« 言葉は違いを隠蔽し、言葉は概念を引き連れる。言葉が障壁になっているかもしれないお話。 | トップページ | 気虚による発熱には補気剤を »

2014年11月 7日 (金)

因果関係、常識、そして五臓六腑の謎

生体はむやみやたらに複雑だ。
「三焦」ってなに? 


【現代人はしばしば、ものごとを単純な因果関係として考える】


生物はむやみやたらに複雑で、単純な因果関係が成立することなど、生物学的事象のなかでは、むしろ稀であろう。単純な因果関係が成立する例は、研究者にとっても素人にとっても、はなはだわかりやすいから、例として人々に知られやすいだけのことである。そういうことしか知らないから、タバコを吸えばガンになると思っている。これも確率の問題に過ぎない。 (中略) だから「タバコを吸えば」「ガンになる」のである。つまりああすれば、こうなると考える。どうすれば、ボケませんか。ボケの予防はどうしたらいいですか。これも質問自体が「ああすれば、こうなる」である。
 
(養老孟司『脳のシワ』新潮文庫 P. 109‐110)
 
 たとえばアクトスは膀胱癌のリスクを有意に増やすか。これはNoだ。少なくとも現時点で、アクトスが膀胱癌のリスクを高めるというデータはない。

 話題になったデータはすべて解析の仕方に問題があった。糖尿病の罹患期間というものを勘定していなかったのだ。問題となった時点では、どのデータにも調整因子として、糖尿病の罹患期間が含まれていなかった。現に、アメリカでは5年の時点で黒だったものが、調整因子として罹患期間が加味された10年のデータでは白になっている。

 つまり、「糖尿病は罹患期間が長いほど、重症なほど、癌のリスクが高い」という大前提が考慮されてなかったわけだ。

 いまや糖尿病は、高血糖昏睡でもなく、三大合併症でもなく、ましてや心血管イベントでもなく、癌で亡くなる時代が到来しようとしている。生物はむやみやたらに複雑で、どんなにいい治療法が出てきても、次から次へと新しい合併症が現れる。
 
 
【疑問と解答は融解して一つの事実となる】

あることを不思議に思う。それが解けるまでは、私の頭はそれを記憶している。解けてしまうと、もとの疑問はおそらく忘れてしまう。疑問と解答が融合して、一つの事実となって記憶されるらしい。それは記憶というより、泳ぎを覚えるとか、自転車の乗り方を覚えるのに近いのかもしれない。それ以降は、その「事実」は私の「常識」の一部を構成するようになるのである。こうして頭のなかに、世界のあるイメージがしだいに形成されていく。
 
(養老孟司『脳のシワ』新潮文庫 P. 148)

 コラムを書くにあたっていちばん難しいのがこれだ。もう常識化してしまうと、昔、なにが疑問だったのかがわからない。

 「アスピリンジレンマ」の反応を見てて思うことは、みんな同じようなことをしでかしてきているんだな、ということだ。それを個人の経験のままに留め、教育の現場が変わっていないのなら、これからも同じことが繰り返されていくことになる。

 そういうことは継承することで克服できる。だが繰り返すが、難しいのは「解答と融合してしまった疑問」を取り出すことだ。いつも心のどこかに留めておかないといけない。


【五臓六腑の疑問】

 漢方では、五臓と五腑はそれぞれ対応する。肝臓と胆嚢、腎臓と膀胱、脾臓と胃といった具合である。「五腑」ではなくて、六腑ではないのか? もちろん六腑である。五臓に腑を対応させると、だから腑はひとつ余る。それを三焦という。六腑目は一つではなく、じつは三つあって、それが三焦なのである。上中下の三つに分ける。これがなにかというと、正体がわからない。一種の数あわせである。こういうものを置いておかないと、五臓五腑以外に、なにか内臓らしいものが見えると困るではないか。変なものがあったら、それは三焦だ、ご託宣をくだせばいいのである。
 昔の人だって、ちゃんとものを考えているのである。話のつじつまさえ合わせておけば、たいていの人は納得することをよく知っていたのであろう。
 
(養老孟司『脳のシワ』新潮文庫 P. 163)

 納得。昔の人を納得させるべきものに、現代人がそれこそ「腑」に落ちないなんて・・・。

 得心がいかない? それは頭が固い。漢方には漢方のルールがある。知らないルールは学べばいい。ただそれだけだ。
 

にほんブログ村 病気ブログ 薬・薬剤師へ

薬剤師ブログタイムズ ブログランキング参加中! クリックしてこの記事に投票

|

« 言葉は違いを隠蔽し、言葉は概念を引き連れる。言葉が障壁になっているかもしれないお話。 | トップページ | 気虚による発熱には補気剤を »

(16) 今月の1冊(ひのくにノ本棚)」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 因果関係、常識、そして五臓六腑の謎:

« 言葉は違いを隠蔽し、言葉は概念を引き連れる。言葉が障壁になっているかもしれないお話。 | トップページ | 気虚による発熱には補気剤を »