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2011年11月 4日 (金)

「医療とは」を考える その2

医療者にかかるバイアスとは?
そして日本の医療のあるべき姿と
そのために必要な語り口とは?

岩田健太郎「ためらいのリアル医療倫理」技術評論社

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【医療者にかかるバイアス】

 YES or NO といった命題は医療というフィールドにふさわしくない。その理由の一つに「口調」の問題がある。

 医療者には、生命維持バイアスのようなものがあります。健康によければ、だれもが賛成してくれるだろうという「正義のエゴ」が多かれ少なかれ(僕にも)あります。しかし、それは一般社会では必ずしも全面的には受け入れられていないのです。その「受け入れられていない」という事実に気がついていない医療者は、割と多い。(P.141)

 たしかにこのバイアスは存在する。ただそれを意識することは多くはない。いや故意にその意識を遮断してしまっているのかもしれない。しかし恣意的なものはあっても強制的なものはないはず。「健康」だって例外ではない。だからこそ一般社会に全面的に受け入れられていないのだろう。

 そして、そういうバイアス的なものにもっと自覚的になれば、その口調も断定的ではなくためらい的なものにならざるを得ないのだろう。

 

【逆説的な心構え】

 患者に関する本質的な問題解決を医療者自身の力でもたらすことは、実は僕らが信じているよりも多くはありません。僕らは、患者に対してとても無力な存在なのです。自分たちがそうありたいと思う基準に比べればずっと。この厳しい現実を理解することが、一歩前進の前提となります。この冷徹な理解を持たず、「患者の気持ちが分からないと一人前の医者とは言えない」なんて生意気な口をきいているうちは、いつまでたっても患者と医療者は歩み寄れません。医療者が手前勝手の論理と道徳を押し付ける温床にしかなりません。(P.21)

 なりたいものを目指せば目指すほどそれは遠のいていく。患者の気持ちをわかろう、わからないといけない、なんて純粋な、一方では傲慢な心構えが医療者と患者の心を遠ざける。医療者からの押し付けとそれにうんざりする患者という構図を生み出す。それは皮肉とも、当然とも見える。

 「患者の気持ちが分かる」と思った瞬間、その医療者は患者の上位に立ってしまいます。ラテラリティー(一方性)が生じるのです。(P.22)

 「患者の気持ちなんて本当のところは分からない」。でも医療者として患者の役に立ちたい。だって患者の役に立つことこそが医療の本質なのだから。

 分からないなりに想像し、ためらいながらも情報提供をしていく。そちらのほうが傍から見ればよっぽど患者の気持ちが分かる医療者に見えるのだろう。

 まさに逆説的な心構えが必要なわけだ。

【派生概念を丸呑みすることで生じる無理】

 患者の守秘義務(個人情報の保護)とか、インフォームド・コンセント(説明されて、同意するというような意味です)という概念も実は、患者の自己決定権の強さから派生されてできた概念です。自己決定権があるから(あるいは個人という「自己」があるから)こそ守秘義務があり、インフォームド・コンセントが生じるのです。(中略)

 繰り返しますが、日本における医療者と患者の関係はアメリカのそれのような厳密な契約関係にはありません。医療の姿は「何を大切にするか」という価値がそのあるべき姿を決定します。したがって、自己決定権という価値の重みが異なる社会においては、そのありようが同列に扱われるのは不自然であり、日本における患者の自己決定権や個人情報の扱いと、アメリカのそれとが異なるのはむしろ当然だと思います。(P.131)

 カルテ開示や薬歴開示を求めてくる患者もいるにはいる。しかしその数は非常に少数で、何かトラブルのようなものがあったときがそのほとんどだ。つまり日本の患者の多くは医療者を基本的には信用してくれている。だから薬の名前もなかなか覚えてくれない。

 いやいや、それは信用ではなく、文化の問題だ。欧米は自立文化で、日本は依存文化だからだよ。そういう意見もあるだろう。でもそれでも問題は同じだ。

 欧米は自立文化だから「自己」「自己決定権」が色濃くあって、そのうえに派生概念が生じている。対して日本のそれは文化としての色合いが薄い。だから自己決定権の派生概念である個人情報保護やインフォームド・コンセントを日本の医療に持ち込んでもしっくりこないわけだ。いやむしろ足枷といいたい。

 医療の姿は「何を大切にするか」という価値がそのあるべき姿を決定する。

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