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2013年8月23日 (金)

構造式から光線過敏症を予測する

光線過敏症は誰に起こるかわからない。
たしかに人側からみればそうだ

でも構造式側からみてわかることもある。

CASE 146

男歳 60性

処方:
Rp 1) ボルタレンテープ15㎎  28枚 (前回まではモーラステープ20㎎)
Rp 2)  マイザー軟膏 20g

患者の訴え :
「ゴルフで日光に当てちゃったからね。聞いてたけど、ほんとに出るとはね~。今度のは大丈夫?」

患者から得られた情報:
① 右ひじのところがまっ赤に(光線過敏症)
② ゴルフは昨日。モーラステープは2日前まで使用していた。

疑義照会:
(内容)ボルタレンテープも光線過敏症の可能性あり。ロキソニンテープを提案。
(回答) Rp 1)→3) ロキソニンテープ50mg 28枚 へ変更。

□CASE 146の薬歴
#1 モーラステープによる光線過敏症のモニタリング期間を理解してもらう
  S) ゴルフで日光に当てちゃったからね。聞いてたけど、ほんとに出るとはね~。
   今度のは大丈夫?
 O) モーラステープで右ひじに光線過敏症(+)、2日前まで使用
   疑義照会にて、ボルタレンテープ(15)→ロキソニンテープ(50)
 A) ロキソニンテープならリスクは低いが、
   まだあと4週弱はモーラステープの影響あり
 P) 今度のは理論的にはだいじょうぶです。起こりません。
   あと26日くらいは前のテープの影響があるので、日光に当てないように。
 
□解説
 モーラステープによる光線過敏症については過去に二回触れているので下記参照を。

 2010年5月21日 (金) CASE 59  モーラステープによる光線過敏症
 2012年6月 8日 (金) CASE 119 予想はできないが予防はできる外用剤の光線過敏症

 解説は疑義照会の内容について。

 医師にボルタレンテープからロキソニンテープへの変更を提案したときの反応は、「同じNSAIDsなんだから、程度の差じゃないの? ボルタレンはダメでロキソニンならいいっていうのがわからない」といったものだった。

 たしかに医師からしてみれば同じNSAIDsにみえるだろう。ということは、添付文書に光線過敏症の記載があるかないかでは説得力に欠けてしまう。そこで、構造式の話題を持ち出すことにした。

 「光線過敏症をひきおこす構造というのは決まっていて、モーラスやボルタレンはそういう構造をとっています。でも、ロキソニンが光線過敏症をひきおこすリスクは構造上とても低くて、じっさいにロキソニンの添付文書にも記載がありません」

 これで解決。医師も理由さえあれば反対はしないものだ。

 
□考察

 光線過敏症という副作用は、人側つまり体質的なものは既往歴がないかぎり、予想ができない。しかし構造式サイドからは、その薬剤が光線過敏症を引きおこすかどうかは予測ができる。

 光線過敏症に必須な構造。それは

 「ローンペア + 共役構造」

  * ローンペア(非共有電子対):C=OやN、O、Sの原子中にある余っている電子の二つのペア

  
  * 共役構造:二重結合と単結合の繰り返し。ベンゼン環など。

 これさえ覚えておけば、あとは構造式を眺めるだけでいい(参考図書:*1)。

 <モーラスの構造式>

Photo

 <ボルタレンの構造式>

Photo_2

 <ロキソニンの構造式>

Photo_3

 
 この三つの構造式の中に、光線過敏症に必須な構造があるかないか、つまりローンペアと共役構造とが隣接しているセットがあるかどうかを探せばいい。

 まずモーラスには「ベンゼン環+カルボニル基(C=O)+ベンゼン環」のセットがある。つぎにボルタレン。これも「ベンゼン環+アミノ基(NH)+ベンゼン環」のセットが存在している。

 さいごにロキソニンだが、これにはそのセットが見当たらない。これだと紫外線がカルボニル基のローンペアの電子を一つ飛ばしても隣に共役構造がないので、すぐに元に戻ってしまう。つまり光線過敏症が起こりにくいというわけだ。

 言葉は違うものを同じにしてしまう。しかし、上でみたように実際には異なるわけで、それを医師に説明する際に「構造上は」「構造式からみると」というフレーズには力がある。なぜなら、この分野こそ薬剤師の専売特許にほかならないからだ。

 構造式には、薬剤の個性が表現されている。
 
 

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(07) 構造式」カテゴリの記事

コメント

ボルタレンの構造とモーラス、似てないと思います。

非共有電子対はそもそも直接結合に関与してない電子のことです。

おっしゃる通り、一般的にはO,N,Sなどが持っていますが、C=Oが例として出ているのが少し意味が分からなかったです。
(二重結合のπ電子は非共有電子対ではありません。)

なお、モーラスは、ベンゼン環とC=O二重結合が共役していますが、ボルタレンはそんなことないので、似てません。

C=OのところがC=Nであれば似ていますが、そうじゃなく、N-Hです。
C=Oは電子求引基ですが、N-Hは電子供与基です。

もし、ボルタレンでも光線過敏が出るのであれば、もう少し違う理由では?と思いました。

投稿: 疑問です。 | 2013年8月24日 (土) 08時36分

疑問ですさんですか、それとも名乗らずの本文なのでしょうか?

だとしたら、答える義理はないですが・・・。

もともとの構造が似ている必要はないです。光線過敏がいろんな薬で出ることを考えてもそうです。

紫外線にはカルボニル基だろうがNだろうが、余っている電子対の一つを飛ばしてしまう作用がある。そのとき単独なら高まった反応性もすぐに元に戻ってしまう。でも近くに共役結合があればそこをぐるぐるかけめぐって、高い反応性を維持してしまう。そういうセットがモーラスにもボルタレンにもあるという話でした。

同じ原理でアムロジンもクラビットも説明できます。

もともとの構造は似ている必要はなく、ただそういうセットがあれば、紫外線エネルギーがやってきたときにおこりうるいうことを覚えておけば役に立ちますよ。

もちろん、このセットが入っていれば、必ず添付文書の副作用に光線過敏症の記載があるわけでもないですけど。

投稿: ひのくにノ薬局薬剤師。 | 2013年8月24日 (土) 13時57分

お返事ありがとうございます。

私のお話したい意図が伝わっていないようなので、お伝えしますと

Ph-C=O-Ph構造と言うのは、非常にフラットな構造です。
というのも、Ph,C=O,Ph どれもSp2混成を持つ結合同士で
結ばれているからです。(模型を組むとよくわかります。)

そして、C=Oの両側がPhという構造でもあるため、
電子が駆け巡りやすく紫外線に反応しやすい構造と言えます。

つまり、紫外線に反応するのは、ローンペアではなく
C=Oのπ結合ではないでしょうか。
(C=O結合の”あまっている電子対”と言う意味がよく分からないのですが。)

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%99%E3%83%B3%E3%82%BE%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%8E%E3%83%B3
こちらのページを見ても、紫外線を照射してできるのは、ベンゾフェノンケチルであり、π電子が反応してできた物資です。
(あまっている電子対ではありません。)

なお、光化学を行う場合、多重結合部位や非常に不安定な構造
(O-Oなど)がきっかけで反応を開始するのが一般的だと思っており、
非共有電子対は、わたしの不勉強かもしれませんが、
あまりお目にかかっておりません。

一方、Ph-N-H-Ph はそのような構造はとっていません。
N原子はSp3混成です。そのため、ベンゼン環たちとはベンゾフェノン
の様に共役構造は取れません。
(電子リッチな基のため、電子供与基ではありますが)

紫外線に反応するのは、モーラスの場合「Ph-C=O-PH」という構造
が故だと思うので、ローンペア(非共有電子対)が反応すると言うのは
私としては不思議だったのでコメントいたしました。

最後に、匿名での投稿ですが、ひのくにノ薬局薬剤師。さんを批判するのではなく

投稿: 疑問です。 | 2013年8月24日 (土) 22時44分

こちらはまだまだ勉強不足です。模型なんて組んだことないし、お手上げです。こちらの言葉、表現の問題だとは思うので、あとは参考図書のほうでお願いします。この本はとてもいい本だと思います。

まあ原理はさておき、「カルボニル基orローンペア(N,O,S)+共役構造」という法則が予測する手段になるし、Dr説得の手段になるというのが今回の記事のテーマです。

現に光線過敏症を起こしている患者に対して、代替薬(ロキソニンテープ)もあるのに、光線過敏症の報告のあるボルタレンテープを選択したくはありませんから。

モーラスのところのリンクはよくわかりました。そこが光線過敏症の発生頻度の差につながっているんですね。

投稿: ひのくにノ薬局薬剤師。 | 2013年8月24日 (土) 23時13分

光線過敏症で検索をかけたらこちらのサイトに行きつきました。
一点質問になりますが、
最近話題のSGLT2阻害薬についてです。
皮膚障害がおおいようですが、
SGLT2で皮膚障害を起こしやすい構造式を
もったものはどの薬剤でしょうか。
教えてください。

投稿: とある糖尿病内科医 | 2014年11月26日 (水) 02時58分

基本構造はどれも同じですし、よくわかりません・・・。

投稿: ひのくのノ薬局薬剤師。 | 2014年12月 6日 (土) 09時14分

古い記事へのコメント失礼します。

実習生から、インドメタシンはローンペアがあるのに
光線過敏症がないのはどうして?と質問を受けました。

メーカーに問い合わせても、インドメタシンでは
光線過敏症は起こりませんとの返答。

C=Oの両隣がベンゼン環ではなく、片方がインドール骨格なので
光線過敏症は起こりにくいと考えていいのか、
片方はベンゼン環なので起こる可能性があるのに
報告がないので添付文書に記載がないだけと考えたほうがいいのか。

何かご存知でしたら、教えてください。

投稿: みきお | 2018年8月22日 (水) 11時41分

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