カテゴリー「(08) 漢方」の15件の記事

2016年10月21日 (金)

六君子湯は補気剤であり去痰剤でもある

汎用漢方薬、六君子湯。
君子のようにすばらしい生薬が六つ。
逆食やFDだけでなく去痰作用も。

CASE 186

男性 75歳 

他科受診:なし  併用薬:なし  

処方(1,2は定期、3が追加となる):
Rp1) クロピドグレル錠50mg  1錠
    ネキシウムカプセル10mg  1C
     エナラプリル錠5mg     1錠  
     ピタバスタチン錠1mg  1錠  分1 朝食後  21日分

Rp2) カルボシステイン錠500mg   3錠
     アンブロキソール錠15mg  3錠   分3 毎食後 7日分

Rp3) ツムラ六君子湯エキス顆粒  7.5g 分3 毎食前 21日分

患者のコメント:
「つかえた感じがして食欲がない」
「痰の薬は効いている感じがしない。変わってないの? 先生に相談したけど」

患者・薬歴からの情報:
① 食欲、痰ともにDrに相談。Dr→Pt「薬を追加しておく」
② Rp2)残(+)のため、1週間分でOK
③ 脳梗塞の再発予防にて治療中
④ 痰は透明~白で量が多い
⑤ 手足のほてりやのぼせなどはない

□CASE 186の薬歴
#1 六君子湯が去痰剤でもあることを理解してもらう
 S)痰の薬は効いている感じがしない。
   (去痰剤は)変わってないの? 先生に相談したけど。
 O) お腹のつかえ、食欲不振、去痰剤が効いていない→Rp3)追加
   脳梗塞(+)、痰は透明~白で量が多い、手足のほてりやのぼせ(-)
 A) 六君子湯の証は適。去痰剤としても奏功するだろう。
   薬効について理解してもらう必要あり。
 P)六君子湯の説明書には胃のことしか書いていませんが、この漢方には去痰作用もあります。お伺いしたところ、病歴・体質的にも合っているようです。この漢方が効いてくれば、効いている感じのないRp2)を減らしていけるでしょう。
 
□解説
 脳梗塞後や高齢の方で、薄い白い痰がたくさん出るといった訴えをときどき耳にする。そして、こういった痰には西洋薬の去痰剤はあまり効果的ではないことが多い。

 痰の症状に加え、脾気虚が見られる本症例では、六君子湯が期待できる。さらに手足のほてりやのぼせといった陰虚の症状もなく、副作用の可能性も低い。

 漢方的な説明になるが、脾(胃腸)が弱ると、水の代謝が悪くなる。すると、水の吸収・運化機能が停滞し、水滞を呈する。そして、その結果として、痰を生じることになる。脾虚生湿だ。つまり、まずは脾を元気にしてあげないといけない。

 六君子湯の薬効は脾気虚、湿痰であり、そのような病態に期待できる。そもそも六君子湯は補気剤の基本処方の四君子湯と去痰剤の基本処方の二陳湯の合剤なのだから当然ともいえる。


 六君子湯の薬情には胃関連の説明のみの記載になっている。そこで、去痰剤としての効果があることも理解してもらえるように服薬指導を行っている。また同時に、効果が実感できないと訴える西洋薬の去痰剤の減薬できる可能性があることをほのめかしている。
 
□考察
 西洋医学では、診断から投薬という流れが患者の訴えごとに行われる。痰には去痰剤、FDには消化管運動賦活剤といったふうに。さらに、西洋医学は臓器ごとに専門医がいる。ということは同じ気虚であっても、肺は呼吸器から、胃は消化器からと、それぞれの科から症状に応じた投薬がなされることになる。

 こういった症状を超えた、臓器を超えたアプローチは漢方薬ならではのものだ。

 腎虚で夜間頻尿を呈し、目がかすみ、膝がガクガク、腰がフワフワして安定しない。こういった高齢者が泌尿器科、眼科、整形外科にかかったなら、少なくとも3種類の薬を受け取ることになる。少なくとも。しかし、漢方なら、例えば八味地黄丸一つで事足りるかもしれない。

 これからの超高齢社会、漢方薬はもっと見直されてしかるべきだ、と思うのだが。。。

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2014年11月14日 (金)

気虚による発熱には補気剤を

「気虚」の発熱に解熱剤は効かない。
気虚には補気剤。
漢方は症状ではなく病因に。

CASE 164

男性 75歳 

他科受診:なし、併用薬:なし

定期処方:
Rp1) アムロジピン錠5mg 1錠 分1 朝食後   28日分
Rp2)メリスロン錠6mg 3錠 分3 毎食後 
    レバミピド錠100mg 3錠 分3 毎食後 28日分
Rp3)オメプラゾール錠10㎎ 1錠 分1 夕食後   28日分

臨時処方:
Rp4)ツムラ補中益気湯エキス顆粒 7.5mg  分3 毎食前 14日分

患者のコメント:
「夕方になると熱が出る。先生は疲れがたまっているんだろうって。
 たしかに疲れてはいるけど。この漢方が解熱剤?」

患者から得られた情報:
① 平熱は低いのに、16時くらいになると毎日37度を超える。
② 食欲はある。ふつうに摂れている
③ さいきん、寝汗(+)

□CASE 164の薬歴
#1 補気剤のアドヒアランスを高める
  S) 夕方になると熱が出る。先生は疲れがたまっているんだろうって。
   たしかに疲れてはいるけど。この漢方が解熱剤?
 O) 平熱は低いのに、16時くらいになると毎日37度を超える。
   食欲はふつうだが、寝汗(+)
 A) Drの見立て通りに気虚だろう。証は適。
   原理を理解して、しっかり飲んでもらう必要がある。
 P) 疲れがたまることによって、寝汗をかくこともあれば、夕方に熱が出ることも。
  こういった発熱には解熱剤はあまり効きません。
  原因の疲れに対しての漢方を1日3回、食後になってもいいので続けてみて。
 
 
□解説
 補中益気湯が出ている時点で、症状はどうであれ、医師は気虚と診断している。それを踏まえて、問診していく。

 夕方になると微熱が毎日続いている。食欲はあるものの、本人の「たしかに疲れはある」とうコメントと寝汗。どうやら気虚で間違いなさそうだ(参考:四君子湯とその派生処方 その1)。証さえあっていれば、漢方の場合、副作用は少ない。納得して飲んでもらうほうに力を注いだほうがいい。

 気虚ならびに気虚の発熱には解熱剤は効果があまり見られないことをお話して服用を促している。
 
□考察
 処方医が漢方に明るいと薬剤師としてはありがたい。

 僕の服薬指導の基本姿勢としては、証があっているならコンプライアンス重視。証が合っていない、もしくは不安なときには副作用アナウンス重視だ。

 そして、得てして副作用アナウンスよりもコンプライアンス重視の服薬指導のほうが難しい。なぜなら、漢方の考え方じたいが、患者にとっても、西洋医学中心の日本では馴染みがないからだ。

 今回の症例では、患者は解熱剤を求めて受診した向きがあった。漢方の解熱剤では、勝手に頓用にしてしまうかもしれないし、説明としても嘘になるし。少し時間はかかるが、漢方は原因からアプローチするんですよ、というお話をするしかないだろう。

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2013年7月12日 (金)

三叉神経痛 ~テグレトールと柴胡桂枝湯~

三叉神経痛といえば
西洋薬のfirstはCBZ
漢方薬は? どんな位置付け?

CASE 144

80歳 男性

定期処方:
Rp 1)バイアスピリン錠100mg 1錠・ブロプレス錠4mg 1錠  / 1x朝食後
Rp 2)ユリーフ錠2mg 2錠 ・テグレトール錠200mg 2錠 / 2x朝・夕食後
Rp 3)レバミピド錠100mg 3錠・マグミット錠330mg 3錠 / 3x毎食後
Rp 4)プロテカジン錠10mg 1錠 / 1x夕食後
Rp 5) グッドミン錠0.25mg 1錠 / 1x就寝前
以上 7日分
*処方はずっと、ほとんど変わりない。
*テグレトール、マグミット、グッドミン以外は一包化薬

患者の訴え : 「最近、ふらつくことがある。何度かこけて危なかった。
          今度、CTを摂ってもらうことにした」

患者から得られた情報:
① 夜はよく眠れている。グッドミンは毎晩1錠服用中。
② 血圧は良好。立ちくらみ(-)
③ GFJ(-)
④ 三叉神経痛がよくなく、最近テグレトールを1日3回飲むことがある。
⑤ ④はDrに伝えていない。

薬歴から得られた情報:
① アルコール(-)、眠剤による持ち越し歴(-)
② テグレトールは屯用。今までは1日1~2回で余ることが多かった。

□CASE 144の薬歴
#1 テグレトールを1日2錠までにする
  S)最近、ふらつくことがある。何度かこけて危なかった。
   今度、CTを摂ってもらうことにした。
 O) 三叉神経痛のコントロール不良→最近、テグレトールを1日3回飲むことも。
    Drには伝えていない。
 A) テグレトールの増量が原因かもしれない
 P)テグレトールは用量調節が難しく、ふらつきやめまい、
   倦怠感などが出やすい。 1日2錠までに留めておくように。
   Drにも状況を伝えておきます(トレースレポート提出)。
 R) お願いします。痛み止めだから3錠までいいかと思ってたよ。
   たしかに三叉神経痛がよくない日だったかもしれない。
 
□解説
 処方日数が7日分だったので、その理由を尋ねてみると「ふらつきがあるから、CTを受ける」という。とうぜん、ふらつきの原因が薬にあるのではないか? そう考え、質問していく。

 原因になりそうな薬はたくさんある。過降圧なら処方が変更されるだろうし、血圧も良いとのことなので降圧薬は除外。立ちくらみでもないからユリーフも違うかな。眠剤の持ち越しでもない。GFJを飲んでしまっていて、テグレトールの血中濃度上昇か? これでもない。やはりCTの結果待ちかなと思っていると、

 「三叉神経痛がよくなく、最近テグレトールを1日3回飲むことがある」とのコメントが、思いがけず患者の口から飛び出す。

 これだ。テグレトールは三叉神経痛が痛むときに屯用していたため、一包化薬から外していた。余りがちになることも多く、まさか勝手に量を増やしているとは想像できなかった。

 ともかく、これでアセスメントは確定した。あとは服薬指導とトレースレポートにて対応している。

<トレースレポート>
 最近、三叉神経痛の調子がよくなく、自己判断でテグレトールを1日3回飲むことがあるそうです。テグレトールは、患者が訴えるような、ふらつき等の副作用が多い薬なので、1日2回の指示を守るように指導しています。

 また、漢方薬の柴胡桂枝湯は証に関係なく、三叉神経痛に有効と言われています。
 ただし単剤での治療は難しく、そのメリットは併用にてテグレトールを減量できることにあります。

 あわせてご報告します。よろしくご検討をお願いします。

□考察
 CTの結果、原因は違うところにあるかもしれない。しかし、もしテグレトールが原因であるならば、今まで何もなかったことを考えても、やはりその量に問題があることになる。

 だが、三叉神経痛もつらいようだ。テグレトールの用量を守るだけでは、ふらつきを改善できたとしても、つらいままになってしまう。別の手が必要だ。

 そこで使えるのが柴胡桂枝湯だ。証をあまり考えずに病名投与でいけるとされている(ただ理論的には、陰虚にはむかない。とうぜん、件の患者は陰虚ではない。その他、葛根湯や五苓散、桂枝加朮附湯なども三叉神経痛に用いられる)。

 そして、その最大のメリットはテグレトールを減量できることにある。なんせテグレトールは、ちょっと気を遣う薬ですから・・・。

 追記: 記事作成後に偶然、患者さんと遭遇。テグレトールを2錠/日までにして、ふらつきがなくなったとのこと。やっぱりね。しかも、「じつは4錠/日飲むこともあった」とカミングアウト! 「三叉神経痛が痛むので、早めに病院にいく」とも。ぜひ、そうしてください ^_^;

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2013年3月 8日 (金)

当帰芍薬散を服用中の患者がインフルエンザになったら

当帰芍薬散は冷え症によく用いられる漢方薬
冷え症の漢方は熱証には用いない
「発熱時は休薬するように」とアナウンスを

CASE 136

75歳 女性

定期処方:
Rp 1) ロサルタンK錠25mg 1錠 / 1x朝食後 28日分
Rp 2) ツムラ当帰芍薬散エキス顆粒 5g / 2x朝・夕食前 28日分
Rp 3) ユベラNソフトカプセル200mg 3錠 / 3x毎食後 28日分
Rp 4) ロキソニンテープ50mg 28枚

臨時処方:
Rp 5) タミフルカプセル75mg 2C / 2x朝・夕食後 5日分
Rp 6) カロナール錠300mg 1錠 / 1x発熱時 10回分

患者から得られた情報:
「インフルエンザだった。孫からもらったみたい。38.4度もあった」

薬歴から得られた情報:
① タミフルの服用歴は2回あり、副作用なし、腎機能NP
② 血圧と冷え症(足の冷え)の治療中
③ 服薬状況は良好

□CASE 136の薬歴
#1 発熱時はツムラNo.23を休薬する
  S) インフルエンザ(+) 38.4℃
 O) ツムラNo.23服用中
 A) ツムラNo.23で熱が下がりにくくなる
 P) 熱があるあいだは漢方薬を休薬しておきましょう。
  他の定期薬は今日の薬といっしょに発熱時もOK。
 
□解説
 当帰芍薬散は加味逍遥散、桂枝茯苓丸とならんで有名な血の道の漢方で、四物湯から派生している。色白で四肢が冷える、むくみやすいといった方に適している。CASE 137の患者も冷え症にて服用していた。

 今回のケースは、要するに、「ツムラNo.23(当帰芍薬散)は冷え症の漢方なので『熱証』には不適である」ただそれだけの話だったりする。

 だが、当帰芍薬散をたんに血の道の薬と認識していると、「カゼやインフルエンザでの発熱時には休薬を」というアナウンスを忘れてしまいがちだ。

 汎用されている方剤だけに、インフルエンザのシーズンには一言アナウンスしておきたい。

□考察
 冷え症の漢方といえば、他に当帰四逆加呉茱萸生姜湯や人参湯、附子理中湯などがあるが、やはりこれらもカゼやインフルエンザなどの発熱時には休薬が必要だ。

 また、他に同じような指導が必要な方剤に補気剤(CASE 79参照)がある。

 四君子湯や六君子湯、補中益気湯といった補気剤は、気虚による発熱(疲れたら熱が出る、夕方になると熱がでる)などには適するが、カゼやインフルエンザなどの外因による発熱時には、やはり休薬が必要となる。

 ここにあげた漢方は自分には合っているからと、しっかりと服薬を続けているような方が多い。アナウンスがなければ発熱時も飲み続けることになりかねない。

 せっかく「いつもの薬と飲み合わせは大丈夫ですか?」と問い合わせてくれても、「飲み合わせは問題ありません」ではもったいない。

 カゼやインフルエンザでは証が変わる。とくに寒熱の違いは意識しておきたい。

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2012年1月27日 (金)

麻黄剤による不眠

カゼ薬は眠くなる?
葛根湯、小青竜湯、麻黄湯
漢方のカゼ薬による不眠

CASE 110

83歳 女性 

定期処方:
Rp1) ワーファリン錠1mg 2.5T・ガスターD錠10mg 1T・イルベタン錠50mg 1T / 1x朝食後 21日分
 2) ムコスタ錠100mg 2T・サンリズムカプセル50mg 2C / 2x朝・夕食後 21日分
 3) マイスリー錠5mg 2T / 1x就寝前 21日分
  4) ツムラ葛根湯エキス顆粒 7.5mg / 3x毎食前 7日分

患者のコメント: 「カゼ薬は眠くなるから、寝る前に飲んでいる」

薬歴から得られた情報:
① 定期処方は前回Doでここ数か月変更なし
② マイスリーは1錠でよいときも追加して2錠になることもある。
③ 葛根湯は頭痛時に服用

□CASE 110の薬歴
#1 葛根湯による不眠悪化
  S)カゼ薬は眠くなるから、寝る前に飲んでいる
 O) 葛根湯→カゼ薬→眠くなると思い込み(+)
    寝つきが悪く、マイスリーを1~2錠服用中
 A) 麻黄剤が不眠を悪化させているのでは?
 P) 葛根湯は眠くなるどころか寝つきを悪くしてしまう。
    寝る前は避けておきましょう。
 R) 知らなかった~
 
□解説
 葛根湯や小青竜湯、麻黄湯といった麻黄剤とよばれる漢方に共通する注意点のひとつに「不眠」がある(麻黄湯とその派生処方 その2参照)。

 症例の患者は頭痛薬として葛根湯を使用しているとの記載はあるが、実際にどのタイミングで服用しているかまでの記載が薬歴にはない。

 この点を確認してみると、「カゼ薬は眠くなるから、寝る前に飲んでいる」という。ここにフォーカスする(S)。頭痛薬としてはじめた薬をカゼ薬と認識しているのも、葛根湯なら充分にあり得る。なんせ有名だ。

 患者情報をみると「眠れない」とあり、マイスリーを服用している。しかも2錠必要になることもあるとの記載がある(O)。

 これは葛根湯がいたずらしているのでは? と考え(A)、寝る前の服用は避けるようにと服薬支援を行っている(P)。

 
□考察
 この症例では、次回来局時にはすでにマイスリーを2錠飲むことはなくなっていた。似たようなケースを小青竜湯でも麻黄湯でも経験している。その原因はもちろん薬剤師サイドのアナウンス不足。これは間違いない。

 そしてもう一つ垣間見える傾向に、患者の思い込みがある。「カゼ薬やアレルギーの薬は眠くなる」。だから、寝る前に飲んでおけば問題ない、となるわけだ。

 漢方のカゼ薬やアレルギーの薬は眠くなりません。寝つきを悪くすることもある。

 麻黄剤が続けて処方されるようなときには忘れずにアナウンスしておきたい。

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2011年11月11日 (金)

漢方の飲み方と心不全

漢方をどのように飲んでいるのか?
それが病態を悪化させる要因に?
漢方薬の温服について

CASE 105

87歳 女性 
他科受診:なし 併用薬:なし

処方1:
Rp1) バイアスピリン錠100mg 1T・タナトリル錠5mg 1T・メインテート錠2.5mg 1T・ダイアート錠30mg 1T・ハーフジゴキシン錠0.125mg 1T・アルダクトンA錠25mg 1T / 1x朝食後
  2) アイトロール錠20mg 1T / 2x朝・夕食後
 3) ムコスタ錠100mg 3T / 3x毎食後
  4) ツムラ麻子仁丸エキス顆粒 5g / 2x朝・夕食前
 
処方2:
Rp5) バイアスピリン錠100mg 1T・タナトリル錠5mg 1T・メインテート錠2.5mg 1T・ダイアート錠60mg 1T・ハーフジゴキシン錠0.125mg 1T・アルダクトンA錠25mg 1T / 1x朝食後
  2) Do
 3) Do
  6) マグラックス錠330mg 4T / 2x朝・夕食後

処方3(今回の処方):
 4) ツムラ麻子仁丸エキス顆粒 5g / 2x朝・夕食前

薬歴から得られた情報:
① 処方1→処方2と推移
② 心不全治療中にて水分制限あり
③ 漢方を湯に溶いた後の残渣を服用→口腔内が苦いので水を多飲→心肥大・足のむくみ(+)→ダイアート増量
④ 原因となった漢方はマグラックスへと変更

患者の娘のコメント: 「やっぱり、あの漢方じゃないとうまくいかないみたい」

患者の娘から得られた情報:
① マグラックスを中止し、ツムラNo.126を再開
② 1人暮らし
③ 電子レンジはあるけど、使えないかも?
④ Drからは「水を飲みすぎないように」と

□CASE 105の薬歴
#1 漢方温服時の残渣に対応し、心不全の悪化を防ぐ
  S)やっぱり、あの漢方じゃないとうまくいかないみたい
 O) ツムラNo.126再開(マグラックス中止)
    薬歴より温服時の残渣の服用が問題(心不全悪化)
 A) 電子レンジ(+)だが、本人が1人暮らしで使えるか不明
      使えない場合は心不全悪化防止が優先
 P) 漢方は湯に溶いたあと電子レンジに30秒から1分かけるときれいに溶けます。
    もしレンジが使えないようなら、残渣に湯を足して溶かしてしまうか、
    残渣は飲まないように伝えてください。
 R) そうします。同じことのくり返しだもん。

 
□解説
 漢方の服用法が原因で心不全の悪化を招いてしまった症例。

 漢方をふつうにお湯に溶くと、完全には溶けきれずに残渣が残ることが多い。これをそのまま服用して苦みが口内に残る。それが水の多飲につながり、心不全を悪化させる。そんなこともあるのか、というのが第一印象(薬歴を読んだ時点での印象)だった。

 漢方薬を温服するときには、電子レンジを使うときれいに溶ける。私は30秒から1分くらいチンするといいと伝えている。そのくらいならば成分が壊れることはない。

 この一手で解決を試みる。しかし患者は1人暮らしで「電子レンジが使えるかわからない」という。この情報にさらに驚く。まだまだ患者のことが、患者の生活がわかっていない。

 いま大事なのは心不全の悪化を繰り返さないこと。レンジが使えない場合も考えて、服薬支援を行っている。

 
□考察
 結局、この患者さん、自分ではレンジを使えなかった。残渣を残すようにし、家族がいるときにはレンジにかけてもらっている。

 こんなこともあるんだな~と強く印象に残った。

 薬をどのように服用しているのか? その患者はどういう病態なのか? この2点を把握しておかないと、僕らの知識なんて空回りするだけだ。患者の役には立てない。そう思った。

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2011年1月14日 (金)

黄連解毒湯は冷服する

その方剤の‘寒・熱’はどうなのか?
清熱剤は冷服が基本だ
主な清熱剤を押さえておきたい

CASE 83

35歳 女性 
他科受診:なし 併用薬:なし

処方歴:
Rp1) ツムラ黄連解毒湯エキス顆粒 7.5g/3x毎食前 5日分
  2) レスタミンコーワ軟膏1% 30g

薬歴内容:
#1 ツムラNo.15初回服薬支援
 S) 蕁麻疹にて受診。原因はわからない。
 O) 口内炎もあり、どちらにも効くし、
   授乳中なので漢方を出すと説明あり
 A) 初薬
 P) 蕁麻疹や口内炎のような炎症を鎮める漢方です
   食前に忘れたら食後に服用してください。

翌日患者よりTEL: 「苦くて飲みにくい。なにかいい方法はないか?」

患者から得られた情報:
① お湯に溶かして服用している
② 漢方はすべて温服するものと認識している

□CASE 83の薬歴
#2 ツムラNo.15を冷服する
  S)苦くて飲みにくい。なにかいい方法はないか?
 O) お湯に溶いて温服中    
 A) 黄連解毒湯は清熱剤のため冷服が基本
 P) 冷やす漢方なので、氷などで冷やして飲むことを勧める。
   飲みやすくなるだけでなく、効き目もよくなりますよ。
   
 
□解説
 患者からの電話問い合わせの内容を記載したもの。

 蕁麻疹と口内炎に対して黄連解毒湯の投薬を受けるが、苦くて飲みにくいと相談を受ける。服用法を確認すると「温服」していることが判明。

 CASE 83の患者のように、「漢方薬はすべて温服するものだ」と考えているかたは少なくない。

 しかし黄連解毒湯は、オウゴン・オウレン・オウバクといった寒性の生薬を含む清熱剤であり、「冷服」が基本だ。飲みやすくなるだけでなく、効果的でもある。

 
□考察
 その方剤は寒性なのか熱(温)性なのか。これがわかるだけで服用法の適切なアドバイスができる。

 寒性薬は炎症を去り、興奮を鎮める生薬。その代表格はセッコウだ。これが含まれていれば、その方剤は寒性であるとみなしてよい。冷服が基本だ。
 
 オウゴン、オウレン、オウバク、ダイオウ、サイコ、インチンなども寒性薬だが、方剤自体が寒性になるかどうかは全体のバランスによる。ゆえに主な清熱剤を抑えておくとよいだろう。

 主な清熱剤:黄連解毒湯(15)、大黄牡丹皮湯(33)、白虎加人参湯(34)、小柴胡湯加桔梗石膏(109)、茵蔯蒿湯(135)など

 

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2010年11月19日 (金)

発熱と人参

気虚のときに一番大切な生薬「人参」
人参配合の方剤での注意事項
「発熱のかたには投与しない」

CASE 79

50歳 男性 
他科受診:なし 併用薬:なし

定期処方:
Rp1)パリエット錠10mg 1T / 1x朝食後 28日分
 2) マーズレン顆粒 2g・ガスモチン錠5mg 3T / 3x毎食後 28日分
 3) ツムラ六君子湯エキス顆粒 7.5g / 3x毎食前 28日分

臨時処方:
 4) ツムラ葛根湯エキス顆粒 7.5g / 3x毎食前 3日分
 5) カロナール錠300mg 1T / 1x発熱時
 

患者のコメント: 「風邪ひいた。ゾクゾクする」

患者から得られた情報:
① 寒気(+)、発汗(-)
② 定期処方にて逆食コントロール良好

□CASE 79の薬歴
#1 ツムラNo.43を発熱時は中止する
  S) 風邪ひいた。ゾクゾクする。
 O) 寒気、無汗→ツムラNo.1適
    REにてツムラNo.43服用中    
 A) 人参を服用していると熱が下がりにくくなる
 P) 風邪をひいたことで、一時的に証が変わっています。
    ツムラNo.43を飲んでいると熱が下がりにくくなるのでいったん中止を。

 
□解説
 人参は気虚治療の基本生薬、つまり補気。六君子湯は補気剤であり、その主薬はもちろん人参だ。

 六君子湯を投与する際に注意する点が2つある。まず、手足のほてりやのぼせがないか? これは陰虚の症状で、人参が入っているとひどくなる。つぎに、発熱していないか? 人参を服用していると熱がさがりにくくなるからだ。

 風邪をひいて、証が変わる。六君子湯は一時的に不適となる。そこで「六君子湯はいったん中止して、葛根湯を飲んで、まずは風邪を治しましょう」と服薬支援を行っている。

 

□考察
 わたしの漢方の先生いわく、「風邪をひいたら、証が変わる」。さらにいわく、「発熱時に補気剤を飲むのは、泥棒を家に閉じ込めるようなもの! 邪気が出ていかなくなる」そうだ。

 インフルエンザなどの発熱を伴う急性期疾患では、補気剤の一時中止を忘れずにアナウンスしていきたい。

 *参考 補気剤の3大処方:四君子湯、六君子湯、補中益気湯

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2010年9月17日 (金)

尿閉リスクを回避する

α1遮断薬と抗コリン薬の併用
尿閉のリスク
腎陽虚には八味地黄丸

CASE 72

70歳 男性<CASE 46の患者>
他科受診:なし  併用薬:なし
SE歴:麻黄湯→尿閉

前回の処方:
1)アムロジン錠5mg 1T・オルメテック錠20mg 1T / 1x朝食後 
2) ユリーフ錠4mg 2T・プロスタール錠25mg 2T・セルベックスカプセル50mg 2P/2x朝・夕食後
3) タケプロンOD15mg 1T / 1x夕食後

今回の処方:
4)アムロジン錠5mg 1T・オルメテック錠40mg 1T / 1x朝食後 
2) Do
3) Do
5) バップフォー錠20mg 1T / 1x夕食後

調剤時の患者とのやりとり:
(薬剤師)膀胱の薬で尿閉になるリスクがあることを説明
(患者) 尿閉だけはもうイヤだ

疑義照会:
(内容)麻黄湯にて尿閉歴(+)、バップフォーでも可能性大
(回答)DrよりQ:夜間頻尿6~7回でQOL低下、BP↑
             代替薬は何がいいだろうか?
    Ans    :八味地黄丸を提案
 Rp5)→6)へ変更となる
 Rp6) ツムラ八味地黄丸エキス顆粒 5g / 2x朝・夕食前
   

□CASE 72の薬歴
#1 尿閉リスクを回避する
  S) 尿閉だけはもうイヤだ
 O) 麻黄湯にて尿閉歴(+)
 A) バップフォーの抗コリン作用で尿閉リスク大
 P) 疑義照会にて八味地黄丸へ変更
 R) ○○さんがいて良かった(笑)

#2 ツムラNo.7による胃障害を回避しつつ継続する
 S) 夜間頻尿6~7回
 O) ツムラNo.7追加
 A) 地黄含有のため空腹時不適
 P) 腎虚という夜間頻尿を引き起こす状態を改善する薬
   食前となっているが、胃にきやすいので、
   しばらく続けられるように食後で続けましょう。

□解説
 まずは尿閉回避について。Drは、夜間頻尿→OAB→バップフォーと考えたようだ。α1遮断薬と抗コリン薬の併用は、たしかによく見られるようになった処方ではある(CASE 60参照)。

 しかし、患者は麻黄湯で尿閉を起こしたことがある。その患者にバップフォーは怖い。

 疑義照会を行うと、患者の状況の説明と代替薬の相談があった。処方権が舞い込んできたようなものだ。こういうときはやはり緊張する。だが、前もって代替案は立ててある。だからこそ、自信を持って疑義照会が行えるわけだ。

 夜間頻尿は漢方でいうところの‘腎陽虚’の状態だ。腎虚かつ陽虚。昼は陽があるから補えるが、夜は陰が中心なために夜間頻尿がおこる。腎陽虚に用いる補腎剤といえば、八味地黄丸だ。

 八味地黄丸の主薬は、もちろん地黄だ。必ず食後に服用したい(CASE 22参照)。

□考察
 この患者にはCASE 46で迷惑をかけた。同じ轍を踏むわけにはいかない。いつもそう思っていた。ピッキング時にバップフォーを手にして、すぐに患者のもとへ行き、疑義照会のための時間をもらった。

 「○○さんがいて良かった(笑)」 この一言でわたしも救われた。

 あとは八味地黄丸が効いてくれるのを祈るのみだ。

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2010年8月23日 (月)

ぎっくり腰と八味地黄丸

 ぎっくり腰全快。1週間かかった。ただ椅子から立ち上がっただけで、何も持ったわけでもないのに・・・。

 わかります? あの不安定感。力が入らずどうにもできないあの感覚。お世話になりました腰痛ベルトにシップ、そして八味地黄丸。

 ぎっくり腰は腎虚の状態だとなりやすい。高齢者がよくなる状態。更年期などの生理的なもののほかに、疲労などが原因で腎のバランスが崩れ、弱くなることもある。腎虚になると筋肉と神経のバランスがとれなくなるので、ぎっくり腰や椎間板ヘルニアになったりするわけだ。

 わたしの漢方の先生によれば、「腎虚は怖くない。誰でもなる。若い人は1日で回復するが、歳をとると回復が遅い」そうだ。歳ということですか・・・。

 足腰に力が入らない場合の第一選択薬、補腎剤、八味地黄丸。腎と腰は密接な関係なのだ。

 補足:ほてり・のぼせのあるかたは八味地黄丸ではなく、六味丸が適。

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