「知性がなければサッカーはできない」
「何を、どう考えるべきか。
それさえ明確に意識できれば、答えはすでに出ている。
あとは具体的にどうすればいいいかだけだ」
急いてはいけない [ イビツァ・オシム ] |
【ノーマルに生きる】
どうしてあなた方はいつも同じ質問をするのか。自分たちの弱さを告白し、他人に答えを求める。そんなふうに考えること自体が、弱さに正面から向き合っていない証拠だ。(中略)もう少し自分に自信を持つべきだ。すでに進歩しているではないか。ノーマル(普通であること。正常であること)であり続けるべきだ。かつてあなた方がつねにそうであったように。あまり過度な爆発(爆発的な進歩や変化)を期待するべきではない。多くのことを学んで、爆発ですらノーマルなものとして実現する。(イビチャ・オシム『急いてはいけない』ベスト新書 P. 20-21)
「ノーマル」オシム哲学の鍵概念。しかし、僕らはいろんなことに急かされていて、ノーマルに生きることが難しくなっている。だからオシムは、タイトルにもあるように、「急いてはいけない」とアドバイスを送る。さらに、急ぐと潰されてしまうとも。
ノーマルに生きるためには自信を持たなくてはならない。そのためには努力をしつづけなければならい。そして、プレーをしなければ自信というものは得られないし、すべての分野において最高になる必要はない。
では、その努力はどのようになされるべきなのか。急かされていても、まずは立ち止まる。そして、落ち着いて考える。何を、どう考えるべきか、を。
【コレクトでありつづける】
もうひとつは「正しい(コレクト)」とは何かという問題がある。正しいと思い込むのと、現実に的確に行動するのとはまったく別のことだ。というのもすべてが「正しく」なり得るからだ。監督は正しい練習を実戦する。フィジカル、テクニック、戦術に関して、監督は正しく練習を行う。内容も実践方法も、また目的も意図も、多かれ少なかれ正しい。だが「正しい」というのは、できる限り最高の仕事をすることであり、それこそが「正しい」の意味だ。より具体的には、選手やチームに必要なことを的確に行うことであって、「正しく」働くことではないし、選手が好まないことを「正しく」行わせることでもない。(イビチャ・オシム『急いてはいけない』ベスト新書 P. 95-96)
「コレクト」オシム哲学のもう一つの鍵概念。つねにコレクトであることもまた難しい。コレクト(適切)に対応するということは一人の問題ではないからだ。それは環境に左右される。コレクトでありつづければ、現実に的確に行動できれば、必ずいい雰囲気が作り出せる。それはノーマルでありつづけるための自信や不断の努力へとつながるはずだ。
そう、正しいというのは、思い込みではなく、「できる限りの最高の仕事」を提出すること。だから、それは仕事によって評価されるべきものなのだ。
【ディテールを保存する】
私が思うにサッカーとは唯一無二の「氷の塊」であり、他に類のないオリジナルなひとつの人生だ。サッカーのすべての出来事、人生で起こるすべての出来事は、この氷の塊の中に見ることができる。氷の中に、社会の中の自分のイメージを見いだせる。自分が語ったすべての言葉、待ち望んでいるすべてのものとともに。それらは決して避けて通ってはならないものだ。言葉も思いも氷の中で結晶化している。だから、それぞれのテーマごとにカットされたビデオテープを頭の中に持つべきだ。それぞれのビデオテープに、必要なものを映し込んで保存する。経験をそこに保存する。そして必要なときに取り出して見る。ディテールを保存しておけば、何かあったときに少なくとも確認することができる。(イビチャ・オシム『急いてはいけない』ベスト新書 P. 195)
なぜ、うまくできないのか。いいプレーが生まれないのはなぜなのか。それはディテールがあいまいなままだからだ。ディテールがあいまいなままでは、やるべきことをしっかりと詰めることなどできない。抽象的な目的のままでは、具象の世界では何が起こるかはわからないからだ。どのように具現化するか。そのとき参考にすべきものは経験であり、教えである。しかし、どちらもディテールを取り出して確認できるように保存しておかなければならない。
ジャーナリズムにおいて重要であるのは、同じことを繰り返さないことだ。(中略)異なる論理、異なる言葉で語られるのは、そのテーマに魅入られているからであり、テーマを進化させているからに他ならない。真摯にサッカーを追いかけている証拠だ。(中略)自分の経歴を誇示するつもりはないが、そんなふうに生きていかねばならないし、考えていかねばならないと思っている。他の人々のために働き始めねばならないかも知れない。未来のために。未来は彼らのためにあるのだから。(イビチャ・オシム『急いてはいけない』ベスト新書 P. 196)
僕らは考え、決断し、行動する。しかし、自分がしたことをもう一度考えてみるということをあまりしない。だから、記録する。記録することは振り返ることでもあるからだ。そして、それを残し、公開すれば、未来のためになるかもしれない。だから、続けていこう。
「チームメイトのためにスプリントをする」「誰もがチームのために走る」サッカーとはそういうもので、それを理解して始めて、コレクトでありつづけることができる。立っているだけでは何も始まらない。そういう「知性がなければサッカーはできない」のだ。
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