« 2011年2月 | トップページ | 2011年4月 »

2011年3月25日 (金)

花粉症×バナナ3本×高K血症

マスメディアによる健康情報
これほど迷惑な話はない
患者の健康を害することはあっても貢献することはない

CASE 89

75歳 男性

他科受診:耳鼻科  併用薬:ジルテック錠10mg

処方内容:
Rp1) ディオバン錠40mg 1T / 1x朝食後 21日分
 2) ヘルベッサーRカプセル100mg 2C / 2x朝食後と寝る前 21日分
 3) ニトロペン錠0.3mg 1T / 発作時 10回分
 
患者からのコメント: 「血糖値が高かった。なんに注意すればいい?」

薬歴から得られた情報:
① ニトロペンの処方は久しぶり
② 耳鼻科で治療しているが、花粉症はよくない

患者から得られた情報:
① ニトロは時々使っている。最近、使用頻度が増えている
② 血糖値の指摘は初めて
③ バナナが花粉症によいと聞いて、毎日3本食べている

□CASE 89の薬歴
#1 高K血症を引きおこしているかもしれないのでバナナを控える
  S)バナナが花粉症によいと聞いて、毎日3本食べている
 O) ニトロの使用頻度↑
    血糖値↑の指摘(+)
 A) カロリの問題だけでなく、
    ARB+K→高K血症→ニトロ使用 になっているのでは?
 P) バナナ3本はカロリの摂りすぎだけでなく、Kも摂りすぎになって
    心臓に負担をかけているかもしれないので、極端なことはやめましょう。
    ドキドキしたり、体がだるくなったりします。
 R) せっかくがんばって食べていたのに。だるさもあるよ。
    そういえば、昔、Kを注意されたことあったな~。バナナはやめとこう。

□解説
 きっかけになった患者のコメントは「血糖値が高かった。なんに注意すればいい?」であった。しかしきっかけになったコメントが(S)になるとは限らない。薬剤師としてフォーカスした情報が(S)だ。私は「毎日バナナ3本」という情報にフォーカスした。

 バナナを毎日3本となるとカロリもそうだが、もっと心配なのはK(カリウム)だ。バナナはKが豊富な果物であり、患者はARBを服用している。その結果、高K血症となっているかもしれない。

 高K血症の初期症状:体がだるい、どきどきする

 (木村健「患者ケアのための薬学管理ハンドブック」じほう)

 動悸、つまりニトロの使用頻度増加は高K血症からかもしれない。そう考えて、バナナを控えるように促している。

 患者のレスポンス(R)から、「体のだるさ」も確認できたので疑惑はいっそう高まるが、理解も得られたようなので、経過を見守ることにする。

 
 
□考察
 投薬後、ことの真偽を確かめるべく検索をかけてみた。

 「花粉症にバナナ効く」東京理科大、マウスで実証
 バナナを食べると花粉症が改善される可能性があることが、東京理科大の谷中昭典教授らの動物実験で分かった。

 バナナの成分が免疫バランスを改善し、アレルギー症状を抑えるらしい。大津市で開かれた日本機能性食品医用学会で、12日発表した。

 谷中教授らは花粉症のマウスに、1日約10グラムのバナナを3週間与え、通常のエサを与えたマウスと比較した。その結果、バナナを食べたマウスは、アレルギーを引き起こす物質の量が通常食のマウスの半分以下に減り、花粉症になると増える白血球の一種「好酸球」の数も、正常マウスと同レベルまで減少していることがわかった。谷中教授は「マウスにとっての約10グラムは人間では3~4本に相当する量だろう。人でも症状が軽くなるかを調べたい」と話している。

(2010年12月14日 読売新聞)

 なるほど。確かにバナナ3本とある。
 花粉症に苦しむ患者が藁をもつかむ思いで、バナナを食べ続けたのだろう。この行動は患者の健康願望の表れなのだ。

 バナナで動悸やだるさがおこり、心臓や腎臓に負担をかけるなんてことは夢にも思わないだろう。薬剤師サイドも毎日バナナを3本食べ続けるなんて想像できるはずもない。

 きっかけはやはりマスメディアだ。動物実験のデータでも新聞やTVが権威付けしてしまう。困ったものだ。

 私はTVも新聞もほとんど見ないが、患者を危険にさらす、このような情報にはアンテナを張る必要がありそうだ。

にほんブログ村 病気ブログ 薬・薬剤師へ

人気ブログランキングへ

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年3月18日 (金)

透析導入のタイミング

参加勉強会:第20回熊本腎と薬剤研究会
        「Dr.ジンゾーの腎と透析の基本講座」
日時:2011年2月17日 19:00~
場所:熊本県薬剤師会館

 「クレアチニンがどのくらいになったら、透析になるんですか?」 投薬の際、こんな質問にときどき遭遇する。えてして、このような質問をしてくる患者さんはまだまだ透析を考えるようなレベルではないことが多い。なので、安心してもらうようにお話することが多い。 

 しかし、きわどい患者さんには「クレアチニンだけでは一概には言えません。先生の判断によるところが大きいですね」とわかったような、わからないような回答に終始することもままある。

 ‘先生の判断’。この部分についてのお話を講演の質疑応答の中で伺うことができた。透析導入のタイミングの質問に対して、先生は「私見ではあるが」と断りをいれたうえで、「クレアチニンの数値より臨床症状で判断する」と返答された。

 クレアチニンは腎機能というよりも、そのもの自体はゴミにすぎない。掃除をしていない金魚鉢を想像してみる。糞などのゴミが多くとも、じっとしていればゴミは舞い上がらず、金魚は上のほうで生きていける。食事量が多かったり、運動過剰ならばそうはいかないが、クレアチニンだけなら、食事療法でなんとかいけることもある。クレアチニンクリアランスが1ケタでも3年もったケースもあるそうだ。

 では、検査値はまったく役に立たないのか。そうでもないらしい。先生が着目している数値がある。それは「重炭酸イオン」だ。これが20以上あるなら透析は不要であり、10を切るようなら透析は必要である。

 つまり、酸がたまってくること(アシドーシス)が問題なのだ。

 なるほど。納得はいったが、患者さんからの質問には‘先生の判断’としか答えられそうにない。薬剤師としてはこの手の質問に直接答えようとはせずに、納得して服用してもらえるようなアプローチを考えていきたい。

にほんブログ村 病気ブログ 薬・薬剤師へ

薬剤師ブログタイムズ ブログランキング参加中! クリックしてこの記事に投票

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年3月11日 (金)

アドエアディスカスとエアゾール

アドエア250ディスカスとアドエア250エアゾール
違いは剤型だけではない
患者から得られた情報を鵜呑みにしてはいけない

CASE 88

40歳 女性 

他科受診:なし  併用薬:なし

処方内容:
Rp1) レボフロキサシン錠100mg 3T・アストミン錠10mg 6T・ムコダイン錠500mg 3T / 3x毎食後 3日分
 2) カロナール300mg 1T / 発熱時 5回分
 3) アドエア250ディスカス60吸入用 1キット 1日2回 1回1吸入
 

患者のコメント:
①「エアゾールの在庫がないから、同じ薬のディスカスを出しておくと。
  ディスカスも以前使っていたのでわかります」
②「えっ、1回1吸入なんですか?」 

患者から得られた情報:
① 半年前までアレルギー科でBA治療をしていた
② 「カゼをひいたら、ひさしぶりに苦しくなってね」
③ メプチンエアー、メプチン錠、テオドール錠→動悸・ふるえで使えない
④ 半年前は、アドエア250エアゾールを使用
⑤ アドエア250ディスカス、アドエア500ディスカスも使用経験(+)
⑥ ディスカスの手技、うがいについての理解OK

□CASE 88の薬歴
#1 アドエアディスカスの用法・用量を理解する
  S) えっ、1回1吸入なんですか?
 O) 半年前までアドエア250エアゾールを使用
 A) エアゾールが1回2吸入のため、今回も1回2吸入と思い込んだのだろう
   ディスカスは1回1吸入のみと理解してもらう
 P) 500ディスカスの1吸入と250エアゾール2吸入が同じ量なんです。
   今回は250ディスカスを1回1吸入を1日2回の指示です。
   気管支を広げておく薬の関係で1回に2吸入してはいけません。
   自己調整せずに続けて様子をみてください。
 R) そうなんですね~。危なかった~。
 * 次回、吸入状況、コントローラの理解度チェック

 
□解説
 じつはアドエアにエアゾールタイプがあることを知らなかった。アドエアの添付文書を確認する。同じ250という表示でもディスカスとエアゾールだと1吸入に配合されている薬の量が違うことがわかる。つまり用法が異なる。患者の「以前使っていたのでわかります」を信じていたら、危なかった(ヒヤリ・ハット報告もしておいた)。

 アドエアディスカス・エアゾールの用法・用量

通常、成人には1 回サルメテロールとして50μg及びフルチカゾン
プロピオン酸エステルとして100μgを1 日2 回吸入投与する。
・アドエア100ディスカス 1 回1 吸入
・アドエア50エアゾール 1 回2 吸入
なお、症状に応じて以下のいずれかの用法・用量に従い投与する。
1 回サルメテロールとして50μg及びフルチカゾンプロピオン酸エステルとして250μgを1 日2 回吸入投与
・アドエア250ディスカス 1 回1 吸入
・アドエア125エアゾール 1 回2 吸入
1 回サルメテロールとして50μg及びフルチカゾンプロピオン酸エステルとして500μgを1 日2 回吸入投与
・アドエア500ディスカス 1 回1 吸入
・アドエア250エアゾール 1 回2 吸入
 

 つまり、以前はアドエア500ディスカス相当の吸入をしていたのに、自己中断している患者ということになる。今回は用法・用量中心の服薬支援に終始してしまったので、コントローラへの理解度については次回に申し送っている。

 
 
□考察
 「患者を信じること」と「情報を鵜呑みにする」ことは違う。とくに我々は情報を取り扱うことを生業としている職業なのだから、情報を鵜呑みにすることは許されない。

 知らない情報に対しては正直に知らないことを告げ、時間をもらって確認し、学びを得られたことに感謝する真摯な態度が必要だ。

 知ったかぶりや情報を鵜呑みにすることでリスクを負うのは患者であって我々ではない。そのことを忘れないようにしたい。

にほんブログ村 病気ブログ 薬・薬剤師へ

薬剤師ブログタイムズ ブログランキング参加中! クリックしてこの記事に投票

| | コメント (2) | トラックバック (0)

2011年3月 4日 (金)

「自立」はいかにして達成されるのか?

「自立」と「孤立」は違う

「自立は『その人なしでは生きてゆけない人』の数を
増やすことによって達成される(*1 p.282)」

*1 : 内田樹「ひとりではいきられないのも芸のうち」文春文庫

 「餅は餅屋」「蛇の道は蛇」「好きこそものの上手なれ」と多くの俚諺が教えている。
 ひとりひとりおのれの得手については、人の分までやってあげて、代わりに不得手なことはそれが得意な人にやってもらう。この相互扶助こそが共同体の基礎となるべきだと私は思っている。(中略) 誰にも依存せず、誰にも依存されないで生きているような人間を「自立した人間」と称してほめたたえる傾向があるが、そんな生き方のどこが楽しいのか私にはさっぱりわからない。
 それは「自立している」のではなく、「孤立している」のである。(*1 p.270)

 ここを読んでて、ONE PIECEのルフィを思い出した。ルフィが魚人海賊団のアーロンと対峙したときのセリフだ。

 アーロン「バカで非力で愚かな種族が人間だ!!! 
              海に沈んでも一人じゃ上がってこれねェ様な
      てめェに何ができる!!!」

 ルフィ  「何もできねェから助けてもらうんだ!!!」
       「おれは剣術を使えねェんだコノヤロー!!! 
       航海術も持ってねェし 
       料理も作れねェし ウソもつけねェ 
       おれは助けてもらわねェと生きていけねェ自信がある!!!」

 アーロン「そんなプライドもクソもねェ てめェが一船の船長の器か!!?
       てめェに一体何ができる!!!」

  ルフィ   「お前に勝てる」 どん!!

  (ONE PIECE 巻十 P.177)

 ってかっこいいね。ルフィ。
 ルフィは自立していて、ルフィのセリフは麦わら海賊団のあり方を示している。

 当時のルフィの仲間はナミ、ゾロ、ウソップ、サンジの4人。その後、チョッパー、ロビン、フランキー、ブルックと仲間が増えていく(61巻現在)。ルフィにとって「その人がいなくては生きてゆけない人間」の数が増えていく。それは成熟の指標なのだそうだ。

 どうして「その人なしでは生きてゆけない人」が増えることが生存確率を向上させるのか、むしろ逆ではないのかと疑問に思われる向きもおられるだろう。「誰にも頼らなくても、ひとりで生きてゆける」能力の開発の方が生き延びる確率を高めるのではないか。経済合理性を信じる人ならそのように考えるだろう。
 だが、それは短見である。
 「あなたがいなければ生きてゆけない」という言葉は「私」の無能や欠乏についての事実認知的言明ではない。そうではなくて、「だからこそ、あなたにはこれからもずっと元気で生きて欲しい」という、「あなた」の健康と幸福を願う予祝の言葉なのである。
 自分のまわりにその健康と幸福を願わずにいられない多くの人々を有している人は、そうでない人よりも健康と幸福に恵まれる可能性が高い。 (*1 P.273)

 最後の一文はなぜなのか。それは「私たちは自分が欲するものを他人にまず贈ることによってしか手に入れることができない。それが人間が人間的であるためのルール(*1 P.282)」だからである。

 きっとアーロンにはわからないだろう。

 私にとって「その人なしでは生きてゆけない人」は? 
 それが家族、友人、職場の仲間、そして他者へと広がっていくことで、私の「自立」は逆説的に達成されるわけだ。

にほんブログ村 病気ブログ 薬・薬剤師へ

薬剤師ブログタイムズ ブログランキング参加中! クリックしてこの記事に投票

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2011年2月 | トップページ | 2011年4月 »