« 日経DI 11月号のDIクイズ2を担当しました | トップページ | 日経DIクイズ18発売 »

2016年12月 2日 (金)

承認不安から脱出するためには?

「現代は承認への不安に満ちた時代である。自分の考えに自信がなく、絶えず誰かに認められていなければ不安で仕方がない。ほんの少し批判されただけでも、自分の全存在が否定されたかのように絶望してしまう、そんな人間があふれている」(P. 8)

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

「認められたい」の正体 [ 山竹伸二 ]
価格:820円(税込、送料無料) (2016/11/27時点)


 人間はなぜ認められたいのか? それは「人間のあらゆる行為の基底にある欲望、まさに人間が人間であるがゆえの欲望である」からだ。承認への欲求というのは、価値ある自分への欲望であり、それは生きる意味を追い求めることでもある。

 しかし、他者からの承認を必要以上に追い求めると、自分の自由を抑圧してしまい、自己不全感を感じるようになってしまう。

 社会共通の価値観が失われたことは、ある意味では自由の可能性を拡げたし、もはや自由は社会を変革して勝ち取るようなものではなくなった。しかし同時に、周囲の承認を得るための基準も見失ってしまった。そのため多くの人々は周囲の人間に同調しがちになり、過度に気を遣うあまり、自由であるはずなのに一向に自由を感じることができない。自由という大海のなかで羅針盤を失い、さまよい続けている(P. 157-156)。

 自由な時代になったがゆえに、自由を感じることができないとは何とも皮肉な結果だ。承認不安から脱出するためには「自由への欲望」も考慮する必要がある。そうでなければ根本解決には至らない。

 では、そもそも自由とは何なのか? それは「自分の意志でやっている、という納得感」であり、「自己決定による納得」である。そして自己決定するためには、まず自分自身の不安や欲望といったものをよく知る必要がある。

 自分の承認欲望が自覚される際、私たちはそれを「無意識」という言葉を用いて思考し、表現することが少なくない。
 そもそも、「自分は無意識に○○だったんだな」と思ったとき、人はいままで気づかなかった自分を発見し、自己像(自分自身についての理解)を刷新しているのだが、それは結局、自己了解が生じていることと同じである。(中略)「無意識」とは自己了解の後に想定された観念であり、無意識が実際に発見されるわけではない(P. 192-193)。

 こういった自己への気づきが自己了解を生む。この自己了解こそが生きる意味と自由の意識を両立させるための必要条件となる。

 「自己決定ができたときのみ、自由と承認は両立する可能性を持つ」(P. 180)

 ここまでは自分だけの問題とも言える。つまり、自らの行動の指針を、羅針盤を自分の中に持つこと。そして、それに沿って行動することが自由である、と。しかし、問題はその先にある。現代は多様な価値観の時代であり、相対主義とニヒリズムの蔓延した状況にある。つまり、自己了解・自己決定のもとに行われた行動が必ずしも承認に繋がるとは限らない、ということだ。こうしたところから、コミュニケーション能力の重要性が説かれる理由が伺える。

 確かにコミュニケーション能力は大事だが、そこにとどまっていては承認を確保できたとしても自由を確保することが難しくなる。この状況を打破するためには「自己了解」だけではダメなのだ。

 承認欲望のほうが真実であり、利他的な動機は偽り(偽善)にすぎない、と言いたいわけではない。二つの動機は分かちがたく結びついており、両者相俟って価値の一般性、普遍性を求める気持ちが強くなる。人間は他者の承認や批判を繰り返し経験することで、普遍的な価値それ自体(「事そのもの」)を求めるようになる。(中略)それは承認欲求のような利己的な動機だけでなく、こうした利他的な動機の相乗効果によって強化されるのだ。
 このようにして、「一般的他者の視点」から自分の行為や知識・技能、作品などの価値を確信できるなら、周囲の承認が得られなくても自分の存在価値を信じることができる(P. 112-113)。

 「一般的他者の視点」は、「さまざまな他者を想像し、彼らを考慮に入れた上で、彼らが同意するような判断を見出そうとする努力」や「さまざまな価値観を理解し、なぜそのような考え方をするのか、その理由(動機)を考える」ことで身につくものであり、一朝一夕にはいかない。しかし、信念対立を乗り越えるためにはこれしかないのではないだろうか。

 現在、至るところで信念や価値観のぶつかり合いが生じている。まずはこの土俵に乗らないこと。そして、なぜそのような状態になっているのかを理解しようと努める。その上で、「メタレベルで一般性のある価値」を求めていく。これしかない。それはその時にそうとわかるようなものではなく、いずれ何とはなしに理解されるような類のものなのだろう。

 たぶんに抽象的になってしまっていることは重々承知しているが、こういった問題にはおそらく明確な答えなど存在しない。書籍などに答えを求める態度がもうすでに間違っていると思うのだ。それは行動の先に、行動したものの前に開けてくる。そういうものに違いない。
 

にほんブログ村 病気ブログ 薬・薬剤師へ

薬剤師ブログタイムズ ブログランキング参加中! クリックしてこの記事に投票

 

|

« 日経DI 11月号のDIクイズ2を担当しました | トップページ | 日経DIクイズ18発売 »

(16) 今月の1冊(ひのくにノ本棚)」カテゴリの記事

コメント

承認欲求が上手にコントロールできれば、いろいろな面で物事がうまくいくようになると思うけれど...。実際には承認欲求が強くなり過ぎて、いろいろな問題や人間関係トラブルを起こしがち。

投稿: MoriKana承認欲求コントロール | 2017年8月26日 (土) 12時47分

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 承認不安から脱出するためには?:

« 日経DI 11月号のDIクイズ2を担当しました | トップページ | 日経DIクイズ18発売 »