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2013年2月 8日 (金)

「NSAIDsによる血圧の上昇」という一般化をはねつける

「NSAIDsによる血圧上昇」
その理由は薬理作用から容易に説明できる。
それを現場でどう活かせばよいのか?

CASE 134

65歳 男性 

処方:
Rp 1) ブロプレス錠8mg 1錠・メインテート錠5mg 1錠 / 分1 朝食後

患者のコメント :
「痛み止めで血圧が上がることってあるの?」

患者から得られた情報:
① 肋骨を折って、整形に入院。退院後も服薬継続。
② お薬手帳より、併用薬:ハイペン錠200mg 2錠/分2 朝・夕食後
③ ハイペンを指示通り服用、むくみ(-)
④ さいきんはあまり痛みがないので、飲み忘れもある。
⑤ (ハイペン服用)以前の血圧120/80くらい
⑥ 現在、血圧140-150/ 90-95になることがある

□CASE 134の薬歴
#1 ハイペンによる血圧上昇への対応
  S)「痛み止めで血圧が上がることってあるの? 」
     以前の血圧120/80が、痛み止めを飲みだして140-150/ 90-95に
 O) 他科:整形(肋骨を折って入院していた)
   併用薬:ハイペン錠200mg 2錠/分2
   むくみ(-)、痛みがあまりないために飲み忘れもある
 A) NSAIDs→PG↓→水分貯留、ARBの効果減弱
   さらに服用状況によって、血圧変動を大きくしているのだろう
 P) 痛み止めは水を貯めこむ作用があるので、血圧↑となることがある。
   あまり痛みがないのなら痛み止めを中止して、様子をみて。
   塩分十か条にて塩分指導。
 
□解説
 血圧コントロールで通院中の患者さん。「さいきん血圧が高いんだよね~」と来局される。

 お薬手帳を確認すると、肋骨を折って痛み止めを服用しているという。ハイペンを飲みだしてから、血圧が高くなっていないかを確認すると、「痛み止めで血圧が上がることってあるの?」と驚きながらも、「たしかに」となる。

 血圧はだいたい 120/80 → 140~150/90-95 と変化している。

 かなり上がっている。薬理作用的にハイペンが影響していることは間違いない。

 <ハイペンの慎重投与(ハイペンの添付文書より)>

Photo

 <ブロプレスの相互作用(ブロプレスの添付文書より)>

Arbnsaids

 

□考察
 じつはこの症例、ずいぶん前に経験していた。ただ、NSAIDsによる血圧上昇やARBとNSAIDsの併用といった一般化された知識をどう活用すべきかを思いつかず、そのままになっていた。

 そんな折、堀美智子先生の勉強会に参加する機会を得た。

 「病院薬剤師も薬局薬剤師も知っておきたいOTC薬 第4回」

 講師:医薬情報研究所/(株)エス・アイ・シー  堀美智子 先生
 日時:平成25年1月26日(土) 16:00~18:00
 場所:熊本県薬剤師会館 多目的大ホール

 

 そこでこの問題についての言及があった。

 NSAIDsの服用により、水分貯留がおこり、一般的に血圧が「5」くらい上昇する。この「5」という数字は以前の高血圧ガイドラインには記載があったそうだ。しかし個人差が大きいために削除されたらしい。

 堀先生は提案する。

 「痛み止めを飲んだとき、どのくらい血圧が変わるか、測ってみて」

 こういう「個人データ」が大切なのだ。これが「現場の強さ」である、と。

 たとえば痛み止めを飲んで血圧が10上がるなら、その旨の注意を促し、塩分指導などを行う。もしくは痛み止めを飲んでも血圧に変化がないなら、その影響がないこと自体が、その方のデータとなるわけだ。

 堀先生の講演をききながら、ハッとなった。今回の症例が頭をよぎる。そして思い至る。僕はなんて勘違いをしていたんだろう、と。

 僕らは一般化された知識を用いて患者応対にあたる。でも個別の症例にあたるときは個人のデータを蓄積し、それを活用するべきなのだ。そのための薬歴、そのためのかかりつけだった。

 堀先生のお話は、そういうあるべき姿を示唆してくれた。

 話は戻って、症例の患者。薬歴を取り出し、「ハイペン(200)2T/2xで血圧が20以上も上昇」という個人データをフェイスシートに書き込んだ。

 一般化をはねつけてこそ愛だ。だから医療は愛なんだ。

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