« 2016年6月 | トップページ | 2016年8月 »

2016年7月29日 (金)

主人公が持ち歩いているモノは?

「部屋を出る時、拳銃の中から弾丸を一つ、抜き取った。私はそれを、自分の守りのように、取っておこうと思った」(P. 173)


銃 [ 中村文則 ]
価格:583円(税込、送料無料)


 「昨日、私は拳銃を拾った」この最初の一文が僕をこの物語に引き込むと同時に、僕はある小説を思い出す。夏の葬列 [ 山川方夫 ]に収められている短編『お守り』だ。

 『お守り』に登場する関口はダイナマイトを所持している。関口は言う。「ああ、なんという画一性!」「ぼくは任意の一点なんかではない」。そして、他の誰でもない自分をつかまえるために手に入れたお守り、それがダイナマイトだった。

 「みんな、なんとかかんとかいっても、規格品の生活の外に出ることができまい。でもおれは、いざという気になりゃ。いつでもこんな自分もお前たちも、吹きとばしてやることができる・・・・・・こっそり自分がそんな秘密の力を握っていること、考えあぐねた末、それがやっとみつけた僕の支えだったわけさ。つまり、これがぼくの特殊性さ」

(山川方夫『夏の葬列』集英社文庫 P. 43)

 特殊性。そう、関口は積極的にそれを手に入れる。しかし、じぶんそっくりの人間が同じくダイナマイトを持っていたことを知り、それはもうお守りでもなんでもなくなってしまう。

 これに対し、“私”は偶然、銃を手にすることになる。偶然もたらされた銃、その「吸い込まれるような存在感」が“私”に「畏怖の念」を与える。そして、「可能性を手中に収めたこと、その刺激の固まりこそが重要である、実際にそれをするかどうか、したいかしたくないかは問題ではなかった」はずだった。だが、その非日常性が明らかに“私”を変えていく。

 モノを所有することで、どちらの話も主人公が変わっていくのだが、その変わり方が違う。銃はさらに、“私”の内部へと深く浸透していく。

拳銃は私に、早く撃つことを要求した。拳銃は私の全てだった。拳銃のない私は無意味であり、私は拳銃に激しい愛情を向けていた。が、拳銃は、私に冷たかった。私がその黒に覆われていくことにも、拳銃には関心がないような、そんな気がし、私は発狂しかけた。そして、私は拳銃を使っているのではないのだ、と思った。私が拳銃に使われているのであって、私は、拳銃を作動させるシステムの一部に過ぎなかった。

(中村文則『銃』河出文庫 P. 168)

 サルトルの「実存は本質に先立つ」を彷彿とさせる。拳銃は殺人という思想を内包する。そのためにある。一方、人間はまず実存し、あとになってはじめて人間となる。自ら作るところのもの以外の何ものでもない。ここから選択、自由、責任、孤独、不安といった派生概念が生まれることになる。

 “私”は選択したはずだった。そして、「安堵と悲しみの入り混じった、不思議な嗚咽」をもらし、泣く。銃を捨てることを選択した“私”は「自分が存在しているということを、よく噛みしめるようになった」。“私”はようやく人間になろうとしていたのだ。だが、自由をはき違え、責任を逃げにすりかえようとして、この小説は終わる。

 「おかしいな」「おかしいな」というフレーズが余韻とともにフェードアウトしていく。

 読み終えて、こうも感じた。ダイナマイトと銃。なんだか資格と崇拝の話のようだ、と。そして、堀江敏幸の言葉を思い出す。「個性的たろうとする者は、要するに凡人なんだ」。僕ら凡人の悲しい事実。

にほんブログ村 病気ブログ 薬・薬剤師へ

薬剤師ブログタイムズ ブログランキング参加中! クリックしてこの記事に投票

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年7月22日 (金)

コラムへの質問の回答と勉強会のご案内

2016年7月の薬局にソクラテスがやってきた」その2
メトホルミンの体内での動きをトレースしてみる
で、お寄せいただきました質問への回答です!

【グリーンブックについて】

記事で紹介されていた日本腎臓病薬物療法学会誌の特別号(通称:グリーンブック)は、今からでも学会に入会すれば手に入れることが可能でしょうか?

 今からでもOKです。今年もうすでに2冊の学会誌が発行されていますので、学会の会計年度末である8月31日までに会員になればすぐに2冊(うち1冊が特別号)が送られてくるはずです。

 また、じほうから発行された『腎機能別薬剤投与量 POCKET BOOK』は、じほうが会員全員(1400冊)に配布することを条件に学会が作成した本ですので、会員数が1400人を超えない限り、もらえるはずです。

 ということは、8000円の年会費を払えば、6000円相当の特別号(グリーンブック)と税込み3456円のPOCKET BOOKがついてきますので、今年の会員は1500円程度がタダでもらえるのと一緒ということになります。

 なんてお得なのでしょう! 入会の手続きはこちら


【ある薬学生さんからの質問】

臨床現場においての薬を扱う薬剤師の理論的な説明に深く感銘を受けております。私はある薬学生なのですが、実は、なかなか文章における理論的な説明に乏しく、困っています。科目ごとのかかわりを相互に見ることでの理解は可能であるのですが、ことそれの流れを説明することが難しく感じております。メトホルミンにおける薬物動態イメージトレースと同様に何をどのように考えて、理論を持っていくのかのコツとかをもし教えて頂ければ、ありがたいので、お願いします。自分だけではなく、教えた人みんながわかる説明ができるようになりたいのでよろしくお願いします


 学生のうちは情報がフラットなのかもしれませんし、現場に出ると、環境によって、得意な分野や薬剤が出てきます。そういうものなら、知識の断片をうまく組み合わせることができるようになるのではないか、と想像します。そこから始めていけばいいかと。

 コツと言われてもよくわからないのが本音でして、知識の断片がいっぱいあれば、それらが自ずとつながるようになってきます。そのときに動態パラメータがあれば、肉付けした内容でイメージトレーシングができるというわけです。

 これから予定されている参考になる勉強会を紹介しておきます。ちょうどいま扱っている内容とマッチしますし、とっても期待できる内容です。

222

にほんブログ村 病気ブログ 薬・薬剤師へ

薬剤師ブログタイムズ ブログランキング参加中! クリックしてこの記事に投票

 

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年7月15日 (金)

2016年7月のコラム その2 ~トランスポーターと薬物動態~

2016年7月の薬局にソクラテスがやってきた」その2
薬物トランスポーターが動態にどう関わっているのか。
トランスポーターの相互作用がイメージしにくいのは?

【第64回】


 トランスポーター第2弾は、トランスポーターが薬物の動態にどのように関与しているのか、メトホルミンをイメージトレーシングしてみました。

 トランスポーターが関与した相互作用が起きる臓器というのは、その薬の標的臓器とは限らない。こういったこともトランスポーターが関与する相互作用がわかりにくい理由の一つなのかもしれません。

3


 記事の前半で使った資料は下の写真の特別号です(色は緑です)。日本腎臓病薬物療法学会にはぜひ今後もアップデートしていってもらいたいものです。

2_2

にほんブログ村 病気ブログ 薬・薬剤師へ

薬剤師ブログタイムズ ブログランキング参加中! クリックしてこの記事に投票

 

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年7月 8日 (金)

日本全国の慢性疾患患者の薬識がゆらいだ日

薬識は心の中にある。
ゆえに、薬識は常にゆらぐ。

日本全国で患者の薬識がゆらいだはず!

CASE 183

男性 60歳 

他科受診:なし  併用薬:なし

定期処方:
Rp1) バイアスピリン錠100mg  1錠 
    エナラプリル錠5mg  1錠 
    トラゼンタ錠5mg  1錠      分1 朝食後 28日分

Rp2)メトホルミン錠500mgMT  2錠 分2 朝・夕食後 28日分

Rp3)クレストール錠2.5mg  1錠
    ニフェジピンCR錠20mg  1錠 分1 夕食後 28日分

患者のコメント:
「ちょっと聞いていい? 週刊誌みた?
 クレストールを飲むと腎不全になるって本当?」

週刊誌:
飲み続けてはいけない薬のリスト①
「クレストールは腎不全になる可能性もある」(佐藤氏)

患者や薬歴から得られた情報:
① 医師には相談していない
② クレストールは不安を感じながらも続けている
③ 心筋梗塞歴(+)

□CASE 183の薬歴
#1 クレストールの薬識を是正する
 S) クレストールを飲むと腎不全になるって本当?
 O) 週刊誌を見て、不安を感じつつも服薬を続けている
 A) クレストールの薬識ケアが必要!
 P)逆です。クレストールが腎臓を悪くするのではなく、腎臓の悪い人がクレストールを服用すると、思った以上に効き過ぎってしまって、副作用の恐れがあるんです。その程度の信ぴょう性です。
 R) 聞いてよかった。心筋梗塞やってるから飲まないといけないよね。
 
□解説
 週刊現代の「飲み続けてはいけない薬リスト」。これを目にした患者のクレストールの薬識はゆらいでいた。つまり、“心筋梗塞の再発予防のために大切な薬”から“飲み続けることで腎不全になる薬”へと。活字になったこういう情報を目にして不安にならないわけがない。

 しかし、その不安は間違った内容の記事によるものと判明している。かつ不安を感じながらも服薬を続けてくれている。であれば、ゆらいだ薬識をまた元に戻せばいい。
 
□考察
 週刊誌第一弾のときの事例。今でも続編が続いているという。最新号では、というよりも新聞広告の見出しが話題を読んでいる。

糖尿病のジャヌビア 脳梗塞・心筋梗塞のプラビックス 高血圧のミカルディス コレステロールのクレストールほか
生活習慣病薬【被害レポート】5年飲み続けたら、こんな「後遺症」が残った

 なんでも記事を読んだ人間によると、スタチン系を続けると筋肉が溶けて腎不全になるから飲み続けてはいけない、と。いや、むしろ何年も飲んでいる人の方が、もうリスクは低いことが多いのだが・・・。

 確かに横紋筋融解症を起こして、適切な処置が取られなければ腎不全に至ってしまう。だが、そうならないように、副作用のモニタリングピリオドを意識した服薬指導を行うわけだし、医師は採血を行うわけだ。飲み合わせだって、お薬手帳などの活用を呼びかけているのはこういう重篤な副作用を引き起こさないためでもある。

 そもそも薬に効果がある以上、副作用もある。どちらか一方を、副作用面だけを煽った、さもすべての人があてはまるような情報を垂れ流す。バランスが悪いといった次元ではなく、もう品がない。品がないから生活習慣病薬をターゲットにするのだろう。だって、それが一番、部数が伸びるわけだから。それでも、そういったゴシップ的記事を読んで不安になった患者に対して、日々、時間をかけて説明していくのも僕らの仕事だと、もう半ばあきらめている。

 一部の施設では、「じゃあ、薬を変えましょう」と応じるときく。週刊誌の情報をもとに処方を変更するなんてことは本当はあってほしくない。だが、患者の理解力の問題もある。どちらにしても僕らにとっては迷惑この上ない話であることには変わりはない。

 話が脱線してしまったが、かように薬識というものは外部刺激によって簡単にゆらぐ。それは薬識の問題が、心の、感情の問題だからだ。とくに僕らは不安という感情にアプローチすることを忘れてはならない。
 

にほんブログ村 病気ブログ 薬・薬剤師へ

薬剤師ブログタイムズ ブログランキング参加中! クリックしてこの記事に投票

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年7月 1日 (金)

2016年7月のコラム その1 ~トランスポーターの取っつきにくさについて~

2016年7月の薬局にソクラテスがやってきた」その1
薬物トランスポーターの記事がすんなり頭に入ってこない理由。
知っておくこととイメージすること。

【第63回】


 CYP阻害薬にも飽きてきたので、今度はトランスポーターに手を出してみました。そもそもなぜトランスポーターはわかりにくいにか? そういうアプローチで迫ってみました。

63fig1rr


 例によって、僕は知識の断片をつなげるために“まとまったものを読む”わけですが、トランスポーターといえば、この一冊です。トランスポーターだけで200ページ以上あります。面白いですよ。


 ところで、P-gpはどのように表現されてますか? 添付文書をのぞいてみると、P-gpの基質であるジゴキシンには「本剤はP糖蛋白質の基質であるため、本剤の血中濃度はP糖蛋白質に影響を及ぼす薬剤により影響を受けると考えられる」とあります。一方、基質であり阻害剤のワソランには、「本剤は P‐糖蛋白の基質であるとともに, P‐糖蛋白に対して阻害作用を有する」となっています。

 “質”とか“‐(ハイフン)”ってあってもなくてもいい? 今回の記事から“P糖蛋白(P-gp)”で統一しようかと思います。それにしても添付文書の表現くらいは統一してもらいたいものです。

にほんブログ村 病気ブログ 薬・薬剤師へ

薬剤師ブログタイムズ ブログランキング参加中! クリックしてこの記事に投票

 

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2016年6月 | トップページ | 2016年8月 »