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2013年3月29日 (金)

四君子湯とその派生処方 その3

四君子湯→帰脾湯→加味帰脾湯
脾気虚→心脾両虚→心脾両虚+肝熱
ベースや成り立ちで証がわかる

【基本処方:四君子湯(詳細は四君子湯とその派生処方 その1を参照)】
 四君子湯は補気剤の基本処方。胃腸を整えて気を補う、補気健脾の効果がある。

 No.75(四君子湯):人参、白朮、茯苓、甘草、生姜、大棗

 
 適応:脾気虚

 主薬はもちろん人参。これは補気剤にはすべて入っている。白朮が脾を強くし(ここは蒼朮ではダメ、蒼朮は利水)、茯苓が脾の水をさばき、甘草が諸薬を調和する。これら4つの生薬が君子のようにすばらしいから「四君子湯」というわけだ。ちなみに、「生姜+大棗」は副作用防止と作用緩和のためで、本処方を含め、多くの方剤に含まれている。

【四君子湯の派生処方】

 No.65(帰脾湯):人参、白朮、茯苓、甘草、生姜、大棗、黄耆、酸棗仁、竜眼、遠志、当帰、木香

 適応:心脾両虚

 四君子湯に補気の黄耆、安心(鎮静)の酸棗仁・竜眼・遠志、血をめぐらせる当帰、気をめぐらせる木香を加えると帰脾湯になる。

 四君子湯の脾気虚に、加えた生薬の心血虚に用いる。具体的には疲れやすい、顔色が悪い、食欲不振、軟便などの脾気虚と物忘れ、精神不安、不眠、浅い眠り、夢をよくみるなどの心血虚が適応となる。

 No.137(加味帰脾湯):人参、白朮、茯苓、甘草、生姜、大棗、黄耆、酸棗仁、竜眼、遠志、当帰、木香、柴胡、山梔子

 
 適応:心脾両虚、肝鬱化熱

 帰脾湯に柴胡、山梔子を加えると加味帰脾湯になる。柴胡は胸脇苦満、寒熱往来そして気のうっ滞に効果がある肝への案内人。そして山梔子はのぼせや胸苦しさに効果がある。

 臨床では精神不安がある場合に汎用されている。証としては、帰脾湯を使うような症状、つまり心脾両虚で、のぼせやイライラなどが強い場合に適している。肝の症状のみで脾の症状がない場合は加味逍遥散などを選択する。

【投薬時の注意点】

 No.65(帰脾湯)、No.137(加味帰脾湯):

 手足のほてりやのぼせなどの陰虚の症状には用いない。また、高熱時(外因の発熱)は休薬する(熱が下がりにくくなる)。

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2013年3月22日 (金)

エビリファイを糖尿病患者に用いても良いのか悪いのか

エビリファイの警告文
神経遮断薬のレセプタープロファイル
エビリファイは糖尿病に悪い影響を及ぼすのか?

CASE 137

27歳 女性

他科受診: 代謝内科 
併用薬: ノボラピット注フレックスペン、ランタス注ソロスター

前回の処方:
Rp 1) セレネース錠1mg 1錠 / 1x朝食後 14日分
Rp 2) グッドミン錠0.25mg 1錠・フルニトラゼパム錠1mg 1錠 / 1x就寝前 14日分
Rp 3) アローゼン顆粒 1.5g / 1x就寝前 14日分
Rp 4) メデポリン錠0.4mg 1錠 / イライラ時 14回分

今回の処方(Rp 1→5へ変更):
Rp 5) エビリファイ錠3mg 1錠 / 1x朝食後 14日分
Rp 2) Do 14日分
Rp 3) Do 14日分
Rp 4) Do 14日分

患者から得られた情報:
「エビリファイって、糖尿病の人はだいじょうぶなんですかね?」
「前飲んだときに調子は良かったんですけど、糖尿病の先生が血糖に影響するから考えてもらいなさいと…」
「インターネットで調べても糖尿病にはよくないと記載があって・・・」
「眠れないだけでなく、幻聴も出てきた。先生は考えすぎがよくないと」

薬歴から得られた情報:
① 神経遮断薬の推移:セレネース→エビリファイ→セレネース(そしてまたエビリファイへ)
② 以前、セレネースに戻った理由は「効きすぎるかもしれない」とコメント記載があるのみ
③ 血糖コントロールはセレネースに戻った後も苦戦中。
  *低血糖もよくおこしており、この低血糖こそがコントロール不良の原因ではないかとプロブレムリストに記載あり。

□CASE 137の薬歴
#1 エビリファイはDMへの影響が少ないことを理解して続けてもらう
  S)エビリファイって、糖尿病の人はだいじょうぶなんですかね?
   Drからは、考えすぎがよくないと
 O) 眠れない、幻聴:セレネース→エビリファイ
     DMのDrから以前「(エビリファイは)血糖に影響するから考えてもらいなさい」と指摘
   エビリファイの添付文書をネットで検索しており、不安な様子
 A) Drの言い分の違いが生じた理由を理解してもらうことで
   不安を解消してもらい、エビリファイを継続服用してもらおう
 P) 添付文書の表現がなぜそうなっているのか、
   また実際の薬理作用からの神経遮断薬の違いを説明。
   そのうえで専門ではないDrが心配するのも無理はないこと、
   専門のDrや薬剤師にとっては、DMになんら問題のないことを説明。
  
 
□解説
 「エビリファイって、糖尿病の人はだいじょうぶなんですかね?」患者がこう聞きたくなるのも当然だ。一方は「問題ない」といい、もう一方は「(薬の変更を)考えてもらいなさい」というのだから。

 薬歴で確認できた以前の患者のコメントである「効きすぎるかもしれない」というのも、不安の表出だったのかもしれない。

 エビリファイのレセプタープロファイルから考えれば、糖代謝への影響はほとんどないと考えていいだろう。

 しかし、患者がこういう状態にあるときに、ただ口で、言葉で「だいじょうですよ」では届かない。そう直観した。そこで、なぜDrの言い分がこうも異なるのかを時間をかけて、根拠を示しながら説明することにした。

 まず添付文書をみてもらう。患者もインターネットですでに確認していた「警告欄」を二人で確認する。これだけをみれば、専門医でなければ、糖代謝に影響すると発言するのも無理はない。

Photo_2

 これは類薬のセロクエルとジプレキサにおいて、糖尿病に禁忌とされたことに準じている。この二剤は2001年に発売され、その後に改定となっている。そしてエビリファイはというと、治験がすでに2000年に終了しており、糖代謝に及ぼす影響は検討されていなかった。そのために先の二剤に準じて、警告欄に糖尿病患者に対する文言が記載されることになった。

 しかし実際には、エビリファイは糖代謝には影響しない。2011年には根拠とする論文(*1)も出ている。

Olanzapineやquetiapineはその糖代謝異常のリスクから,日本で糖尿病患者への使用は禁忌となっており,その基本骨格はclozapineに類似しているという共通の特徴を持つている。また受容体親和性も,特に食欲に関与していると考えられているヒスタミンH1受容体への親和性が,抗精神病作用を示すドパミンD2受容体に比べて相対的に高いことで共通している。一方,aripiprazoleはそれら一群の薬剤とはまったく異なる基本畳格を母核としており, ドパミンD2受容体に対する親和性が高く,相対的に,肥満と関係していると考えられているヒスタミンH1受容体やセロトニン5-HT2c受容体に対する親和性が低い。現時点で新規抗精神病薬がどのようにして糖代謝異常を起こすのかという明確なメカニズムは判明していないものの,この化学構造の違いに基づく各種受容体に対する親和性プロファイルの違いが,糖代謝異常を引き起こすリスクの差の原因である可能性が示唆される。

*1:石郷岡純, 宇都宮一典, 小山 司, 田中 逸, 中込和幸: 糖代謝異常のみられない統合失調患者を対象としたaripiprazoleの糖代謝能に及ぼす影響. 臨床精神薬理 14(8): 1371-1386, 2011.

 まさか患者に論文を読んでもらうわけにもいかないので、よりわかりやすい一覧表(*2)を用いて説明を行った。

 *2:安心処方infobox > くすりの基礎知識 > 第26話 抗精神病薬の受容体に対する親和性から副作用を予測する > 表2 抗精神病薬の副作用 その1

 この一覧表をみてもらえば、一目瞭然。糖代謝はもちろん、エビリファイの副作用の少なさがよくわかる。

 言葉だけではなく、印刷されたものを使うほうが患者の反応はよい。これはぼくの経験則でもある。

 

□考察
 患者の服薬状況は良好なので、納得していなくても、きっとエビリファイを飲んでいただろう。不安を抱えて。そういう状況を回避できただけでも、時間をかけた甲斐があった。彼女の笑顔がそう感じさせたケースだった。

 この「Drの言い分が違う状況」というのは容易に想像ができた。しかし、このDMのDrに非があるとは思えない。だって添付文書にはそう記載してあるのだから。

 精神科の専門医や薬剤師でなければ、神経遮断薬のレセプタープロファイルなんて薬力学的なことには興味も示さないだろう。

 さきの論文(*1)は大塚製薬の依頼で行われている。ならば、ぜひ添付文書の改訂に取り組んでほしい(現時点では予定もないそうだ)。そうすれば、こんな事例は雲散してしまうのだから。

 

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2013年3月15日 (金)

【セミナ案内】 ぼくを変えたセミナのエッセンシャル版

あなたを変えた薬剤師
あなたを変えたセミナー
そういう経験はありますか?

【ぼくにはある】

 冒頭の質問への回答。ぼくにはあります。それは岡村先生の服薬ケアセミナー「新・服薬ケア概論」。

 ぼくの何が変わったのか? それを言葉で表すとなると難しい。なかなか指が動かない。でも、このセミナを受けなければ、そもそも概念を意識したり、摑んだりすることすらできなかったのではないかと思う。

 人間とは、仕事とは、医療とは、薬剤師とは・・・。

 薬局とは、医薬分業とは、その歴史とは・・・。

 POSとは、患者応対とは、そもそも人間の感情とは・・・。

 そして現状から考える実践的なこと。

 などなど、とても幅広い内容を、6回にわたって講義をうけ、そのつどそのつど、じぶんの考えをまとめていった。

 勉強という言葉はふさわしくない。それは、岡村先生からの技術の継承であったのだと思う。そして、ぼくはその技術を、経験や考えを土台に始動することができる。より高いレベルへきっと行ける。それが多くの患者の笑顔となる。

 技術というのは、個人の能力ではなく、みんなの能力を高めるものである(@森博嗣)

 技術とはかくあるべきものだ。

【バイブルテキスト】

 しかし、このセミナーはすべて受講するのはたいへんだ(近くで開催される方がうらやましい)。さらにテキストが厚い、重い。バイブルなのだが、とても携帯ができない。

 ということで、岡村先生にエッセンシャル版の執筆をお願いしていた。快諾をいただくも、先生も多忙で、時は流れて、忘れられたかなと思った矢先に・・・。

 服薬ケア特別セミナー開催! 本セミナー参加者には、テキスト「新・服薬ケア概論エッセンシャルズ」を割引価格にて頒布いたします。

 との連絡が! ありがとうございます。いや、信じてましたけど。

【服薬ケアセミナー案内】

 セミナーの案内です(※当日はレジメをお配りしますので、テキストなしでも受講できます)。

《 服薬ケア特別セミナー開催要項 》

日時:平成25 年3 月31 日(日) 10:00~16:00

場所:鹿児島市勤労者交流センター(よかセンター)
    第1会議室 (キャンセ7階)
    〒890-0053 鹿児島市中央町10番地 tel:099-285-0003

内容:講義①「生き残る薬剤師となるために
         ~あなたは本当に生き残れるのか?!~」
    講義②「新・服薬ケア概論エッセンシャルズ講義」

講師:服薬ケア研究所所長 岡村祐聡 先生

参加費: 5,000 円

募集人数:50 名(参加費入金をもって正式受付となります。)

問合せ先:服薬ケア研究所
〒305-0042 茨城県つくば市下広岡410-78
FAX 029-863-0299
E-MAIL:fukuyakucare-desk@yahoo.co.jp

 3月31日、鹿児島でお会いしましょう。

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2013年3月 8日 (金)

当帰芍薬散を服用中の患者がインフルエンザになったら

当帰芍薬散は冷え症によく用いられる漢方薬
冷え症の漢方は熱証には用いない
「発熱時は休薬するように」とアナウンスを

CASE 136

75歳 女性

定期処方:
Rp 1) ロサルタンK錠25mg 1錠 / 1x朝食後 28日分
Rp 2) ツムラ当帰芍薬散エキス顆粒 5g / 2x朝・夕食前 28日分
Rp 3) ユベラNソフトカプセル200mg 3錠 / 3x毎食後 28日分
Rp 4) ロキソニンテープ50mg 28枚

臨時処方:
Rp 5) タミフルカプセル75mg 2C / 2x朝・夕食後 5日分
Rp 6) カロナール錠300mg 1錠 / 1x発熱時 10回分

患者から得られた情報:
「インフルエンザだった。孫からもらったみたい。38.4度もあった」

薬歴から得られた情報:
① タミフルの服用歴は2回あり、副作用なし、腎機能NP
② 血圧と冷え症(足の冷え)の治療中
③ 服薬状況は良好

□CASE 136の薬歴
#1 発熱時はツムラNo.23を休薬する
  S) インフルエンザ(+) 38.4℃
 O) ツムラNo.23服用中
 A) ツムラNo.23で熱が下がりにくくなる
 P) 熱があるあいだは漢方薬を休薬しておきましょう。
  他の定期薬は今日の薬といっしょに発熱時もOK。
 
□解説
 当帰芍薬散は加味逍遥散、桂枝茯苓丸とならんで有名な血の道の漢方で、四物湯から派生している。色白で四肢が冷える、むくみやすいといった方に適している。CASE 137の患者も冷え症にて服用していた。

 今回のケースは、要するに、「ツムラNo.23(当帰芍薬散)は冷え症の漢方なので『熱証』には不適である」ただそれだけの話だったりする。

 だが、当帰芍薬散をたんに血の道の薬と認識していると、「カゼやインフルエンザでの発熱時には休薬を」というアナウンスを忘れてしまいがちだ。

 汎用されている方剤だけに、インフルエンザのシーズンには一言アナウンスしておきたい。

□考察
 冷え症の漢方といえば、他に当帰四逆加呉茱萸生姜湯や人参湯、附子理中湯などがあるが、やはりこれらもカゼやインフルエンザなどの発熱時には休薬が必要だ。

 また、他に同じような指導が必要な方剤に補気剤(CASE 79参照)がある。

 四君子湯や六君子湯、補中益気湯といった補気剤は、気虚による発熱(疲れたら熱が出る、夕方になると熱がでる)などには適するが、カゼやインフルエンザなどの外因による発熱時には、やはり休薬が必要となる。

 ここにあげた漢方は自分には合っているからと、しっかりと服薬を続けているような方が多い。アナウンスがなければ発熱時も飲み続けることになりかねない。

 せっかく「いつもの薬と飲み合わせは大丈夫ですか?」と問い合わせてくれても、「飲み合わせは問題ありません」ではもったいない。

 カゼやインフルエンザでは証が変わる。とくに寒熱の違いは意識しておきたい。

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2013年3月 1日 (金)

「中身がいいときほど、伝え方を、よく考えなければならない」

教育者と劇作家が語る「対話とコミュニケーション」
その考え方と伝え方は分野を超える

【意見に「正しい」「まちがい」はない】

 ある意見が正しいのか、それともまちがっているのか、それは本来的にはだれにもわからないことです。意見なんて、突きつめていえば、その根拠が事実として正しいかどうか、あるいは意見と根拠が適切に関連づけられているかどうかでしか評価できないものなんですから。 

(北川達夫、平田オリザ『ていねいなのに伝わらない「話せばわかる」症候群』 P. 49)

 
 意見に「正しい」も「まちがい」もない。一瞬、「えっ」となるけれども、たしかにその通りだ。正しいのか、それともまちがっているのか。それは意見のレベルにはない。それは事実としてどうなのか、あるいは事実と根拠の関連性においてどうなのかという段階でしか存在しないものなのだ。つまりは「構造上の正否の問題」といえる。

 では意見のレベルで、「その意見はまちがっている」と判断させてしまうものは何なのか。それは「価値観を語る好悪の問題」だ。

 構造上の正否の問題なのか、価値観を語る好悪の問題なのか。この二つを僕らはしばしば混同します。いや、ほとんどの議論では、正否の問題のつもりで語っていても、実は好き嫌いの問題なのです。論理構造的には、
「スパゲティとカレーライス、どっちが正しい?」
 というのと大差ない議論をしているのです。滑稽だと思いませんか?

 (岩田健太郎『「患者様」が医療を壊す 』新潮選書 P. 189-190)

  * 今月の1冊 「医療とは」を考える にて紹介

 価値観とは「私の見解」であって、それは「正しい」も「まちがい」もない。価値観の問題は価値観の問題として扱わなくてはならない。

 

 
【「思考の型」であるものを「表現の型」として完結させるな】

  大事なのは型や手本を示すという発想であって、固定的な型を守り続けることではないんですね。

 教室によく貼ってあるのは、どちらかというと「思考の型」なんです。論理の回路を頭のなかにつくるということ。そういう「思考の型」としては使えるんですが、「表現の型」ではないんですよ。「ある意見があって、それを支えている理由はというと、それは、理由一つ目、二つ目、三つ目……」と考える。そのあと「それをどう言うか」というのは、これは表現の問題です。

 (中略)

 あの型は、発想の方式を一般化したものであって、その通り言いなさいっていうことではまったくない。考えるときにはそういう型でおこなって、それを言うときは自分のことばで言うわけですから。

(北川達夫、平田オリザ『ていねいなのに伝わらない「話せばわかる」症候群』 P. 116-117)

 教育の問題を語るこの引用文に出てくる「思考の型」と「表現の型」。これはマニュアル社会の現代において、すべてに通じる問題だと思う。

 以前、疾患ごとの「薬歴の型」を考案したことがある。つまり「薬歴マニュアル」。だがそれは、完全に形骸化した。つまり失敗した。なぜかというと、患者情報の収集もそこそこに「薬歴の型」そのままに薬歴を記載してしまうからだ。おそらく電子薬歴で定型文を張り付けているのも、同じ状態なのだろう。

 そう、それらは「思考の型」であるものを「表現の型」として完結させてしまっているのだ。

 「思考の型」と「表現の型」は異なる。「思考の型」はその名の通り、思考のガイド、思考のパターンの一種であって、それをどう表現するか、どう伝えるかという「表現の型」とはまったく違うものだ。

 そもそも表現の問題には、対人スキル、コミュニケーションスキルが大きく関わっており、相手が変われば表現も変わって然るべきものなのだ。

【向こうのスタンダードだけだと価値がない】

 向こうのスタンダードだけでやってしまうと、それは価値があんまりないんですよ、向こうにとっても。同じ価値を持っていて、ただ英語の下手な人になってしまう。だけど、こちらにしか持っていないものがあって、それを向こうの言葉や思考様式でちょっと説明してあげると、それは相手にとっては新しい価値と出会うことになるので、すごくありがたがられる。

(同書 P. 171)

 これは専門分化している医療の分野においても重要な指摘だと思う。

 今後、薬剤師が幅広い分野で、多職種と連携して活躍していくうえで、医師と同じ視点しか持てないのなら、「薬剤師に何ができるの」「薬剤師が何をしにきているの」ということになりかねないからだ。

 医師がアウトプットを考慮して治療を進めていくなかで、ぼくらが薬理学(副作用学、相互作用学)や薬物動態学、製剤学、基礎薬学(有機化学、物理化学)などを駆使し、「未来を予測する」(@狭間研至先生)ことができてこそ、医師や多職種の方にとっても新しい価値となりうるのだ。

 そして、もう一つ大事なことが書いてあった。「それを向こうの言葉や思考様式でちょっと説明してあげると」というところだ。これはなぜか。その理由が「文庫版のためのまえがき」にある。

 「・・・、『中身がいい』というのは、どういうことだろう。それはオリジナリティがあるということにほかならない。オリジナリティがあるということは、だれも経験をしたことのない事柄ということだ。だとすれば、それはイメージのしづらいものなので、『中身がよければ伝わる』というのは論理矛盾であることがわかるだろう。それはまったく、精神論ではないか。中身がいいときほど、伝え方を、よく考えなければならない」

(同書 P. 4)

 薬剤師の専門性はオリジナリティのあるものだ。薬物動態学や製剤学などは薬剤師特有の分野だし、構造式に興味を示すのも薬剤師くらいだろう。

 だから、目の前の仕事をまじめにこなしていればよい、というわけではない。「『中身がよければ伝わる』というのは論理矛盾」なのだ。

 「中身がいいときほど、伝え方を、よく考えなければならない」

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