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2016年4月 1日 (金)

大事なものほどわからない

大衆人とは? その典型こそ僕らなのかもしれない。
「自己を迷える者と自覚しない者は、必然的に自己を失う」(難破者の思想)



それは全能でありながらその日暮らしなのである。大衆人とは生の計画をもたない人間であり、波のまにまに漂う人間である。したがって、彼の可能性と彼の権力がいかに巨大であっても、何も建設することがないのである。

(オルテガ・イ・ガゼット『大衆の反逆』ちくま学芸文庫 P. 67-68)

 大衆支配の予言の書ともいわれる『大衆の反逆』。本書での大衆人の定義がこれだ(この対極に位置する人間のことを「少数者」もしくは「真の貴族」と表現している)。能力はあるにもかかわらず、自分の方向を見出すことができない。つまり、行動することがない。

 この本を読んで思い出すのは、オルテガより前に大衆社会の予言したニーチェだ。

 「(前略)羊飼いはおらず、群れが一つあるだけ! 誰もが平等を望み、誰もが平等である。そう感じない者は、自分から精神病院に入る。
 『以前は、世の中がみんな狂っていました』―そう言って、お上品な連中がまばたきする。
 賢いので、起きたことはなんでも知っている。だから嘲笑の種が尽きることはない。口喧嘩もするが、すぐに仲直りする。―でないと、胃の具合が悪くなる。
 昼のお楽しみがある。夜の楽しみもある。だが健康には敬意を払っている。
 『わたしたちが幸せをつくりだしたのです』―そう言って、最後の人間がまばたきする」―

 (ニーチェ『ツァラゥストラ(上)』光文社古典新訳文庫 P. 30-31)

 この新訳では「最後の人間」と表現されている(以前読んだ他の翻訳では「末人」とされていた)、これが「大衆」だ。大衆は全能であって、なんでも知っているのに、何かをなすことはない。そして、すべてを煩わしく感じるから、平等を欲しているのだ。

 こういった警句に触れ、大衆にはなりたくない。そう感じる。それは悪いことではない。だが、大衆に対して嫌悪感を抱くようなら危ないかもしれない。なぜなら、大衆人には「大衆は大衆が大嫌い」という特徴があるからだ。

 わたしたちの社会は、たしかにニーチェが予言したとおりの大衆社会となりました。
 ただし、一点だけニーチェの予言ははずれました。それは大衆自身が「ニーチェ主義者」になってしまった「ニーチェ主義的大衆社会」になってしまったということです。まさかニーチェも、自分の説いた「大衆蔑視」の思想が、これほど大衆社会で「受ける」とは思っていなかったでしょうね。
 大衆は大衆が大嫌い。
 それが「ニーチェ主義的大衆社会」のきわだった特徴です。
 (中略)
 ある理論の批評性は、その理論の信奉者が少ないという事実に担保されているんです。

 (内田樹『死と身体 コミュニケーションの磁場』医学書院 P. 181-183)

 日本ではニーチェが受けた。そして日本にはニーチェ主義者がいっぱいいる。自分こそは超人である、と思っている大衆が大衆を嫌っている。

 また、オルテガは「今日の科学者こそ、大衆人の典型だ」とも言っている。

 歴史上前代未聞の科学者のタイプが現われた。それは分別ある人間になるために知っておかなければならないすべてのことのうち、一つの特定科学だけしか知らず、しかもその科学のうちでも、自分が積極的に研究しているごく小さな部分しか知らないという人間である。

(オルテガ・イ・ガゼット『大衆の反逆』ちくま学芸文庫 P. 157)

 その結果、大事なものほどわからないものなのだ、といったことが科学者や専門家には理解できない。そして、ただ科学に没頭するのは逃げである。なぜなら、科学の対象は常に抽象的であって、抽象的なものは抽象がゆえに明晰だからだ。

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