誰も言わないことを綴ることができるか? ~日薬分科会12の演者について~
11月の日薬大会が近づいているせいなのか?
この本を読みながら、まさに、熊谷さんと青島さんだなと。
【誰も言わないことを言う】
自分が感じていること、考えていることを発表するときには、できるだけ「自分が死んだら、これと同じことを感じたり考えたりする人がいなくなる」ことだけを選択的に語るほうがいいと思います。
(中略)「自分と同じ意見の人間が他にもたくさんいる」と宣言した瞬間に、その人は「いくらでも替えが効くので、いなくなっても別に困らない人」というカテゴリーにおのれを類別してしまう。
本人は気づいていませんが、「私はいなくなってもいい人間です」という自己申告は弱い酸のようにその人の生命力を蝕んでいきます。
ほんとうに。
命の力を高めるためには、「私がいなくなったら、誰もそれを言う人がいなくなるようなこと」だけを選択的に語ったほうがいい。
これは僕の経験的確信です。
自分以外の人でも言いそうなことはできるだけ言わないでおく。
誰でも言いそうなことをあちこちで言い募って時間を浪費するには人生はあまりに短いからです。
(内田樹『困難な成熟』夜間飛行 P. 284-287)
誰も言いそうにないことを書き連ねている薬剤師といえば? 日薬大会も近いせいか、熊谷さんと青島さんのお二人の顔が浮かぶ。
熊谷さんといえば「炎上」。温和な外見とは裏腹に肝が据わっている。ほんとうに。とても僕には耐えられそうにない。
炎上するということは、当然ながら、そのスレッドにいる人は賛同者ばかりではない。援護しようにも、火に油になりかねないこともよくある。そんなスレッドが展開するコラムリストは他にはいない。僕なんて、せいぜいミスを指摘されるくらいだ。
次に青島さん。青島さんはコラムではまだ節度を保っている(失礼!)。しかし彼はTwitterやFBにおいて、誰も言わないようなことを呟いている。たとえば「もう糖尿病という病名はやめて、『おしっこに、糖が出ちまうんだけど、いかがなもんでしょ症』くらいが良いのではないか」といったもの。もう糖尿病という病名をなくしてしまえ、と。おもしろい。こんなこと誰も言ってない(以下、青島さんの意図と違ってたらごめんなさい)。
糖尿病という病名を恣意的に作り上げたとき、血糖値は下げなければいけないものになった。「厳格な血糖コントロールを行うことで20%くらい死亡が増えるかもしれない」であってもだ。
いわゆる三大合併症を防ぐには、どの薬を使おうと、ある程度下げておけばいい。糖尿病性腎症だって、ある程度以上になると、血糖値よりも血圧のほうがより重要だし、いわゆる集学的治療が必要となる。いわんや、それ以上の合併症、CVDやガン、認知症などを防ごうと思ったら、血糖コントロールが主眼ではないでしょう。メトホルミンによる合併症予防効果だって、血糖コントロールによるものというより、AMPKの活性化を介した多面的な作用によるものだと僕は思っている。
米国糖尿病学会(ADA)は、2015年のガイドライン改訂において、すべての糖尿病患者に対してスタチンの投与を推奨している。これなんかも厳格な血糖コントロールだけを考えているようではダメだ、といういい例だ(その良し悪しはおいといて)。
【誰も気がついてないゴミを拾う】
もし、あならが「これからの日本を良くする」ことについて多少でも決定に与りたい、できるなら実効的にかかわりたいとほんとうに願っているなら、誰も気がついていない「床のゴミ」をまず拾い上げることから始めるしかありません。
ふつうそれは「まったく新しいタイプの社会的活動をはじめる」というかたちをとることになります。
だって、「誰も気がついてない床のゴミを拾う」わけですから、「あ、そんなところにそんなものがあったんだ……」という気づきから始まるのは当然のことですからね。あなたが誰も気づかなかった「床のゴミ」を見つけ、それを拾ったことで、場が新しいフェーズに上がります。そのフェーズにおいては、あなたがうるさく要求しなくても、あなたを「ハブ」にして、さまざまなものごとが動き出します。健闘を祈ります。
(内田樹『困難な成熟』夜間飛行 P. 81-82)
熊谷さんは毎週毎週、薬剤師界の床のゴミを拾いつづけ、日経DIOのコラムを牽引しつづける。僕も熊谷さんを「ハブ」にして、その一員に加わることができた。
青島さんもEBMの伝道師として、DIOはもちろん、JJCLIPやその他の活動を展開している。
そして、僕らのブログやコラムが読まれるかどうか。それは「誰も気がついてない床のゴミ」を拾えているかどうか。それと同義なのかもしれない。
【日薬大会鹿児島 11月23日(祝・月) 分科会12】
演題も出そろいました。こんなメンツでこんな内容の日薬なんて、過去に一度もなかったのでは? 僕自身もとても楽しみなんです。
たまたま発見!⇒日薬 “注目の分科会&ランチョンセミナー” (南薩薬剤師会)
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コメント
賛否あると思いますが、
私という薬剤師免許を持つ労働者は、いくらでも代えがきくと思っています。
しかし、私の思想、アプローチ等の存在は、固有のものであって他に存在しないものだと思ってます。
そこに感化される方が居ようが無かろうが、構いません。
ただ、そこに、私が存在しているのみだと思っています。
そこに、必要性を感じる方には、さらけ出すつもりであります。
その準備を日々行いたいと思います。
これは、私の決意です。
青島さんのことは残念ながら詳しく存じませんが、山本先生、熊谷先生は、嫉妬するほどに尊敬する素晴らしい方々だと思っています。
酒酔いの中の投稿であります。
あとからみて、後悔するかもしれませんが、尊敬の念を正直に書けるのは今だと思い投稿します。
投稿: 伊集智英 | 2015年10月17日 (土) 00時29分
伊集先生、ご無沙汰しております。
そして、ご開局おめでとうございます。
コメントへの投稿ならびにお誉めの言葉、ほんとうにありがとうございます。恐縮です。
いろいろな人がいて、いろいろな価値観がある。それはいいことだと思います。きっと伊集先生にも想うところがあるんだろうなと推察しました。
僕のコメント欄は熊谷さんのとは違って炎上することもありませんし、また遠慮なく投稿いただけるとうれしいです。
投稿: ひのくにノ薬局薬剤師。 | 2015年10月17日 (土) 08時51分