)を聞くことはできなかっただろう。

 脳梗塞は再発をしやすい病気の一つだ。一年以内に10人に1人、十年以内に2人に1人が再発するといわれている。その予防のためには抗血小板剤(や抗凝固剤)の一生涯の服用が必要となる(ある調査では脳梗塞患者の3人に1人が、このことを理解していないという)。ここに問題はない。

 再発リスクを上げないためには、血圧やコレステロール、血糖値などのコントロールが欠かせない。ところが、何のためにミカルディスやリバロを飲んでいるのかを理解していない。このことが問題なのだ。

 まず脳梗塞は再発しやすい病気であることを伝える。つぎに血圧の薬やコレステロールの薬も「○○さんにとっては脳梗塞の再発予防薬」と認識してもらう。さいごに血圧の110は大丈夫です、と安心してもらっている。

 「わかった。関係あるんだね」とのコメントからアドヒアランスの向上が期待できるケースだった。

 
□考察
 「薬識不足が原因でアドヒアランスに問題のある患者へのアプローチ」と、こう書いてしまうと非常に抽象的になってしまう。やはり現場での個別の対応においては、ある程度、具体的に記録しておく必要がある。

 病識(じぶんがどんな病気であるのかを認識する概念)の確認は行っていないが、プラビックスの生涯服用の必要性を理解しているところをみると、「脳梗塞の罹患とサラサラの薬の継続服用が結びついている」ことはわかる。これがこの患者のプラビックスの薬識の一つだ。つまり薬識とは病識を含む概念だといえる。

 薬識とは、薬に対する認識のことであり、薬の知識ではない。その薬をどのように認識しているかということであり、病識もとうぜん関係している。

 では、ミカルディスやリバロの薬識はどうなっているのか。それらは端にそれぞれ血圧、コレステロールの薬としか認識されていない。脳梗塞という疾患背景とは結びついていない。

 今回の症例はこういう薬識を持った患者だと思われる(病識に関しては確認不足を否めないが)。

 血圧が110でミカルディスを半分にしてしまったことも、脳梗塞の再発予防薬として理解できていないことも、一言でいえば「薬識不足」になってしまう。

 薬識不足の一言で片づけてしまうと、薬歴はすぐに書けるかもしれないが、薬識のどこに、どんな問題があるのかが把握しづらくなる。とうぜん、服薬指導がヒットする確率も下がる。

 アドヒアランスがよくない原因はどこにあるのか? それを見つけるためには、「薬識」といった大きな括りのままの言葉を、概念のままを使いつづけないほうがいいのかもしれない。

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2010年4月16日 (金)

「コンプライアンス=服薬遵守」は誤訳

「コンプライアンス」という概念
わたしたちは使いこなせているのか?
それとも振り回されているのか?

CASE 56

60歳 女性

処方:
Rp1) ディオバン錠40mg 1T ・アダラートCR錠40mg 1T / 1x朝食後
Rp2) リポバス錠5mg 1T / 1x夕食後

薬歴から得られた情報:
① もともとアダラートCR錠40mg 1Tで血圧をコントロールできていた
② 4ヶ月前に血圧150/95と高く、ディオバン錠40mgが追加になる
③ 最近は血圧120/80台で安定しており、薬歴上ではコンプライアンス良好となっている
④ 血圧とコレステロール以外に治療中の疾患なし

患者から得られた情報:
① BP 126/80 いつもこのくらいで安定している。
② 血圧高くないので、じつはディオバン錠はずっと飲んでいない
③ Drには伝えていない

□CASE 56の薬歴
#1 ディオバン錠を飲んでいないことをDrに伝えていない
 S) 血圧高くないので、じつはディオバン錠はずっと飲んでいない
 O) BP 126/80 いつもこのくらいで安定
   服薬状況をDrには伝えていない
 A) 状態的にはNPのようだが、Drに伝えておかないと
   今後の治療に支障がでる恐れあり
 P) Drは血圧の薬を2つ飲んで今の血圧と思っている。
    今後の治療に支障が出ないように早めに状況を伝えておきましょう。
    こちらから伝えましょうか?
  R) 次回、自分で言います。

□解説
 現在、「コンプライアンス」という言葉を使わないようにしている。いや正確には、コンプライアンスという概念を用いないようにしている。その結果がCASE56の薬歴だと考えている。

 「血圧の薬2つもいるの?」「じつは○○は飲んでないのよ」といったケースはよくある。コンプライアンスを改善することは薬剤師の大事な仕事であることは間違いない。‘その薬がなぜ必要なのか’を理解してもらう。そして、納得して飲んでもらう。

 しかし今回のケースではその必要はないと考えた。であるならば、問題点は‘服薬状況をDrに伝えていない’ことだ。そこに焦点を当てている。

□考察
 コンプライアンスは「服薬遵守」と訳され、「処方された薬剤を指示に従って服用すること」とされている。われわれ薬剤師は、このコンプライアンスという概念を用いて患者応対にあたっている。

 このコンプライアンスという概念はわたしたちに何をもたらしているのか。以前の私ならば、CASE56のような症例では、ARBの臓器保護作用や降圧剤の併用のメリットを説くことを考えただろう。つまり、いかに患者に薬を飲んでもらうかだけを考えていた。本当にその薬がその患者にとって必要なのかも考えずに、コンプライアンスという概念に縛られ、振り回されていた。

 『直観でわかる数学』で有名な畑村先生は、「コンプライアンス=法令遵守」を誤訳と考えている。

 じつは「コンプライアンス」という言葉は、工学の世界でも使われています。この場合の意味は、相手のものの形に従ってそのものが変形するときの「柔らかさ」や「柔軟性」などを示しています。(中略)たとえば、「コンプライアンスが大きい」というと、小さな力で大きく変形する状態を表します。これを人間関係に当てはめてみると、社会や相手の変化に順応するように自分が柔軟に変化している姿が想像されます。社会が何を求めているかをきちんと見極め、それに順応しながら柔軟に動いていくこと、これがまさしく「コンプライアンス」の本当の意味であり目的であると私は理解しています。(*1)

 「コンプライアンス=服薬遵守」は誤訳である。

 「コンプライアンス」という言葉を持ち出すことにより、その言葉の(誤訳の)イメージに引きずられる。思考が止まる。つまり、問題の本質が捉えられない。

 概念は使いこなせないなら、使わないほうがよい。概念とは「考える道具」にすぎないのだから。

 医者は患者を助けたい、そして患者は健康になりたいと考えている。薬剤師が‘ただ薬を指示通りに飲んでいるか’だけを考えるのはおかしい。薬さえ飲んでいればよいのか。それは法律さえ守っていれば(何をしても)よいという発想と変わらないのではないだろうか。
 
 

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*1:畑村洋太郎『回復力 失敗からの復活』 講談社現代新書

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