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2012年11月 2日 (金)

私とは何か? 思考の足場としての概念

「私とは何か」この哲学的なアイデンティティの問い
「分人」という個人より一回り小さな単位の導入で思考の足場を構築する

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【議論のための足場としての概念】

 私たちは現在、どういう世界をどんなんふうに生きていて、その現実をどう整理すれば、より生きやすくなるのか? 
 分人という用語は、その分析のための道具に過ぎない。
 漠然と気づいていることを、改めて考えるためには、どうしても、言葉が必要である。「無意識の存在」を、フロイト以前の人間がどんなに感じ取っていたとしても、話題とするためには、やはり適当な用語が与えられなければならなかった。 (平野啓一郎『私とは何か』講談社現代新書 P. 8-9)

 概念とは考えるための道具だ。それがあるから、それを使って他の現象を分析していくことができる。

 たとえば、いま慢性疾患の患者にたいして「コンプライアンス」から「アドヒアランス」へと概念のスイッチングが行われている。そしてその用語があるから、アドヒアランスをよくするためにはどうすればよいのか、という思考が生まれる。

 その足場があるから、そのためのコミュニケーションスキルを磨いたり、嚥下困難だけではないアドヒアランス改善のためのOD錠が生まれたりするわけだ。「ちゃんと薬を飲んでくれたらな~」という漠然としたものではなく、積極的な服薬行為に向かうような対策がうてるようになる。

 「分人」も現状から一歩踏み込んで考えるための足場なのだ。

 私とは何か? そもそもこの問いに答えはない。アイデンティティにかかわる、この哲学的な問いは問い続けること自体に意味がある。たとえ個人的な答えがあったとしても、あなたの答えが私の答えになるとはかぎらない。

 著者もこの本でその答えを提出しているわけではない。「分人」という概念を、考えるための足場を提出しているにすぎない。そして、この生きにくい多様化した社会で生きていくための一助になればよいと考えているのだろう。

【「分人」という新しい単位】

 人間は決して唯一無二の「(分割不可能な)個人 individual」ではない。複数の「(分割可能な)分人 dividual」である。 (同書 P. 36)

 分人とは対人関係ごとの様々な自分のことである。恋人との分人、両親との分人、趣味の仲間との分人、・・・・・・それらは、必ずしも同じではない。
 分人は、相手との反復的なコミュニケーションを通じて、自分の中に形成されてゆく、パターンとしての人格である。(中略) 
 一人の人間は、複数の分人のネットワークであり、そこには「本当の自分」という中心はない。 (同書 P. 7)

 私というこの不思議な存在。この問いに悩んでいる(または、悩まされた)人は少なくないだろう。よく耳目する返答に「本当の自分なんてものはない」というフレーズがある。だが、そこで投げ出されても、この哲学的な問いに対する思考がすすんでいくことはない。そうしてその問い自体を忘れていく人がほとんどなのだろう。

 この状態にたいして著者は新しい概念を提出する。それが「分人」。対人関係ごとに立ち上がる分人が、ぜんぶ自分なのだ。

 そしてこの分人という概念を使えば、「個性」「愛」「嫉妬」「(訃報の)悲しみ」といった概念を言語化することができる。たとえば「個性」は・・・。

【個性とは分人の構成比率】

 そして、その人らしさ(個性)というものは、その複数の分人の構成比率によって決定される。
 分人の構成比率が変われば、当然、個性も変わる。個性とは、決して唯一不変のものではない。そして、他者の存在なしには、決して生じないものである。 (同書 P. 8)

 誰とどうつきあっているかで、あなたの中の分人の構成比率は変化する。その総体が、あなたの個性となる。十年前のあなたと、今のあなたが違うとすれば、それは、つきあう人が変わり、読む本や住む場所が変わり、分人の構成比率が変化したからである。 (同書 P. 89)

 誰とどうつきあっていくか? つまり、いまつきあっている人といっしょにいる時の自分(分人)は好きか? もしNOなら、つきあう人間を変えるのがいちばんだ。できないのなら、その分人の比率を下げるしかない。人生は短い。もし自分のことが嫌いなら、どの分人がイヤなのかを考え、その分人が占める割合を小さくしていくしかない。

 たとえば、たった一度の出会いでも大きな分人を立ち上げることは可能だ。もっといえばそれは本でも映画でも構わない。

 分人の構成比率を意識して自分を高める。それが漠然とした問題に対する糸口になり得る。

 あなたの中の、どの分人が好きですか? その分人を大きく育てよう。そうすればもっと好きな自分が立ち上がってくる。

 

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