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2013年6月28日 (金)

ニトロペンが効かないと訴える患者 ~(S)と(O)に分ける利点~

直接的な回答ではなく、まず確認
(S)と(O)に分ける利点
SOAPは思考のガイドなのだ

CASE 143

70歳 女性

定期処方:
Rp 1)バイアスピリン錠100mg 1錠・イルベタン錠50mg 1錠・ラシックス錠20mg 1錠  / 1x朝食後 21日分
Rp 2)アーチスト錠2.5mg 2錠 ・ステーブラ錠0.1mg 2錠/2x朝・夕食後 21日分
Rp 3)ニコランジル錠5mg 3錠・レバミピド錠100mg 3錠 / 3x毎食後 21日分
Rp 4)ファモチジン錠10mg 1錠・デパス錠0.5mg 1錠 / 1x就寝前 21日分
Rp 5)フランドルテープ40mg 21枚
Rp 6)ニトロペン錠0.3mg 1錠/発作時 10回分

患者の訴え : 「先日、ニトロペンを3錠目でやっとよくなった。
          3錠で効かなかったら、どうするの?」

患者から得られた情報:
① ニトロペンは舌下している。
② 保管OK。アルミから出してはいないし、破れてもいない。
③ 口渇(+)
④ ニトロペンの使用間隔は1分しか空けていないので、3分くらいで3錠使用。
⑤ 舌下後はしばらくじっとしている→ふらつき(-)

□CASE 143の薬歴
#1 口内を湿らせてニトロペンを舌下し、2錠目までは5分あける
  S) 先日、ニトロペンを3錠目でやっとよくなった。
    3錠で効かなかったら、どうするの?
 O) 舌下用法、保管ともにOK。ただし口渇(+)
    使用間隔を1分しか空けていない→3分くらいで3錠使用
 A) 追加タイミングが早すぎる。
    口渇もあるから効果発現が少し遅いのかも(ステーブラの影響か?)
 P)一般的には1~2分で効くが、口が渇いていると遅くなることも。
   少し口内を湿らせてから舌下を。2錠目の舌下は、5分間あけてから。
 R)昔はすぐ効いていたから、心配で。

 
□解説
 ニトロペンの効果に不安を訴える患者への対応。その訴えは 「先日、ニトロペンを3錠目でやっとよくなった。3錠で効かなかったら、どうするの?」というもの。

 ここで「(ニトロペン)3錠で効かなかったら、どうするの?」にすぐに直接答えてはいけない。つまり「主治医に連絡するか、救急病院に」と答えない。もちろん、そういう答えになることもよくある。が、その前に、ニトロペンをどのように使用しているのか? を確認すべきだ。

 ニトロペンを飲みこんではいない。保管状況も問題ない。口渇があるから、溶けにくいかな。最後にニトロペンの舌下間隔は・・・、とここで問題があった。1分間隔で次々と舌下して、3分くらいで3錠も舌下している。つまり追加のタイミングが早すぎるのだ。ただ幸い、ふらつきなどの副作用はないようだ。

 とうぜん、使用間隔を修正してもらうように指導を行う。あわせて口渇対策として、少し口内を湿らせてからの舌下を勧めている。

 患者のレスポンス(R)は「昔はすぐ効いてたから、心配で」というもので、その不安がうかがえる。立て続けに舌下した理由がよくわかった。

□考察
 (S)と(O)に分ける利点。それは(S)と(O)に分けて書くことにあるのではない。そうではなくて、(S)と(O)に分けて考えること、ここにSOAPのメリットがある。

 SOAPは記載方法ではなく、思考のガイドなのだ。

 患者は薬剤師が取り上げるべきことだけを話してくれるわけではない。そのときの関心事から世間話までランダムに口にする。そのなかの一部分にフォーカスする。これが(S)だ。

 この時点で「ニトロペンをきちんと使えていないのでは?」という、いわば仮のアセスメント(A)が想定されている。だからこそ、フォーカスしたともいえる。つまり、(S)が決まった時点で、仮の(A)が存在していることになる。

 この仮の(A)が合っているかどうかを確かめるために、患者に質問をしていく。つまり(O)情報を積み重ねていく。

 そして、抽象的だった仮の(A)が、より具体的な(A)へと固まっていく。つまり、仮の(A)を導くための(S)であって、(A)を確定させるための(O)なのだ。

 その結果、その患者に応じた服薬指導(P)をすることができる。

 こういう思考の流れになっている。

 だからSOAPは有用なのであって、その利点はSOAPで書くからではなく、SOAPで考えることによって生じるのだ。

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2013年6月21日 (金)

配合法則

 「配合法則」→「基本8処方」→「派生処方」と理解していけば、方剤の成り立ちや目的がよくわかる。

 「漢方で実際に治療に用いるのは、個々の生薬ではなく方剤である。(中略)この場合、生薬は無原則に集められているのではなく、一定の配合法則にしたがって方剤に構成される」

 *1:桑本崇秀『健保適用エキス剤による漢方診療ハンドブック増補改訂版』創元社  P. 46-47 (この愛用図書は、じつに30年ぶりに増補改訂版が平成24年6月に出版された)

 ならば、ぜひこの配合法則を知っておきたい。その組み合わせがあるから、その効果を示す。構造式や薬理作用から医薬品の効果を考える薬剤師の思考にピッタリではないか。

 『漢方診療ハンドブック』には15個の配合法則が紹介されている。それらのいくつかを参考にしつつ、覚えておくと便利な配合法則を紹介する。

【守りの配合法則】

 1)生姜+大棗 → 副作用防止、作用緩和 (例:小柴胡湯四君子湯桂枝湯

 2)生姜+半夏 → 半夏の副作用を中和させる (例:二陳湯、半夏瀉心湯、半夏厚朴湯)

 * 生姜が乾姜(生姜を蒸したもので温作用が加わる)になる場合もある

【麻黄の配合法則】

 
 1)麻黄+桂枝 → 発汗 (例:葛根湯、小青竜湯、麻黄湯

 2)麻黄+石膏 → 止汗 (例:麻杏甘石湯、越婢加朮湯

 3)麻黄+桂枝+石膏 ⇒ 発汗

 4)麻黄+薏苡仁 → 鎮痛、利尿 (例:薏苡仁湯、麻杏薏甘湯

 5)麻黄+杏仁 → 鎮咳・平喘 (例:麻黄湯

【その他の配合法則】

 1)柴胡+黄芩→ 裏熱証で胸脇苦満に (例:小柴胡湯柴胡桂枝乾姜湯

 2)竜骨+牡蛎 → 裏虚証で神経症状のある場合に鎮静の目的で (例:柴胡加竜骨牡蛎湯桂枝加竜骨牡蛎湯

 3)荊芥+防風 → 皮膚病を治すには欠くことのできない組み合わせ (例:当帰飲子荊芥連翹湯

 4)当帰+川芎 → 裏虚証で貧血ないし血液循環不全のある場合に (例:四物湯、当帰芍薬散

 5)芍薬+甘草 → 痛みや筋肉のけいれんに (例:芍薬甘草湯)

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2013年6月14日 (金)

NSAIDsの禁忌「重篤な肝障害」とは?

肝硬変とNSAIDs
NSAIDsの禁忌「重篤な肝障害」とは?
なぜ禁忌なのか? それが守られないのはなぜなのか?

CASE 142

60歳 男性

定期処方:
Rp 1) アルダクトンA錠25mg  1錠
    ダイアート錠60mg        1錠
    オメプラゾール錠10mg  1錠 / 1x朝食後 14日分
Rp 2) ピアーレDS95%  13.6g  / 2x朝・夕食後 14日分
Rp 3) ロキソニン錠60mg 1錠 / 1x疼痛時 10回分

併用薬(5日前から整形外科より):
Rp 4) セレコックス錠100mg 2錠
     レバミピド錠100mg     2錠 / 2x朝・夕食後 7日分

患者のコメント:
「肩が治らんからね、整形にかかってみた。
なんか胃にやさしいのを続けて飲むように言われて、飲んでたんだけど、
顔と足がむくんでね。飲み合わせが悪かったんかな?
先生に話したら、整形の薬は止めて、これ(ロキソニン)にしときなさいって」

薬歴から得られた情報:
① 肝硬変、腹水(+)
② ロキソニンの服用歴は長く、アレルギー性の副作用の心配なし

患者から得られた情報:
① 整形のDrよりロキソニンの中止指示(+)→併用はしていない
② セレコックス・レバミピドは今朝から中止している
③ 動悸や息切れ(-)、尿の出もOK

□CASE 142の薬歴
#1 肝硬変と副作用を考慮し、NSAIDsはロキソニンを服用する
  S) 整形の併用薬にて、顔と足にむくみ→「飲み合わせが悪かったんかな?」
    併用薬を中止してロキソニンで対応するように指示(+)
 O) セレコックスを5日連用、ロキソニンは併用していない
    肝硬変、腹水(+)
 A)  肝障害のためにセレコックスが蓄積したのだろう。
     半減期が短く、飲みつけたロキソニンの頓用が適
 P) 飲み合わせではなく、セレコックスが蓄積したため。
    肝硬変があると、Drが考えている以上に身体の中に残る薬がある。
    飲みつけたロキソニンの頓用で今後も対応を。

□解説
 内科にて肝硬変治療中の患者が、整形外科を受診。セレコックスを5日間を服用し、副作用が発現。その状態で内科を受診したときの話。

 
 薬局にて「飲み合わせが悪かったんかな?」との質問を受ける。

 セレコックスとロキソニンを併用していたわけではない。ならば、考えられるのはセレコックスの蓄積だ。なぜなら、この患者は肝硬変を患っており、NSAIDsが肝消失型薬剤だからだ。

 下記に、セレコックスの添付文書より該当箇所を引用する。

 Photo_2

 肝障害患者では、軽度にてAUCが約1.3倍、中等度ではAUCが約2.7倍にもなる。この患者の重症度はわからないが、結果からみると、蓄積のしにくいもっと半減期の短いNSAIDsを選ぶか、セレコックスの用量をぐんと減らすべきだったのだろう。

 さて、患者の質問に戻る。薬剤師の見解を伝え、「飲みつけたロキソニンの頓用」での対応をお願いする。

 「まいったね~。もう怖いから整形はやめとこう」との返答だった

□考察
 NSAIDsの禁忌にはもれなく「重篤な肝障害のある患者[副作用として肝障害が報告されており、悪化するおそれがある]」の記載がある。

 これは「NSAIDsが肝消失型だから、肝臓に負担をかける」からではない。

 この禁忌は「劇症肝炎などの重篤な副作用がおこったときに、重篤な肝障害をもともと有していると致死的なことになってしまうから」なのであって、ずっと飲み続けているようなNSAIDsでは考える必要がない。

 じつは今回の症例のセレコックスも、禁忌の設定理由は他のNSAIDsと変わらない。しかしNSAIDsの中でもセレコックスだけには、添付文書の「特殊集団における薬物動態」の項において、肝障害患者でのAUC上昇のデータの記載がある。でも、これは禁忌の設定理由とは関係がない。

 肝障害の重症度、つまりChild-Pugh分類(これは肝硬変の重症度分類、CASE 54「本当の肝機能」を参照)が把握できており、かつAUCの上昇を考慮して、充分に減量すればセレコックスを安全に処方することは可能だ。

 しかし、禁忌の設定理由から考えると、初めてのNSAIDsを使う場合、アレルギー的な(ボルタレンなどは代謝性特異体質的な)肝障害というのは飲んでみないとわからない。

 であるならば、飲みつけたNSAIDsがあり、かつ半減期が短く蓄積しにくいものを選ぶというのがベストな選択になるだろう。

 じゃあ、飲みつけたNSAIDsが無い場合は? その場合も蓄積しにくい、つまりロキソニンのような半減期の短いNSAIDsをやっぱり提案することになるだろう。そして、飲み始めから2ヵ月くらいは肝機能(GPT・GOTの上昇)に注意するしかない(ロキソニンによる肝障害はアレルギー性特異体質によるから)。そうでないと、この患者はNSAIDsを何も使えないことになる。

 そういう意味でもこの禁忌設定は乱暴なものだと思う。

 例えば、フラジールという抗生物質があります。これは、脳に異常を起こす副作用をときどき起こします。けいれんを起こしたりする可能性があります。ですから、アメリカの説明文書では、「もしフラジールを使っていて患者さんがけいれんを起こしたら直ちにフラジールはやめましょう」と書いてあります。これは、妥当な文章だと思います。
 しかし、日本の薬の添付文書は違います。「脳にもともと病気のある人には、フラジールは使ってはいけませんよ」と書いてあるのです。こんなことはアメリカの説明書には書いてありません。
 「脳に異常を起こす可能性がある」というのと「脳に病気がある人には使ってはいけませんよ」というのは全く異なる意味です。でも、本当にフラジールがないと治療ができない患者さんがいるかもしれません。

(岩田健太郎『感染症は実在しない 』北大路書房 P. 216)

 「肝障害が悪化する可能性がある」というのと「肝障害がある人には使ってはいけませんよ」というのは全く異なる意味です。でも、本当にNSAIDsがないと治療ができない患者さんがいるかもしれません。

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2013年6月 7日 (金)

「人間は生きているかぎり、別人になれる」

言葉を身に沈める。感動を自分の中で育てる。
人間は別人になれる。その変化にこそ、価値がある。


【言葉が浮かび上がることを期待する】

 カシュウの言葉は、言われたそのときには、まったく理解できない。なにしろ、剣を握り、向かい合っている最中なのだ。頭に道理が入る余裕などない。ただ、のちのちになって思い出す。いつも、そうだった。言葉だけが、ぽっかりと浮かび上がり、そして、ようやく導かれる。(森博嗣『ヴォイド・シェイパ』中公文庫 P. 77)

 新しいものごとを身につけようとするときに、言葉だけで、経験の裏付けのない言葉だけで、すんなり理解できるはずがない。それでも言葉を自分の身に沈めておく。そして、さまざまな経験を積んでいくうえで、その言葉が浮かび上がることを期待する。これが正しい順序なのだろう。

【人間は生きているかぎり、別人になれる】

 すぐにでもカガンの寺へ駆けつけ、教えを乞いたい、と考えた。けれど、それはどのようにして体得できるものだろう。言葉で伝えられることとは思えない。今の自分の程度でも、既に言葉では表せない。技や術という類のものではないかもしれない。
 わからない。
 わからないが、とにかくも、惹かれる。
 是非とも自分の内に取り入れたいものだ。そう考えるだけで、心が躍る思いがした。
 カシュウが死んで以来、初めての嬉しい気持ちのように感じた。生きていれば、こういったものに出会うではないか。これが生きる価値なのではないか。(同書 P. 320-321)

 ああいったものが存在すると知るだけで、これまでの自分とは既にまったく違う。別の者になれただろう。そんな手応えがある。
 人間は生きているかぎり、別人になれる。
 生きている人間に価値があるのではない。その変化にこそ、価値があるのだ。(同書 P. 341)

 人の生きる意味、そして価値。そんなものはないという話もよく耳目する。でも、こういう気持ちや人間の変化といったものに意味や価値があるのだ、と言われれば納得できる。

 惹かれて、すごいものを目にした。知ってしまったということは、もう知らなかったときの自分とは同じではない。無知の知だ。知らないこと、できないこと、わからないことを認めてしまえば、あとはそのままでいるか、あるいは、知るしかない、できるようになるしかない、そして理解するしかないのだ。

 そして、人間はいつでも別人になれる。それが人間のすばらしいところであり、人間の人間たるゆえんでもある。
 

【変化するために自分の中で育てる】

 昨日の喜びは、今日になってみると、もう煙のように手応えがなかった。(中略)
 しかし、忘れてはならない。あれは、いつか必ず生かせる。人から学べるものではなく、自分の中で育てることで、初めて生きるだろう。そういうものにちがいない。
 山に籠もり、いくら刀を振っていても、あれには気づかなかったはず。気づかせてもらえたでけでも、人に会った価値があったといえる。(同書 P. 357)

 尊敬する人に出会い、感動する。モチベーションも上がる。もちろん、そのことだけでも充分に価値がある。だが、人から学べるものとそうでないものとがある。他人から種のようなものを受け取っても、水や栄養を与えなければ発芽するはずもない。

 感動を忘れてはもったいない。それは「自分の中で育てることで、初めて生きる」のだ。
 
 

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