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2012年2月24日 (金)

メトグルコと脱水

ビグアナイド系(BG)と脱水
副作用のリスク因子としての患者の状態
重要なO情報だ

CASE 112

60歳 男性  

定期処方:
Rp1) イルベタン錠50mg 1T・アマリール錠1mg 1T / 1x朝食後 28日分
  2) メトグルコ錠250mg 3T / 3x毎食後 28日分
  3) プロテカジン錠10mg 1T / 1x夕食後 28日分

臨時処方:
 4) ホスミシン錠500mg 4T / 4x毎食後と寝る前 4日分
 5) プリンペラン錠5mg 3T・ビオフェルミンR錠 3T / 3x毎食後 4日分
 6) ロペミンカプセル1mg 2C / 2x朝・夕食後 2日分

患者から得られた情報:
① 胃腸炎にて水様下痢、嘔吐
② 昨晩から食事(-)→ 「アマリールは飲んでないよ」

薬歴から得られた情報:
① 食事がとれない時にはアマリールを服薬しないように指導できている
② 肝機能や腎機能などにはとくに問題がない
③ 定期処方は半年以上、変更なし
④ HbA1cは7前後で推移中

□CASE 112の薬歴
#1 脱水リスクがあるのでメトグルコも控えておく
  S)アマリールは飲んでないよ(他薬は飲んでいる)
 O) 胃腸炎にて水様下痢・嘔吐→脱水傾向(+)
 A) 脱水+BG→乳酸アシドーシス
 P) 脱水がいちばん怖いので補水をしっかりと。
   下痢・嘔吐が続いているあいだは、メトグルコも控えておきましょう。

 
□解説
 高血圧、糖尿病にて通院中の患者さんが、胃腸炎で来局される。

 いわゆるシック・デイだ。「アマリールは飲んでないよ」とのコメントより、アマリールの薬識を推し量ることができる。メトグルコだけなら低血糖のリスクはそんなに高くはない。それよりも乳酸アシドーシスだ。

禁忌

1. 次に示す状態の患者〔乳酸アシドーシスを起こしやすい。〕

(7) 脱水症、脱水状態が懸念される下痢、嘔吐等の胃腸障害のある患者

重要な基本的注意

3. *脱水により乳酸アシドーシスを起こすことがある。脱水症状があらわれた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。

                                                                 (メトグルコ 添付文書より)

 こういう状態でBGを続けると乳酸アシドーシスのリスクが増大する。よって下痢・嘔吐が改善するまで、アマリールだけではなく、メトグルコも控えるように伝えている。

 
□考察
 インスリンを導入していない患者において、医師からシック・デイの指導を受けている患者は(わたしの経験上)まれだ。薬局でもSU剤のアナウンスはできているが、BGについてはどうだろうか。

 薬情には「脱水時には(BGの)服用を控えるように」と記載してはいる。しかし、いつもの薬なら、ほとんど読まれることがないのではないだろうか。インフルエンザや胃腸炎の流行時には、前もってアナウンスしておきたい。

 インフルエンザの発熱や胃腸炎による脱水。こういう患者側のリスク因子は重要なO情報となる。

 薬剤サイドからだけでなく、患者の状態や病態サイドの視点も忘れないようにしたい。

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2012年2月17日 (金)

四君子湯とその派生処方 その2

主薬が変わると効能が変わる
人参湯の主薬は乾姜
苓桂朮甘湯の主薬は茯苓

 四君子湯の派生処方である人参湯と苓桂朮甘湯。2剤とも主薬が人参ではない。主薬が変わると目的や効能がガラッと変わる。

【基本処方:四君子湯(詳細は四君子湯とその派生処方 その1参照

 四君子湯は補気剤の基本処方。胃腸を整えて気を補う、補気健脾の効果がある。

 No.75(四君子湯) : 人参、茯苓、白朮、甘草、生姜、大棗
 
 適応:脾気虚

 主薬はもちろん人参。これは補気剤にはすべて入っている。白朮が脾を強くし、茯苓が脾の水をさばき、甘草が諸薬を調和する。これら4つの生薬が君子のようにすばらしいから「四君子湯」といわれる。ちなみに、「生姜+大棗」は副作用防止と作用緩和のためで、本処方を含め、多くの方剤に含まれている。

【四君子湯の派生処方】

 No.32(人参湯) : 乾姜人参、白朮、甘草

 適応:脾胃虚寒

 四君子湯の茯苓乾姜にしたものが人参湯だ。その主薬は乾姜である。乾姜は脾胃を温めて、陽気を強め、裏寒を除く。人参湯は消化器の異常を治す要薬であり、理中湯とも呼ばれる(「中」はお腹つまり消化器、「理」はおさめるの意)。

 それにしても、人参が主薬ではないのに人参湯とは、なんとも逆説的なネーミングだ。

 <参考> 「人参+乾姜」の配合法則 : 裏虚証用に広く用いられる
       
  (健保適用エキス剤による漢方診療ハンドブック新版 P.54)

 食欲不振、胃痛、膨満感、下痢などの症状で、四肢が冷える、温かいものを好む者に適している。

 つまり、「虚寒」があるかどうかがポイントだ。「冷たいものを食べると胃が弱る」もしくは「寒くなると食欲がなくなる」といったタイプには、六君子湯ではなく人参湯が適している。 
 

 No.39(苓桂朮甘湯) : 、白
 
 適応:痰飲

 四君子湯の人参桂枝にしたものが苓桂朮甘湯だ。構成生薬は方剤名の中にその4つがふくまれており、覚えやすい。その主薬は茯苓であり、脾の水をさばく。また茯苓は、白朮とともに水の偏在を調整する。桂枝はのぼせや頭痛に、甘草は調和に配合されている。

 水の偏在でおこる症状にめまいや立ちくらみがある。苓桂朮甘湯はめまいや立ちくらみの特効薬ともいわれており、胃腸虚弱で低血圧の方に適している。

 
【投薬時の注意点】

 No.32(人参湯):手足のほてりやのぼせなど陰虚の症状のある者にはさける。また、発熱時は用いない。
              
 No.39(苓桂朮甘湯):高血圧からくるめまいには適さない。

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2012年2月10日 (金)

シベノールによる低血糖

抗不整脈薬での低血糖
Ia群で腎排泄型のシベノールとリスモダン
用量と患者背景でリスクを勘定する

CASE 111

65歳 男性 

処方:
Rp1) グラクティブ錠50mg 1T・バイアスピリン錠100mg 1T・メインテート錠2.5mg 1T・アマリール錠0.5mg / 1x朝食後 14日分
 2) シベノール錠100mg 3T・マグミット錠330mg 3T / 3x毎食後 14日分
 3) クレストール錠5mg 1T / 1x夕食後 14日分

<*前回の処方との変更点>
 ① アマリール錠1mg 1T → アマリール錠0.5mg 1T
 ② シベノール錠100mg 3T/3x 追加

患者のコメント:
「今まではなかったんだけど、さいきん食事が遅れると、低血糖のような症状が出るんだよ」

患者から得られた情報:
① 倦怠感・空腹感・あくび(+)、発汗・ふるえ・動悸(-)
② 2週間前に不整脈で救急病院へ。シベノール300mg/日追加となる。
③ 腎機能は正常 S-Cr:0.7 BW:70kg
④ 血糖値「測ったけど忘れた。そんなに低くはなかったよ」

□CASE 111の薬歴
#1 シベノールによる低血糖
  S)今まではなかったんだけど、さいきん食事が遅れると、低血糖のような症状が出るんだよ
   倦怠感・空腹感・あくび(+)、発汗・ふるえ・動悸(-)
 O) アマリール減量(1mg→0.5mg)にて対応。血糖値不明「そんなに低くない」
     2週間前から不整脈で、シベノール300mg/Dayスタート 
 A) シベノールによる低血糖かも
 P) 今回はアマリールが減量になっているので様子を見て。
   不整脈の薬で糖が下がりやすくなっている可能性あり。
   ブドウ糖を提供。食事の時間にも注意を。
     Drにも伝えておきます(トレースレポート提出)。
 
□解説
 低血糖の聞き取りに対して不思議そうに答える患者。「いままでと食事も生活も変わらない。不整脈の薬を飲みだしたくらい」と。

 抗不整脈薬のシベノールとリスモダンには、薬理作用の過剰発現による副作用の「低血糖」がある。そのリスクは用量依存的で、飲み始めや増量時に発現しやすい。

 一方、単純な過剰効果ではなく、増量により治療の目的となる臓器とは別の臓器に薬理作用が発現し、患者さんにとって有害な反応が起こることもある。たとえば、抗不整脈薬のコハク酸シベンゾリンは、心筋における各種Kチャネル遮断作用により不整脈を治療するが、そのKチャネル遮断作用が膵β細胞に現れた場合、インスリンの分泌を促進し低血糖が発現する。特に増量時や腎機能の低下した高齢者に現れやすい事象だけに、その時期には注意が必要である。(虎の門病院・林昌洋(2007). Quality Pharmacy 2007 No.11)

 適正な血中濃度ならば、それらの薬は心臓で期待された薬理作用を発揮する。しかし過量になると、膵臓にも分布して低血糖をひきおこしてしまう。

 また用量以外のリスク因子には、低体重、腎機能低下、心不全、高齢者そして糖尿病がある。

 今回のケースでは、腎機能には問題がないものの糖尿病で300mg/Dayなので可能性は高い。しかし医師はアマリールの減量で対応しているので、患者へのアナウンスとトレースレポートにて経過観察を行うことにした。

□考察
 シベノールとリスモダンはともに腎排泄型の薬剤なので、用量だけでなく、腎機能にも注意払う必要がある。そして、糖尿病ではない方にも起こり得ることにも。糖尿病もリスク因子の一つにすぎない。

 Vaughan Williams分類でClassⅠa抗不整脈薬の低血糖は,膵β細胞KATPチャネルのサブユニットKir6.2に直接結合してチャネル活性を抑制することが判明(SU薬は,もう1つの膵β細胞KATPチャネルのサブユニットSUR1に直接結合してチャネル活性を抑制する)しています。併せて,膵外組織においてもKATPチャネル活性低下を介した作用が想定され,低血糖症に関しては,骨格筋における糖取り込みの亢進や視床下部腹内側核を介したグルカゴン分泌低下などが誘発や遷延の原因と考えられています。このため,低血糖症の副作用は耐糖能異常のない場合でも発生する可能性があり,注意が必要です。 (日病薬誌 第45巻9号(1191‒1194)2009)

 とくに高齢者では、潜在的な腎機能の低下にくわえ、無自覚性低血糖の問題もある。さらに、β-ブロッカーを服用していると低血糖症状がマスクされてしまうこともある。

 今回のケースでも、倦怠感・空腹感・あくびの自覚はあるものの、発汗・ふるえ・動悸といった症状はなかった。血糖値の下がり具合かもしれないが、メインテートの影響もなきにしもあらず、かな。

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2012年2月 3日 (金)

「医療とは」を考える その3

岩田健太郎先生 Book review 第3弾

「すべての病気は『現象』にすぎず、病気は実在しないのです」
「ある現象を病気と呼ぶか呼ばないかは、目的に合致した恣意性が決めればよいのです」


医療行為とは何か? 何のためにするのか?

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岩田健太郎「感染症は実在しない 構造構成的感染症学」北大路書房

病気は現象にすぎず実在しない、「もの」ではない。これは目的に照らし合わせて医療者が恣意的に規定した「こと」にすぎないと、私は考えています。(P.11)

 病気が実在しているのではない。医療技術や検査の進歩、新たなエビデンスといったものによって、医療者が病気のラインを決めているにすぎない。

 もっといえば、例えば、わたしはインフルエンザにかかったことがない。だって検査をしたことがないから。また、ある病院で看護師長が部下の看護師へのグチをこうこぼした。「こんな時期に検査をするなんて信じられない。インフルエンザになるに決まっているじゃない。たいした症状でもないのに・・・。もう人が足りないのに・・・」

 病気は「もの」ではなく「こと」である。繰り返される著者の主張。これは決して悪い意味で言っているのではない。

病気を恣意的に作り上げることこそが、ある意味、医者の大きな役割のひとつなのです。ですから、医者の病気のねつ造、でっちあげ、恣意的な作り上げというのは決してネガティブな意味で言っているのではありません。ただ、虚心坦懐に考えてみると、病気は実在せず、ただ人によって恣意的に規定された「こと」にすぎないのだ、という事実を述べているだけです。それについての価値判断はまた別の話です。(P.55)

 良い悪いという話は置いておく。ここで大事なことは、その時代その時代の基準によって病気が変わるということ。同じ病名であっても、その中身が変わる。そして、治療方法も変わってくる(講演会なんかでパラダイムシフトなんて言葉をよく耳にするけど、そんなにしょっちゅうって思っちゃうし、時代の曲がり角なんて言葉だって、いつも曲がり角ばっかで直線なんてなかったじゃないって)。

 ガイドラインや新薬を勉強して、医療水準的なものに後れをとってはいけない。勉強不足の医療者は罪でもある。しかし問題はもっと根底にある。

 問題は、そのような恣意的な存在でしかない病気を実在すると信じ込み、そしてそれを「病気があるから」という理由で「治療しなければならない」と決めつける態度にあると思います。
 その「強制性」こそが問題なのです。(P.187)

 統計学を学ぶと医療の力はこんなものなのか? と落胆することもある。それは血液検査が正常値から逸脱しているという「ささやかな病気」において顕著にあらわれる。

 薬剤師は処方せんという医師の指示のもとに服薬支援を行うわけだから、特別な理由もなく「飲みたくないですよね~」と同調することはできない。でも、「決めつける態度」や「強制性」といったものに対して何もできないわけではない。

 では、医療行為とは何かというと、何のためにするかというと、それは個人個人の価値観との交換行為のためだと私は思います。(P.190)

 不安をあおるテレビ番組やその他マスコミは、どんなにお偉い先生方を招へいして権威づけをしたとしても、人びとを病院に向かわせたとしても、それは医療ではない。それはバラエティにすぎない。

 医療は人間関係。患者の価値観を尊重することからはじめたい。

 その薬が患者のリスクをほんのちょっぴり減らすものにすぎなくても、不安を減らし、人生をよりよいものにできるのなら、その医療行為には価値があるのだから。

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