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2010年12月24日 (金)

タケプロンによる大腸炎

慢性的な水様性下痢を主症状とする
薬剤性腸炎「collagenous colitis(CC)」
タケプロンでの症例に遭遇した

CASE 82

55歳 男性 
他科受診:なし 併用薬:なし

処方歴:
H22.8.12
Rp1) タケプロンOD錠15mg 1T / 1x朝食後 14日分
    2) ムコスタ錠100mg 3T / 3x毎食後 14日分
  *胸やけ・胃部不快にてRp1)2)が処方となる

Dsc_0179_2

H22.8.25
Rp1) Do 28日分
  2) Do 28日分

H22.9.17
Rp1) Do 28日分
  2) Do 28日分

H22.10.18 
  3) タケプロンOD錠30mg 1T / 1x朝食後 28日分
  2) ムコスタ錠100mg 3T / 3x毎食後 28日分
  *胃カメラにて胃潰瘍と逆流性食道炎

Dsc_0180_3

H22.11.15

  3) Do 28日分
  2) Do 28日分
 4) ロペミンカプセル1mg 2C / 2x朝・夕食後 5日分
  5) ビオフェルミン錠 3T / 3x毎食後 5日分
  *水様下痢にて来局(ついでに定期薬も)

H22.11.20
  6) タンナルビン 3g・ラックビー微粒N 3g / 3x毎食後 5日分
 7) ツムラ五令散エキス顆粒 7.5g / 3x毎食前 5日分
 *改善なく処方変更

H22.11.24
 6) タンナルビン 3g・ラックビー微粒N 3g / 3x毎食後 3日分
 7) クラビット錠500mg 1T / 1x夕食後 3日分
 *改善なく処方変更
 *トレースレポート作成

□CASE 82の薬歴
#1 タケプロンによる大腸炎疑い
  S)水様下痢つづく(11/15~11/24)
 O) タケプロンOD増量後、約1ヶ月にて下痢発現   
 A) タケプロンによる大腸炎の可能性あり
 P) 薬剤性腸炎疑いでトレースレポート提出

   
 
□解説
 11月15日に下痢で来局されたときには、胃腸炎が流行っていたこととすでにタケプロンODを2ヶ月以上服用していることもあって、副作用を想定してはいなかった。その後、11月24日に隣の薬剤師が投薬しているのを横目に、「あれっ、もしかして、あれからずっと下痢つづいているの?」となる。薬剤性腸炎という副作用がわたしの意識にぐぐっと前景化してきた。
 
 投薬後に薬歴を確認する。水様下痢がまったく改善されていないことがわかる。投薬後であったことと処方日数が3日分であったことを考慮して、トレースレポートにて対応することにした。

 CASE 82の薬歴内容はトレースレポート提出の際の思考を記載したものだ。

 トレースレポートにはことの経緯とタケプロンの添付文書情報の大腸炎注4)を記載する。

タケプロンOD錠の副作用 消化器

頻度不明  : 口内炎、舌炎、大腸炎注4)

注4)下痢が継続する場合、内視鏡検査では腸管粘膜に異常を認めない
が、組織学的に大腸粘膜下に膠原線維束の肥厚や炎症細胞の浸潤
を伴う大腸炎が発現している可能性があるため、速やかに本剤の
投与を中止すること 。

 代替案として副作用サーチの検索結果を添付する。PPIとHブロッカーについて、「大腸炎」と「下痢」で検索をかけると、下痢はすべての薬剤に記載があるものの、大腸炎の記載はタケプロンのみであることがわかる。

 
□考察
 タケプロンによる大腸炎は遅発性で、服用開始後1~2ヶ月経過して起こることが多い。

 今回のケースではタケプロンを増量して1カ月のタイミングで発現しており、増量前にすでに2ヶ月以上服用している。しかし、副作用機序別分類の考え方で薬物毒性(消化管毒性)と考えると合点がいく。

 ちなみに、回復には原因薬を中止して1週間から1ヶ月くらいかかるようだ。CASE 82ではタケプロン中止後、回復までに2週間を要した。

 PPIとくにタケプロン開始(もしくは増量)1~2ヶ月後に水様下痢がつづく場合には、薬剤性腸炎を疑う。

 もうこれは知っているかどうかだ。モニタリングピリオド(監視期間)として意識しておきたい。

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2010年12月17日 (金)

学びについて

【学びの動機】

 薬の勉強をしたい。何のために? 単位のため? まずは動機だ。資格を取るためだけの勉強に価値はない。

 苦しんでいる患者や不安を抱えている患者を目の前にする。なんとかしてあげたい。それがすべてだ。みんなに笑顔になってもらいたい。それが薬局にいるときだけであってもだ。

【学びの構造】

 どのように勉強するか。それは自分の理想やあこがれによると思う。いちばん理想的なのは身近に師匠となるべき存在がいることだろう。ただ小さな薬局に勤めているとままならない。それこそが薬剤師の医療を考えるうえでの重要課題だ。

 現場での知識や技術の継承が薬剤師にはほとんどない。薬剤師は自分の努力と経験で一から積み上げていくしかない。医師や看護師のそれとは大きく異なる。

 であるならば、第一線で活躍されている先生がたを、あこがれている人を師匠とし、その仕事を自分の中にインストールする。その方法はなんでもいい。書籍でも講演会でも。直接お会いするのがいちばん効果的だと感じる。

【尊敬する先生】

 わたしが尊敬し、師匠とする先生がたは次のとおり。重いソフトほどインストールには時間がかかるものだ。

 岡村祐聡 先生(服薬ケア研究所)

 POSと患者応対技術においては岡村先生だ。今いちばんお世話になっている先生でもある。先生が会頭を務める「服薬ケア研究会」にわたしも参加している。

 おすすめの書籍
 □ 薬剤師って何する人?(服薬ケア研究所)

 □ 今度こそモノにする薬剤師のPOS

 □ 薬剤師のための患者応対技術の実践法

 菅野彊 先生(どんぐり工房)

 薬物動態学と副作用学では菅野先生だ。とくにこの2つの学問を薬局に特化した形で展開されており、独自の学問を築いているといってもいい。

 おすすめの書籍
 □ 薬剤師のための薬物動態ものがたり(アドバンス・クリエイト)

 □ 患者とくすりがみえる薬局薬物動態学

 □ 実践副作用学

 川添哲嗣 先生(くろしお薬局)

 わたしにQOLの視点、「暮らしが先に来る思考回路」を与えてくれた先生。この視点は薬局薬剤師には必須のものだ(暮らしが先に来る思考回路参照)。

 おすすめの書籍
 □ 体調チェック・フローチャート 解説と活用(日本薬剤師会)

 佐谷圭一 先生(アスカ薬局)

 元薬剤師会の会長かつ十文字革命の考案者。わたしは十文字革命をハイリスク薬に特化して運用している。また佐谷先生の歴史は医薬分業の歴史でもある。ここに紹介している先生の中で唯一お会いしたことがないので、一度お会いできたらと思っている。

 おすすめの書籍
 □ 若き薬剤師への道標

 平田純生 先生(熊本大学薬学部臨床薬理学分野教授)

 いわずと知れた「日本腎と薬剤研究会」の会長。幸運にも先生がわが母校の熊本大学薬学部の教授に着任され、熊本腎と薬剤研究会を設立される。おかげで腎と薬の関係には強くなってきたように感じる。

 以上5名の先生の考え方をインストール中。あとはどのようににカスタマイズするかだ。使える状態にもっていかなければ意味がない。

 人間は自分が望んでいる以上の存在にはなれないもの。取り入れた知識や技術をもってどうなりたいのか。そのビジョンがあれば、学びにブレは生じないはずだ。

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2010年12月10日 (金)

無理な睡眠への欲求

「眠れない」
具体的な睡眠状況を確認しよう
その訴えは‘無理な欲求’かもしれない

CASE 81

70歳 男性 
他科受診:なし 併用薬:なし

定期処方:
Rp1)パリエット錠10mg 1T / 1x夕食後 14日分
 2) ウルソ錠100mg 3T / 3x毎食後 14日分
 3) バイアスピリン錠100mg 1T / 1x朝食後 14日分
 4) ハルシオン錠0.25mg 1T・ロヒプノール錠2mg 1T / 1x就寝前

患者のコメント: 「眠れんね。睡眠薬が足りないんじゃないかな」

薬歴から得られた情報:
① 「眠れない」という訴えが散見される
② 眠剤が変更になっても睡眠の改善は見られない
③ 具体的な睡眠状況の記載なし
④ 日中の身体のきつさや脱力感などなし

患者から得られた情報:
① 22時に服薬後、すぐに就寝
② 朝5時に目が覚める
③「もう2時間は眠りたい」
④ 睡眠薬の自己調整はしていない

□CASE 81の薬歴
#1 これ以上の睡眠欲求は無理なものと理解する
  S)眠れんね。睡眠薬が足りないんじゃないかな
 O) 22時に服薬後、就寝→5時起床(7時間)
     あと2時間は眠りたいと考えている   
 A) 無理な欲求であることを理解してもらう
 P) 60歳以上の方の睡眠時間は平均6時間
   7時間眠れているなら充分です。
   薬をこれ以上服用しても効果は上がらず、翌日に残るだけです。
 R) もう少し眠れるといいけど無理なんだね~

 
□解説
 「眠れない」。この訴えに応対するには具体的にどう眠れないのかを確認する必要がある。不眠のタイプと具体的な時間だ。

 
 不眠のタイプの確認だけだと早朝覚醒に分類される。ここで「もっと半減期の長いものがありますよ」と紹介するのはまだ早い。具体的な時間の確認だ。すると充分な睡眠時間が確保されていることがわかる。

 つまり患者の欲求は身体が必要としている以上のもの、そもそも無理な欲求といえる。その状態に対して睡眠薬を適正使用しても効果は得にくい。

 充分眠ったあとならば、睡眠薬の血中濃度がさほど下がらなくても覚醒することができる。でなければ半減期が24時間、36時間といった睡眠薬が定常状態になって、血中濃度がわずかな日内変動しか示さなくても覚醒できることが説明できない(CASE 15参照)。

 だから無理な欲求に対する睡眠薬の効果は薄い。しかし睡眠薬の量が増えればふえるほど、記憶障害や持ち越し、転倒リスクは高まる。

 こういった状態であることを理解してもらえるように服薬支援を行っている。

 
□考察
 睡眠時間にこだわる患者は多い。特に高齢者だ。若い頃はいくらでも眠れるが、歳をとるとそうはいかない。歳相応になる。身体が必要としていない。

 しかも加齢とともにメラトニンが分泌される時間が前倒しとなる。結果、睡眠相が前進する。高齢者は生理的に就寝が早くなり、起床も早くなる。

 なぜ高齢者は必要以上の睡眠を欲しがるのか? この点についてはまったく触れていないが、ここが核心かもしれない。歳相応なんてことはわかっていて、一人暮らしで寂しいから。早朝に目が覚めてもやることがないから。たんにおもしろいTV番組がないから。

 ほんとうの理由はわからない。しかし無理な欲求で薬を求めても、不満が増すだけで解決には至らないだろう。

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2010年12月 3日 (金)

〇〇さん or 〇〇さま

患者をどう呼称するか?
薬学生とのやりとりの最中に「街場のメディア論」に出会う。
医療現場での患者はお客さまではない。

 

【送料無料】街場のメディア論

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価格:777円(税込、送料別)

 長かった学生実習も終了。なんとかSBOsもすべてこなせた。ほんとうにうらやましいカリキュラムだと思う。今の薬学生は幸せだ。

 学生実習で印象に残っているのは、学生とのディスカッションだ。自分が当たり前に行っている行為を言語化することができた。これこそが、今回の実習でのわたしのいちばんのメリットだろう。

 薬学知識などそらで言えなくとも、どこに書いてあるかわかればよいし、すぐに使えるようにしておけば大差はない。さらに言えば、知らないことを知っていることが大切だ。

 実習生と患者の呼び方について考える。わたしの薬局では薬剤師によって呼び方が異なる。つまり〇〇さんと呼ぶか、〇〇さまと呼ぶかである。

 まず薬局の現状を把握する。薬局にはトータルで5名の薬剤師が勤務している(常時ではない)。わたしとわたしと同い年の管理薬剤師は〇〇さんとお呼びする。経営者の薬剤師とパートの女性薬剤師は〇〇さまと。20代の男性薬剤師は〇〇さんと〇〇さまの両方を使っている。

 つぎに〇〇さんと〇〇さま、双方のメリットとデメリットを実習生に考えてもらう。

〇〇さんのメリット:患者との距離が近くなる、使い慣れていて自然
〇〇さんのデメリット:なれなれしい

〇〇さまのメリット:患者がいい気分になる、患者と距離をとれる
〇〇さまのデメリット:ペコペコしている、患者と距離がある

 わたしも患者との距離感覚は気になる。わざわざ〇〇さまと称して距離をとる必要はないと思う。しかしわたしが〇〇さんを採用している最大の要因は、医療に〇〇さまはふさわしくないと感じているからだ。

 経営者が患者さまはお客さまと考えるのは仕方ないのかもしれない。しかしわれわれ一般薬剤師までもが市場原理を取り入れる必要はない。

 「患者さま」という呼称を採用するようになってから、病院の中でいくつか際立った変化が起きたそうです。一つは、入院患者が院内規則を守らなくなったこと(飲酒喫煙とか無断外出とか)、一つはナースに暴言を吐くようになったこと、一つは入院費を払わずに退院する患者が出てきたこと。以上三点が「患者さま」導入の「成果」ですと、笑っていました。
 当然だろうと僕は思いました。というのは、「患者さま」という呼称はあきらかに医療を商取引モデルで考える人間が思いついたものだからです。
 医療を商取引モデルでとらえれば、「患者さま」は「お客さま」です。病院は医療サービスを売る「お店」です。そうなると、「患者さま」は消費者的にふるまうことを義務づけられる。
 「消費者的にふるまう」というのは、ひとことで言えば、「最低の代価で、最高の商品を手に入れること」をめざして行動するということです。医療現場では、それは「患者としての義務を最低限にまで切り下げ、医療サービスを最大限まで要求する」ふるまいというかたちをとります。看護学部長が数え上げた三つの変化はまさにこの図式を裏書きしています。

内田樹「街場のメディア論」光文社新書 (p.77)

 必要な本は必要なときに巡り合うものだ。患者を「お客さま」とするべきではない。そもそも医療の概念図から考えても相容れない。
 昔のチーム医療は患者が中心にあって、その周りを医師、薬剤師、看護師、その他の職種が円を描く図で説明されていた。しかし今の医療において中心におくべきは、患者ではなく「患者の病気」である。それを医師や薬剤師などと患者自身も一緒に円を描くスタイルであるべきなのだ。

 実習終盤、実習生による患者への投薬(もちろん患者の了解を得ている)において、「〇〇さん」とお呼びする様子を見ながら、ちょっとうれしい自分がいた。

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