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2014年1月31日 (金)

DIオンラインでコラム連載をはじめました

2014年1月21日 「薬局にソクラテスがやってきた」スタート!
いつまで続けられるかな?
応援よろしくお願いします。

【連載スタイル】

 「薬局にソクラテスがやってきた」とあるので、ぼくがソクラテスぶっているように見えるかもしれませんが、逆です。患者さんや後輩からの質問、それがソクラテスの亡霊による問答なのだ、というスタイルです。

 薬剤師を何年かやっていると、まあ一通りのことはできるようになって、なんでもわかっているかのような気になります。錯覚なんですけど・・・。

 でもぼくらの武器である薬理学、薬物動態学、製剤学といった薬学の根幹を成す知識を活用すれば、磨きをかければ・・・。そんなスタイルで臨みたいと思います。

Photo

【ブログとの違い】

 ブログもコラムもフィクションであるという点では共通しています。でも設定が違う。ブログは具体的な症例を設定して展開しています。患者背景や処方内容、そしてメインの薬歴の内容。すると、かなりしばられます。その設定にです。整合性がなければいけない。

 でもコラムはかなり抽象世界だけでいけます。論じたいテーマだけに絞ることができます。ここが大きな違いです(だから、実症例でまったく経験のないこともペーパー頼りに偉そぶることも可能に)。具象世界と抽象世界をいったりきたりして、理解を深めていきたいと考えています。

 連載目標は月2回。ブログ関連の内容だけではなく、書き下ろしも加えていきたいと思います。

【記念すべき第1回】

2014/1/21 「半減期24時間のユーロジンって、飲むと1日中眠いんですか?」

 サブタイトルをつけるなら「薬物動態学への不信?」といったところでしょうか。関連の薬歴公開は、「CASE 15 半減期の長い睡眠薬」です。あわせてどうぞ。

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2014年1月24日 (金)

ねたきり患者へのタミフル

90歳、ねたきり、S-Cr:1.1
腎排泄型薬剤の投与量をどう考える?
菅野先生から教わった式。

CASE 155

90歳 男性 
他科受診:なし 併用薬:なし

定期処方:
Rp1)バイアスピリン錠100mg 1T
       ラシックス錠40mg         1T
    アルダクトンA錠        1T
    アリセプトD錠5mg        1T /1x朝食後 28日分
  2) レバミピド錠100mg     3T
    マグミット錠250mg        3T
    アントブロン錠15mg      3T / 3x毎食後 28日分
  3) プルゼニド錠12mg     2T
     デパス錠0.5mg          1T / 1x就寝前 28日分

臨時処方:
 4) タミフルカプセル75mg  2C / 2x朝・夕食後 5日分
 5) カロナール錠300mg     1T / 1x発熱時   10回分

患者の娘から得られた情報:
① 「孫がインフルエンザで、本人も急に38度だから間違いないだろうと」
② 本人は連れてきていない。
③ 食事はおかゆを食べた。水分は摂っている。尿量はわからない。
④ 吸入薬は吸う力も弱いし、難しいと思うので断った。

薬歴から得られた情報:
① ほぼねたきりの状態で、痩せている。
② いつもは車椅子にて診察。
③ 先月のS-Cr:1.1、体重はわからない。

疑義照会:
(内容)ねたきり、90歳、S-Cr:1.1 タミフルの減量を提案
(回答)タミフル2Cから1Cへ減量 Rp4)→Rp5)へ変更
    Rp 5) タミフルカプセル75mg 1C / 1x朝食後 5日分

□CASE 155の薬歴
#1 タミフルを1xでしっかり続けてもらう
  S)孫がインフルエンザで、本人も急に38度だから間違いないだろうと。
   吸入薬は吸う力も弱いし、難しいと思うので断った。
 O) ねたきり、痩せ身で90歳、S-Cr:1.1
   おかゆ、水分は摂れているが、尿量はわからない。
   疑義照会にてタミフル減量 2C→1C
 A) 潜在的な腎機能低下は間違いない→疑義照会にて大丈夫だろう。
   ハイリスク患者なので、しっかり飲んでもらう必要がある。
 P) 医師と相談して、状態にあわせた量にタミフルを減量。
   今日はすぐに1Cを服用。明日からは朝で5日間しっかりと。
   それでもボッーとなる、うわ言を繰り返すようなら、中止・受診を。

 
□解説
 今回のテーマはタミフルを減量するか否か。S-Cr:1.1(男性の正常値 0.6~1.1)。S-Crが異常値ならば、医師も考慮しただろう。さらに、体重もわからず、クレアチニンクリアランスを算出することもできない。

 ただ、ねたきりの場合は、筋肉量が極端に少ないことが多いために、S-Crが当てにならない。ということは体重がわかったとしても、そのクレアチニンクリアランスが当てにならない。

 代替薬としてすぐに浮かんだリレンザやイナビルも、すでに医師とのやり取りの中で患者(の娘)の方から断っている。

 S-Crでは判断できないとなると、なにが手掛かりになるかというと、いちばんはやはり尿量なのだろう。でも、これも薬局窓口ではわからないことが多いし、どう利用すればいいのか・・・。

 となると、はっきりわかるのは年齢だけということになる。この「年齢しかわからない場合」において、高齢者のクレアチニンクリアランスを推測する手段がある。これは、どんぐり工房の菅野彊先生からの教えだ。

 高齢者のクレアチニンクリアランスを推測する
 ①年齢しかわからない場合

 
高齢者のCLcr=若年者CLcr-若年者CLcr x [(年齢-25)x1.0%]

 ②年齢、血清クレアチニン値、体重がわかる場合
 Cockcroft-Gaultの式

 男性CLcr=[(140-年齢)x体重]/[72x血清クレアチニン]
 
女性CLcr=男性CLcr x 0.8

 「25歳を超えると、クレアチニンクリアランスが年に1%ずつ低下していく」といわれており、90歳の患者のクレアチニンクリアランス低下率は、(90-25)x1.0%=65%となる。

 若年者のクレアチニンクリアランスを100mL/minとすると、推測クレアチニンクリアランスは、100mL/min-100mL/min x 0.65 = 35mL/min となる。

 タミフルはCLcr>30で通常用量となるが、上記はあくまでも推測値であり、ねたきりなのにS-Crが1.1もあるため、副作用のリスクを考慮し、医師と相談したうえでタミフルを半量に減量することになった。

 しかし患者は、高齢そして慢性心疾患とハイリスク患者でもある。減量した分、1日1回はしっかりと服用してもらったほうがいいだろうと考え、服薬指導を行っている。

 
□考察
 腎機能別薬剤使用マニュアルによると、

タミフルの腎不全時の1回投与量と投与間隔
 
 Ccr>30   1回75mg 12時間間隔
 10<Ccr≦30  1回75mg 24時間間隔
 Ccr≦10      推奨用量は確立していない

 となっている。

 今回は年齢からの推測値(CLcr:35)ではあったが、ねたきり状態だったので、「10<Ccr≦30」を採用した。

 たとえば、この患者の体重が45kgでねたきりではなかったら、Cockcroft-Gaultの式が使えて、CLcrは28.4となり、「10<Ccr≦30」の用量で問題はなかっただろう。

 だが、90歳でほんとうにCLcrが35だったとして、通常用量でよいのか? ちょっと気になったので、投与量を計算してみた。

 D(r)=D-Dxfu x [(CLcr-CLcr(r))/ CLcr ]

 腎障害患者投与量=腎正常者投与量-腎機能低下による蓄積量

  D(r):腎障害者投与量
 D:腎正常者投与量(タミフル 150mg/day)
 fu:尿中未変化体排泄率(タミフルのIFより、74%)
 CLcr:腎正常者クレアチニンクリアランス(100とする)
 CLcr(r):腎障害者クレアチニンクリアランス

 これも菅野先生に教えてもらった式で、Giusty-Heyton法という。

 計算してみると、D(r)=150-150x0.74x[(100-35)/100]=77.85、1日投与量は約78mg! タミフル1C(75mg)の1xで充分のようにみえる。このくらいの、ちょっと30を超えているくらいがいちばん過量になりやすいのかもしれない。
 
 やはり腎機能低下者に対しては、リレンザやイナビルのような吸入薬を選択してもらいたい。

 タミフルしか選択肢がないときには、マニュアルよりも少しきびしめに減量を考慮するか、精神神経系の副作用を充分にアナウンスしていくしかないだろう。

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2014年1月17日 (金)

漢方薬の新しい副作用

黄連解毒湯、加味逍遥散、辛夷清肺湯
この三方剤に共通するもの
山梔子と特発性腸間膜静脈硬化症(IMP)

【2013年8月添付文書改定】
 黄連解毒湯(15)、加味逍遥散(24)、辛夷清肺湯(104)の三方剤において添付文書が改定され、重大な副作用に「腸間膜静脈硬化症」が追加記載となった。

 

Imp

 この副作用の原因の一つに山梔子の長期服用(5年以上で90%を占める)が考えられている。

【特発性腸間膜静脈硬化症(IMP)とは】
 腸間膜静脈硬化症に起因した還流障害による慢性虚血性大腸病変で、右側腹部の線状石灰化や粘膜の暗青色化などの特徴的な所見を示す。腹痛、下痢、便秘、腹部膨満、便潜血(無症状)などの臨床症状が報告されている。

Imp_2
 

 この山梔子を含む漢方薬の長期服用による腸間膜静脈硬化症は、いわば漢方薬の新しい副作用であり、漢方薬の漫然投与に対する一つ警鐘と捉えることもできるだろう。

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 副作用の機序や対応、なぜ先の三剤のみが添付文書改定に至ったのかなどの詳細は、日経DI 2014年1月号のDIクイズに書いています。ぜひご覧ください。

 また記事の中で、防風通聖散を防風「痛」聖散とそれこそ「痛い」ミスをしてしまいました。この場を借りて訂正、お詫びいたします<m(__)m>

Di

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2014年1月10日 (金)

透析患者へのファムビル

腎機能低下患者への抗ウイルス薬。
CLcrに応じた用量でも副作用は起こっている。
透析中の場合は?

CASE 154

65歳 男性 

処方内容:
Rp 1) ファムビル錠250mg 3錠 / 分3 毎食後 7日分

患者のコメント: 「下唇と鼻の下にヘルペス。痛くてね・・・」

患者から得られた情報: 
① 他科にて透析施行中、併用薬多数
② 透析は週3回、今日これから透析予定あり

疑義照会:
(内容)過量。透析後に1錠のみを提案。
(回答)Rp 1) → 2)へ変更
        Rp 2) ファムビル錠250㎎ 1錠 / 分1 透析直後 3日分

□CASE 154の薬歴
#1 ファムビルは透析直後のみに服用する
  S)下唇と鼻の下にヘルペス。痛くてね・・・
 O) 疑義にてファムビル透析直後のみへ
    今日これから透析を受ける
 A) 透析スタッフの協力をしてもらったほうがいいだろう
 P)ヘルペスの薬は透析をしないとほとんど身体から抜けないので、透析直後のみの服用でOK。こちらから透析の病院に電話しておくので、薬をあちらのスタッフに預けておくとよい。

□解説
 皮膚科からの処方せん。抗ウイルス薬は腎排泄型薬剤の代表格なので、腎機能の低下がないかの確認をかならず行う。すると患者は透析施行中だと言う。

 ファムビルの添付文書には 「血液透析患者には本剤250mgを透析直後に投与する。なお、次回透析前に追加投与は行わない」とある。

 また、IFには

血液透析患者に関する解説

外国において、血液透析24 時間前の腎不全患者3 例を対象に、ペンシクロビル5mg/kg を1時間かけて点滴静注し、4 時間の血液透析を施行したところ、ペンシクロビルの血漿中濃度が約75%低下することが認められた。血液透析患者では腎機能が低下しており本剤はほとんど排泄されないので、本剤の250mg を透析直後に投与し、次回の透析までの期間は本剤を投与しないこと。

との記載がある。つまり透析しないと薬がほとんど抜けないわけだ。

 なお、服薬は早い方が望ましいので、初日に透析がない場合、その日は服用する。透析がある場合は透析後となる。そして、週2回の透析なら2日分、週3回の透析なら3日分、透析直後の服用でいいわけだ。

 患者は皮膚科受診後、このまま透析を受けにいくところだったので、3日分で事足りる。疑義照会にて変更後、患者に説明を行う。

 また透析直後に服用ということは、とうぜん透析施設で服用することになる。であるならば、透析スタッフの力を借りれば間違いのリスクは減るし、副作用モニタリングにもよいだろう。

□考察
 抗ウイルス薬は腎排泄型で、その用量にはとくに注意を払う。クレアチニンクリアランスに応じた用量で投薬したとしても、じっさいに副作用は起こっている。透析レベルになると、ほとんど抜けないと考えたほうがいいのだろう。

 抗インフルエンザ薬のタミフルは透析を行っても、「カプセル75mg単回投与は、腹膜透析あるいは血液透析を実施する末期腎障害患者に対し、5日間にわたりインフルエンザウイルスに効果を示す薬剤濃度を維持することが示され」ている。

 今回のファムビルは透析による除去率が75%あるため、透析後の服用となっている。ではバルトレックスはどうか? 

 クレアチニンクリアランス(mL/min):<10  500mgを24時間毎

 「血液透析を受けている患者に対しては、患者の腎機能、体重又は臨床症状に応じ、クレアチニンクリアランス10 mL/min未満の目安よりさらに減量(250mgを24時間毎等)することを考慮すること。また、血液透析日には透析後に投与すること」となっている。

 一つ苦言を述べさせていただくと、250mgを勧めてはいるが、250mg錠がないうえに、割線もなく500mgを割るとかなり苦い(顆粒製剤をすぐに手配できればいいのだろうけど…。ジェネリックで250mg錠が発売されるのを期待しよう)。

 本題に戻る。バルトレックスも4時間の透析で70%が抜けるので、透析日には透析後に服用する。しかし、250mgを24時間毎での服用を提案しており、ここがファムビルと違う。

 初日以外は透析のない日に服用のないファムビルに比べるとバルトレックスは、用量を減らしているとはいえ、透析回数によっては蓄積していくのではないだろうか。だから、精神神経系の副作用が多いのでは。そもそもファムビルの用法のほうが理論的にも適っているし。

 バルトレックスの透析患者への用法もファムビルに倣ったほうがいいかもしれない。

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 *蛇足*
 クレアチニンクリアランスが低くなると、バルトレックスもファムビルも最終的には、単純疱疹だろうと帯状疱疹だろうと用量が変わらなくなってしまう。健常人だと2倍の差があるのに。この点も腎機能低下患者において、副作用が多いとされる原因の一つなのかも?

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2014年1月 3日 (金)

アイデンティティにまつわる問題

アイデンティティとは? 日本語にはもともとなかったこの概念。
ワッシー先生の『おとなの背中』から教えを乞う。

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【複数のアイデンティティがあれば世界が立体的に浮き彫りに】

 じぶんはじぶんであると納得のゆく理由、それをアイデンティティという。アイデンティティは一つに絞る必要はなく、複数あっていい。というか、複数あったほうがいい。複数あれば、そのうち一つが弱ってきても、あるいは外されても、残りのアイデンティティを丁寧に生きていれば、「わたし」はたぶんびくともしない。逆に一つのアイデンティティしかなければ、それが外されれば「わたし」も崩れてしまう。

 わたしがここで言っているのは、「一つのことに集中するな」ということではない。一つのことに集中しているときでも複眼をもて、ということだ。一つの光を当てるより二つの光を当てたほうが世界はより立体的に浮き彫りになってくるのとおなじように、一つの事業をおこなうにも、それを内からと外からと逆向きの二方向から見るほうが、進むべき道がよりはっきりと見えてくる。

(鷲田清一『おとなの背中』角川学芸出版 P. 61-62)

 昨年の12月、福岡にて薬学生薬剤師キャリアアップセミナーが行われた。その演者のなかに薬剤師でDJの“DJ Guu”がいた。じつは彼、ぼくの後輩。薬剤師キャリアはまだ浅い。でも仕事の本質をよく突いている。ぼくのその年齢のころを考えると、とてもあそこまでの理解がなかった。

 彼はDJという視点から薬剤師業務をみつめていた。違う方向から光を当てることで、彼には薬剤師業務がより立体的に見えているのだろう。本質は分野を超えるものなのだな、とただただ関心してしまった。

【アイデンティティとはじぶんを打ち砕いた他者の一覧である】

 アイデンティティといえば生涯をつらぬく一本の糸のように変わらないものと考えられることが多いが、わたしは逆で、「じぶんはだれか?」と問うときには、じぶんがこれまで出会い、それを機にじぶんが打ち砕かれてきたその不連続の出来事、そしてじぶんを打ち砕いた相手の名を列挙することのほうがはるかに実情に近いとおもっている。「まなび」は他者をとおして起こるものであり、あの時はわからなかったが今だったらわかるというふうに、長い時間のなかでじっくり醸成されてゆくものだからだ。

(同書 P. 15)

 「まなび」は他者をとおして起こる。他者との「出会い」をとおして立ち上がる。それは「じぶんが打ち砕かれる経験」であって、そうやってアイデンティティとは目覚めていくものなのだ。

 またアイデンティティは、それだけがぽっかりと存在しているようなものではなく、他者との関係のなかで要請される。

【「偶然」こそアイデンティティの重要なファクター】

 現在を未来にくくりつけるかたちで、わたしたちの行為はなされる。目標を立て、そのためにいましなければならないことを考える。行為はふだん、そのようになされる、というかなされるとおもっている。さらにまた、過去・現在・未来を一つの意味でつなぐところに、「わたし」というものがなりたつとおもっている。過去にじぶんがしたことに責任をとり、未来にじぶんの希望を投げかける、そのなかに「わたし」はあるとおもっている。(中略)が、ここには勘定に入っていないものがある。偶然である。事故に遭う、病気になる、会社がつぶれる、子どもを先に亡くす……といった計算外のことに思いおよんでいないのだ。どういう事態に遭遇するか、どんな人と出会うかという、じぶんでは予測もコントロールもできない<偶然>への想像力を欠いている。

 過去・現在・未来を一つの意味の糸で結びつけないと「じぶん」というものが壊れてしまうという強迫観念、これを人びとはアイデンティティ(自己同一性)と呼んできた。けれども、「じぶん」というのは、そのように一本の線として存在するものではなく、むしろ思わぬ事態や人との出会いのなかで、道を逸らされ、あるいは塞がれ、どんどんずれてゆくものではないのか。

(同書 P. 103-104)

 他者との出会い、本との出会い、不測の事態、それらもすべて「偶然」にすぎない。「偶然」はその定義上、勘定に入れることはできない。なぜなら予測できるものではないから。でも、その「偶然」を抜きにしてアイデンティティは語れない。

 だがしかし、だからこそ人生はおもしろい。

 ぼくはそう期待を持っているわけだが、そうそう明るい話題ばかりでもない。

【被災地で迫られているアイデンティティの語りなおし】

 被災地ではいま、多くの人が<語りなおし>を迫られている。じぶんという存在、じぶんたちという存在の、語りなおしである。

 アイデンティティ(じぶんがだれであるかの根拠となるもの)とは「じぶんがじぶん自身に語って聞かせる物語」だと言った人がいる。R・D・レインという精神分析医だ。じぶんはだれの子か? じぶんは男女いずれの性に属しているか? じぶんは何をするためにここにいるのか? こういう問いが、人それぞれのアイデンティティの核にある。これらの一つでも答えが不明になったとき、わたしたちの存在は大きく揺らいでしまう。(中略)このたびの震災で、親や子をなくし、家や職を失った人びとは、こうした語りのゼロ地点に、否応もなく差し戻された。 

(同書 P. 205)

 
 被災地ではじつに多くの方が、突然に、アイデンティティの語りなおしを迫られることになった。ぼくらが日々悩んでいる生きがいや生のスタイルなどより、もっともっと大前提の問題において。

 アイデンティティが、「じぶんがじぶん自身に語って聞かせる物語」がゼロ地点まで否応なく差し戻される。これが復興問題の本質だ。

 語りなおすというのは、じぶんの苦しみへの関係を変えようとすることだ。だから当事者みずからが語りきらねばならない。(同書 P. 206)

 ぼくにわかること。それは被災地のひとに起きていることがアイデンティティにかかわる問題だということだけだ。

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