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2016年9月30日 (金)

ジゴキシンの中毒域と有効治療域に明瞭な境界は存在しない

つまり、オーバーラップ域が存在する。
薬力学的な視点。
ジギタリス中毒を起こしやすい病態と相互作用。

 コラムでは薬物動態学的なジゴキシンの相互作用を扱ったので、今回のブログでは薬力学的な観点を補足しておきたい(参照:ジゴキシンとの併用、このP-gp阻害薬に注意!)。

ジゴキシンの有効治療血中濃度範囲は一般的に 0.5 ~ 2.0ng/mL(血清中濃度)と考えられており、その範囲は非常に狭い。実際には中毒域と有効治療域の間には明瞭な境界はなく、オーバーラップ域が存在する。その一因としては、低カリウム血症、高カルシウム血症、低マグネシウム血症などの電解質のバランスが崩れた状態、腎疾患のある患者、血液透析を受けている患者、甲状腺機能の低下している患者、交感神経系緊張の亢進した患者、心臓に器質的変化のある患者及び高齢者等では、上記有効治療血中濃度範囲にあっても中毒を起こす可能性がある。従って、血中濃度だけを指標にした治療ではなく、臨床家の正確な臨床状態の把握とジゴキシン中毒症状の知識が必須のものとなる。また、経口投与されたジゴキシンは主に小腸上部で吸収されるが、極性が高いために吸収は不完全であり個体差も大きい。加えて他剤との相互作用も体内動態に影響するため、患者個々において十分な観察が必要である。

 (ジゴキシン錠0.0625「KYO」/ ハーフジゴキシンKY錠0.125/ ジゴキシンKY錠0.25のインタビューホーム P. 12より引用)

 ジゴキシンの中毒域と有効治療域の間にはオーバーラップ域が存在する。引用太字で示した病態においてそれは現れる。つまり、ジゴキシンの感受性が増しているのだ。このような患者に対して、ジゴキシンを投薬する際には中毒の発現に注意が必要となる。実際、そういった患者ではジゴキシン濃度が0.5ng/mL未満においても十分な効果が得られる可能性がある。

 ちなみにジギタリス中毒の特徴は次の通り。

 ジギタリス中毒:高度の徐脈、二段脈、多源性心室性期外収縮、発作性心房性頻拍等の不整脈があらわれることがある。また、さらに重篤な房室ブロック、心室性頻拍症あるいは心室細動に移行することがある。初期症状として消化器、眼、精神神経系症状があらわれることが多いが、それらの症状に先行して不整脈が出現することもある。このような症状があらわれた場合には、減量又は休薬するなど適切な処置を行うこと。

消化器:食欲不振、悪心・嘔吐、下痢等
眼   :視覚異常(光がないのにちらちら見える、黄視、緑視、複視等)
精神神経系:めまい、頭痛、失見当識、錯乱、譫妄等

(ジゴキシン錠0.0625「KYO」/ ハーフジゴキシンKY錠0.125/ ジゴキシンKY錠0.25のインタビューホーム P. 26-27より引用・改変)

 次に、ジゴキシンの作用を増強する併用注意の中からジゴキシンの感受性に関するものをピックアップしていく。

1 この薬剤は現在ない。。。

2 Kを排泄する利尿薬は要注意

3 効き過ぎや漫然投与に注意

4 ここも電解質異常

5 ファンギゾンは吸収されないor注射

 ということで、電解質異常のものが並ぶ。特に注意すべきは低K血症。ジゴキシン中毒が疑われたら、投与の中止と血中のKの正常化をいちばんに考える。

 なぜ、低K血症(3.5mEq/L以下)になるとジゴキシンの感受性が高まるのか。それはジゴキシンの薬理作用を考えれば理解できる。

ジゴキシンはリン酸化されたNa+、K+ - ATPase αサブユニットに結合して阻害することで、Na+の流出を減少させ、細胞内Na+濃度を増加させる。これがNa+ - Ca2+交換の原動力となり、結果として、細胞内 Ca2+が増加し心筋収縮力が増加する。

 (ジゴキシン錠0.0625「KYO」/ ハーフジゴキシンKY錠0.125/ ジゴキシンKY錠0.25のインタビューホーム P. 11より引用)

 ジゴキシンは、心筋細胞膜のNa+/K+-ATPase阻害(Na+-K+ポンプ)を直接阻害する。つまり、Na+を細胞外へ流出させ、K+を細胞内へ取り込むことから始まっている。このとき、血中(心筋細胞外)のK+が減少しているとどうなるだろう。そう、取り込むものが少ないわけだから、K+の流入は抑制される。それは、ジゴキシンの作用が強くなったようなもの。つまり、ジゴキシンの感受性が亢進する、というわけだ(反対に高K血症となれば、当然、ジギタリスの作用減弱が起こる可能性がある)。

 また、低K血症を注意する併用薬は上記のものだけではない。芍薬甘草湯など特に注意を要するものが網羅されていない。こういう注意は薬剤を超える。「CASE 184 ザイティガ錠の併用注意について」にで扱った資料はここでも役に立つだろう。

Z2_2

 さらに、下痢・嘔吐に伴う低K血症においては、ジギタリス中毒を起こしやすくなる。これに下痢・嘔吐・発熱に伴う脱水が加わると、ジゴキシンの血中濃度の上昇も加わることになるり、そのリスクはさらに高くなる。

 ちなみに、薬歴に記録する際のSOAPで言うと、O情報に患者の病態やそれをもたらす併用薬が記録されることになる。そして、ジゴキシンの感受性アップといったアセスメントがなされ、ジゴキシン中毒の初期症状を伝える、併用薬を控えめにする、といった薬歴が完成することになるだろう。

 S) (主訴)

 O) (低K血症になる併用薬や病態など)

 A)  低K血症によるジゴキシンの感受性アップの恐れあり

 P) 不整脈や消化器、眼、精神神経系症状→すぐに受診
    甘草含有漢方薬などを控えめにする等

 といった薬歴の雛型は初学者には有用かもしれない。

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2016年9月23日 (金)

【ファーマシストマガジン特集コラム】薬学関連用語についての考察

POS SOAP コンプライアンス アドヒアランス
ポリファーマシー 集学的治療 ・・・・・・
概念そのものへの理解とその背景

【ファーマシストマガジン2016年9月号の特集コラムを担当しました】

Photo

 ブログやコラムを通して発信を続けていると講演依頼が舞い込んでくることがあります。私の持ちネタは3つ、“薬歴の書き方”と“学術ネタ”、そして“勉強の方法”です。どれにするかは先方次第なのですが、かなりの確率で“薬歴の書き方”が選ばれています。私の知名度を上げているのは学術的なコラムのはずなのに、講演のニーズは薬歴にあるわけです。薬歴の講演は、・・・

続きは以下のリンクからご覧ください

2015年9月号の特集コラムも担当しています。
技術の継承なくして職種全体の技術の向上はありえない


お時間のあるときにぜひご覧ください。

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2016年9月16日 (金)

2016年9月のコラム ~ジゴキシンとP-gp阻害薬・誘導薬~

2016年9月の薬局にソクラテスがやってきた
ジゴキシンとP-gp阻害薬と誘導薬。
その併用によって、何が起きるのか?


【第68回】


 ジゴキシンに併用禁忌はなく、原則併用禁忌として注射用製剤だけが名を連ねている。

1

 しかし、併用注意の数はとても多い。その中には臨床的にはあまり意味のないものから、ジゴキシンの量を調整しなければ危ないものまで玉石混淆の様相を呈している。

 汎用薬としてはCAMとの併用には特に注意が必要で、できれば併用は避けるべきだろう。除菌などでどうしても併用が必要な場合は、あらかじめドクターと相談の上、併用時にジゴキシンを減量するようにしたい。

 また、記事でも触れたように、「ジゴキシンはP-gpを介した薬物相互作用研究のプローブ薬となっている」ために、今後も併用注意の数は増えていくことになる。その都度、その相互作用の重みづけをしていくしかないだろう。

【第69回】


 ジゴキシンとP-gp誘導薬の相互作用についての考察記事。ジゴキシンの添付文書にはP-gp誘導薬としてリファンピシンとSJWが挙げられており、その類似点と決定的な相違点について触れたみた。

 この誘導に起因する相互作用というのは、薬理作用の過剰発現や中毒による副作用が現れるわけではないので、その影響自体が表面化しにくいケースが多いのではないだろうか。そういう意味では見つけにくいものなのかもしれない。もうすでに併用状態で落ち着いてしまっているケースもあるだあるだろうし、SJWを除いたリファンピシンなどは飲まないわけにはいかない薬ばかりで、併用を避けること自体が難しい。

 だが、何が起こるのか、または何が起こっていたのかを予想することはできる。そう、予想できることこそが僕らの強みなのだ。


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2016年9月 9日 (金)

ベルソムラの併用注意についての考察

2016年11月25日追記 

~2016年11月18日にベルソムラ錠10mgが発売~

ベルソムラ錠 使用上注意改訂のお知らせ
ベルソムラ錠 添付文書

111

以下の過去記事のケースでは、10mg錠へ減量となります。

ベルソムラの弱点。
併用注意もかなりのAUC上昇。
やはりもう少し下の規格が欲しい・・・。

CASE 185

男性 60歳 

他科受診:なし  併用薬:なし  運転(+)  アルコール(-)

処方(1,2は定期、3が追加となる):
Rp1) ヘルベッサーRカプセル100mg  2C 分2 朝・夕食後  28日分

Rp2) バイアスピリン錠100mg 1錠 
    クレストール錠2.5mg   1錠 分1 朝食後  28日分

Rp3) ベルソムラ錠20mg  1錠 分1 就寝前 28日分

患者のコメント:
「どうも最近眠れなくて・・・。でも睡眠薬を飲んでいて、地震が起きたらと思うと心配でね。先生に相談したら、今日のなら大丈夫、と」

患者からの情報:
① 日中はきついが昼寝はしていない(リズム異常なし)
② 夕食19時、就寝23時くらいで、夜食の習慣なし

疑義照会:
(内容)ヘルベッサーとの併用でベルソムラの[C]2倍に。15mg錠を提案。
(回答) Rp3) ベルソムラ錠20mg→15mgへ変更

□CASE 185の薬歴
#1 ベルソムラ初回服薬指導と不安へのアプローチ
 S) どうも最近眠れなくて・・・。でも睡眠薬を飲んでいて、地震が起きたらと思うと心配でね。先生に相談したら、今日のなら大丈夫、と。
 O) リズム異常なし。19時夕食、23時就寝、夜食習慣なし。
ヘルベッサーを服用中のため、疑義照会にて、ベルソムラ錠20mg→15mgへ変更。
 A) 不安に対してのアプローチが必要。また、ベルソムラを減量したものの、なお30mg相当の用量と考えられる。
 P) 従来の睡眠薬とは異なり、生理的な睡眠に近い自然な眠りをもたらします。そのため、地震などの外からの刺激があったときにはすぐに起きることができますし、力が入りにくいといった作用もない薬なので安心してください。就寝30分前くらいの服用がオススメです。また、夢を見るかもしれませんが、なくなっていきます。ただし、翌日まで持ち越し、運転に支障が出るようなら中止してください。
 
□解説
 ベルソムラはCYP3A4の基質薬でCYP3A4阻害薬の影響を強く受ける(下記、引用はベルソムラのIFより)。

①ケトコナゾール
健康成人(10例)を対象に、本剤(4 mg 単回)と CYP3A を強く阻害するケトコナゾール(400 mg 1日1回経口反復)11日間反復投与の2日目に併用した際、スボレキサントのCmax及び AUC0-∞は23 %及び179 %増加した

 強いCYP3A4阻害薬との結果が上記であり、これを受けて併用禁忌の薬剤が設定されている。

 併用禁忌:CYP3Aを強く阻害する薬剤(イトラコナゾール、クラリスロマイシン、リトナビル、サキナビル、ネルフィナビル、インジナビル、テラプレビル、ボリコナゾール)

②ジルチアゼム
健康成人(18 例)を対象に、本剤(20 mg 単回)をジルチアゼム(240 mg 1 日 1 回反復)6 日間反復投与の 2 日目に併用した際、スボレキサントの Cmax 及び AUC0-∞は 22 %及び105 %増加した。

 中等度のCYP3A4阻害薬との併用が上記。これに加え、「15mg 錠よりも低含量の減量のための製剤がないため」、併用注意に設定されている。

 今回の症例では、地震時への不安がまずあり、BZD系やZ-DrugなどのGABAA受容体作動薬は不適と考えられる。さらに、リズム異常はない。たしかにベルソムラが最適ではあるが、最初の処方のままだと(ヘルベッサーとの併用のために)、ベルソムラの血中濃度は40mg相当にまで達してしまう。

 また、ベルソムラには割線がなく、データが存在しないために半割・粉砕は好ましくない。

 光及び湿気を避けるため、PTP シートのまま保存し、服用直前に PTP シートから取り出すこと。錠剤が粉砕された状態での薬物動態解析、有効性試験、安全性試験は実施されておらず、その有効性・安全性を評価する情報は存在しない。
以上の理由により、本剤の粉砕投与は推奨されない。

 そこで、ベルソムラを15mgへの減量を提案し、採用となる。ただし、それでもベルソムラ30mg相当の血中濃度になると考えられるので、患者への不安に対応しながら、持ち越しについても注意を促している。
 
□考察
 ベルソムラの弱点はその用法・用量にある。高齢者か否かどうかで15mgか20mgに振り分けられる。米国では5mgや10mg製剤が存在する、と耳にすれば、余計に不安になるではないか。ベルソムラの持越し効果関連の有害事象の発現割合や自動車運転能力に対する影響には、用量依存性が認められているのだ。

 CYP3A4の強力な阻害薬は併用禁忌、中等度の阻害薬は併用注意。じつにシンプルでわかりやすい。しかし、併用注意の対応はじつに難しい。

重要な基本的注意とその理由及び処置方法
(3) CYP3A を阻害する薬剤(ジルチアゼム、ベラパミル、フルコナゾール等)との併用により、スボレキサントの血漿中濃度が上昇し、傾眠、疲労、入眠時麻痺、睡眠時随伴症、夢遊症等の副作用が増強されるおそれがあるため、併用は治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合のみとすること。やむを得ず併用する際には患者の状態を慎重に観察し、副作用発現に十分注意すること。

 今回の症例は有益性を重視したわけだが、不安はぬぐえない。そもそも血中濃度2倍で、剤型的に対応できない併用注意なんて、どうなのだろう。それに対して、メーカー側の言い分はこうだ。高用量(非高齢者 40 mg、高齢者 30mg)群でも安全性は確認されていたが、有効性に大差がないために低用量(非高齢者 20 mg、高齢者 15 mg)群が採用になっただけだ、と。

 しかし、PMDAは「第Ⅲ相試験で示された低用量と高用量の有効性を比較したときに、本剤低用量と比較して高用量でリスクを上回るベネフィットが示されていると結論することは困難であり、本剤高用量を承認用量に含めることは適切ではないと考える」と述べているし、今回の事例ではちょっと事情も異なる。審査報告書に目を通すと、ベルソムラのBAは高用量になればなるほど低下するようなのだ。

単回経口投与時の絶対的バイオアベイラビリティ(以下、「BA」)推定値は、本剤 10、20、40 及び 80 mg において、それぞれ 0.82、0.62、0.47 及び 0.37 であった。

 ということは、今回の症例における“ベルソムラ30mg相当”という僕のアセスメントは過小評価なのかもしれない。

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2016年9月 2日 (金)

文章を書くときと読むとき、そしてしかるべき距離について

「結局のところ、桜の価値は、咲こうとする意志にではなくて、散る覚悟に求められる」(P. 67)


商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。お買い物される際には、必ず商品ページの情報を確認いただきますようお願いいたします。また商品ページが削除された場合は、「最新の情報が表示できませんでした」と表示されます。

超・反知性主義入門 [ 小田嶋隆 ]
価格:1620円(税込、送料無料) (2016/8/28時点)


 最近、SNSの利用に制限をかけている。手持無沙汰なときにTwitterのタイムラインをスクロールすることはままあるけれど、積極的な発言をすることはなくなったし、フェイスブックも週に1回くらいしか開かなくなった。現実が充実しているとか、そんなことではない。僕の考えが揮発してしまうからだ。垂れ流した考えは回収されることなく、また浮かぶとも限らない。以前はすべてノートに書き付けていた。が、SNSで発信したものをわざわざノートに収めるようなことはしない。二度手間だし、発信したことで満足してしまうからだ。さらに、次のような不安もある。

 何かを思うことと、それを口に出すことの間には、しかるべき距離がある。当然の話だ。アタマの中で考えたことを、その場ですべて声に出して良いのは、幼児と独裁者だけだ。(中略)もしかすると、考えることと発言することの間の距離(ないし時間)を喪失したことが、われわれがデジタルコミュニケーションツールを手に入れたことによって獲得した副作用のうち、最も致命的なものなのかもしれない。

(小田嶋隆『超・反知性主義入門』日経BP社 P. 30-32)

 致命的な副作用。そう、ネット上でのトラブルの元はそのほとんどがこれなのだろう。また、しかるべき距離がなければ、想像力を発揮することもできない。そして、アイデアのシーズとも言うべき塊が雲散してしまうのも同じ理由による。時間というしかるべき距離がないために、タイムラインが流れていってしまうために、その塊はついに発酵することがない。これはじつにもったいない、と自分のノートをふりかえったときに気がついたのだ。

 アイデアがある程度の形になり、これはおもしろい、と思うものを記事にする。この時点で気をつけていることがある。意識していても、強力な後ろ盾や虎の威的なものがあったときにはついつい忘れてしまう。それは啓蒙的な記事に終始してしまうことだ。そして、しまったと後悔することになる。

私が啓蒙的な運動をしている人々に反発を頂くのは、彼らが、人々をバカにしているように見えるからだ。彼らは、情報を告知することで世界が変えられると思っている。告知と宣伝で、人々を動かせると考えている。その前提で私はうんざりするのだ。なぜなら、彼らの前提が暗黙のうちに語っているのは、自分たち以外の人間が、正確な情報を知らないという認識だからだ。彼らは、そういう無知な大衆に福音を知らしめることが、世界の様相を改善するための第一歩だと信じている。その裏には、人々が無知で、愚かで、享楽的で、近視眼的だという思い込みがある。

(小田嶋隆『超・反知性主義入門』日経BP社 P. 174)

 そんなこと思ってはいない、そうはいってもこの手のことは読み手がどう感じるかなのだ。出来のよい記事が書けた、といった自信のあるときにほど気をつけないといけない。

 読み手はじつに多様な環境にある。にもかかわらず、主語を一つにして啓蒙的な情報活動をしてしまっては、そう思われても致し方ない。日本語の特徴の一つに、主語の省略がある。そして、省略された主語の有力な回答は“私たち”だ。だから、その“私たち”に混ざりたくない、と思われないようにメッセージを届ける。それは記事の内容の重要性とはなんら関係がないことなのだ。

 だが、とも思う。難しい問題に対して、結局のところどうなんだ、お前の言いたいことは何なのだ、答えになっていないのではないか、といった意見には僕は賛同しない。

 でも、私に言わせれば、登録無料のウェブマガジンの中に「答え」が書かれていると思っている時点で、その人間はビジネスパーソンとしてはほぼ使いものにならない。もちろん、…役に立つ記事が無いわけでもないし、目からウロコの落ちるタイプのテキストが皆無だというのでもない。

 ただ、文章を読む際の基本姿勢として、答えを探しに行くタイプの読み方は、根本的に間違っているぞ、ということだけは申し上げておきたいのだ。文章は楽しむために読むものだ。楽しく読んで、面白く時間をツブせればそれで十分。そういう中で、結果として、後になって振り返ってみて、あの時に読んだあの文章は、自分の中でこんなふうに役立っていた、というケースがあるかもしれない。

 と、そういうお話なのであって、ページを開く前の段階から、何か役に立つことを取り入れるために本を読むみたいな態度は、明白な間違いではないのだとしても、人としてあさましいマナーだと思う。

(小田嶋隆『超・反知性主義入門』日経BP社 P. 250-251)

 まあ、こういった話は通じない人には通じない。あなたがお金を払って手に入れた書籍に対しての書評ならば、話は別だ。著者は対価に、タイトルに見合うものを提供する義務があるだろう。しかし、無料の文章を読んで、その文章は失格だ、というのは当たらない。

 ましてや、新しい情報がなければ意味がない、というのもどうかしている。僕らの世界の基礎的な部分は「変わらないこと」によって保たれ支えれているのだ。

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