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2010年11月26日 (金)

ベネットによる食道潰瘍

同じ質問、同じ訴えがつづくとき
患者のかかえる問題は解決していない
まず問題が何なのかを考える

CASE 80

80歳 女性 
他科受診:なし 併用薬:なし

定期処方(8~11月処方変更なし):
Rp1)ユベラNソフトカプセル200mg 3C・ムコスタ錠100mg 3T / 3x毎食後 28日分
 2) ベネット錠17.5mg 1T / 1x起床時(水曜日) 4日分

8月の薬歴:
#1 ベネットの服用条件の理由を理解し不安を解消する

  S)ベネットは胃にきたりする?
 O) 胃症状(-)食欲(+)
   朝・水・30分と制約が多いため不安な様子   
 A) 服用条件の理由を理解してもらう
 P) 胃にくることもまれにありますが、朝・水・30分は
   薬の吸収の問題と食道に潰瘍を作らないようにするためです。

9月の薬歴:
#2 ベネットの継続と飲み忘れ時のリカバリ

  S)ベネットは忘れても金曜日までには飲めている
 O) 食欲(+)胃部不快(-)  
 A) ベネットのSE(-)飲み忘れ時のリカバリもNP
 P) 飲み忘れ時はそれでOK。1日に2錠飲まなければOKです。

10月の薬歴:
#1

  S)ベネットって、胃にくることある?
   30分は横になっちゃダメなんでしょ?
 O) 胃・食道に症状(-)食欲(+)
   8月にも同じ質問(+)   
 A) 服薬後の姿勢は胃よりもむしろ食道のため
 P) 服薬後の姿勢は食道に潰瘍を作らないようにするため。
   のどに違和感や胸やけがあるようならすぐに申し出て。

11月来局  
患者のコメント:

「じつは甲状腺腫があって、薬がひっかかるんじゃないかと心配で…」
    
患者から得られた情報:
① のどの違和感(-)胸やけ(-)嚥下もNP
② 胃部不快(-)食欲(+)

□CASE 80の薬歴
#3 ベネットによる食道潰瘍のリスクが減るように支援する
  S)じつは甲状腺腫があって、薬がひっかかるんじゃないかと心配で…
 O) のどの違和感(-)胸やけ(-)嚥下もNP
   胃部不快(-)食欲(+)   
 A) いまのところ甲状腺腫の影響はないようだ
   リスクを回避できるように情報を提供して安心してもらおう
 P) 水はコップ一杯の充分な量で。
   30分横にならないのがルールですが、朝食を摂るまで横にならない
   ようにするとさらに安心です。
   服薬後の姿勢は、横になるだけでなく,、前かがみもいけません。
   和室で前かがみで新聞を読むなどもさけましょう。

 
□解説
 8月と10月の薬歴に、同じ質問(S)が記載されていた(8月はわたしが担当。9月・10月は別の薬剤師が担当)。その服薬支援も同じような内容である。こういうとき、おそらく患者が抱える問題は解決していない。否、問題を捉えられていない。

 そこで「○○さん、この薬が気になっているでしょう?」とこちらから先制攻撃を試みる。しばらくの沈黙の後、「じつは甲状腺腫があって、薬がひっかかるんじゃないかと心配で…」というコメントが得られた。

 この患者は‘胃’ではなく、甲状腺腫があるから‘食道に薬がひっかかること’が心配だったのだ。「服薬後の姿勢は胃ではなく食道」を理解させても不安は増すばかりだっただろう。

 甲状腺腫の影響やベネットによる食道潰瘍の症状がないことを確認したうえで、薬がのどにひっかかるリスクが減るような服薬支援を実施している。

 
  用法及び用量に関連する使用上の注意

投与にあたっては次の点を患者に指導すること。

(1) 水以外の飲料(Ca、Mg等の含量の特に高いミネラルウォーターを含む)や食物あるいは他の薬剤と同時に服用すると、本剤の吸収を妨げることがあるので、起床後、最初の飲食前に服用し、かつ服用後少なくとも30分は水以外の飲食を避ける。

(2) 食道炎や食道潰瘍が報告されているので、立位あるいは坐位で、十分量(約180mL)の水とともに服用し、服用後30分は横たわらない。

(3) 就寝時又は起床前に服用しない。

(4) 口腔咽頭刺激の可能性があるので噛まずに、なめずに服用する。

(5) 食道疾患の症状(嚥下困難又は嚥下痛、胸骨後部の痛み、高度の持続する胸やけ等)があらわれた場合には主治医に連絡する。

*ベネット錠17.5mg 添付文書より
 

□考察
 患者の質問にストレートに回答する。はじめは仕方ないのかもしれない。しかし同じ質問が繰り返されるときには、そこに何が伏流しているのかを考える必要がある。

 考えるべき問題はなんなのか? 

 そこにはどんな感情が伴っているのか?

 処方変更のない患者こそ、オーディットを試みるべきなのかもしれない。

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2010年11月19日 (金)

発熱と人参

気虚のときに一番大切な生薬「人参」
人参配合の方剤での注意事項
「発熱のかたには投与しない」

CASE 79

50歳 男性 
他科受診:なし 併用薬:なし

定期処方:
Rp1)パリエット錠10mg 1T / 1x朝食後 28日分
 2) マーズレン顆粒 2g・ガスモチン錠5mg 3T / 3x毎食後 28日分
 3) ツムラ六君子湯エキス顆粒 7.5g / 3x毎食前 28日分

臨時処方:
 4) ツムラ葛根湯エキス顆粒 7.5g / 3x毎食前 3日分
 5) カロナール錠300mg 1T / 1x発熱時
 

患者のコメント: 「風邪ひいた。ゾクゾクする」

患者から得られた情報:
① 寒気(+)、発汗(-)
② 定期処方にて逆食コントロール良好

□CASE 79の薬歴
#1 ツムラNo.43を発熱時は中止する
  S) 風邪ひいた。ゾクゾクする。
 O) 寒気、無汗→ツムラNo.1適
    REにてツムラNo.43服用中    
 A) 人参を服用していると熱が下がりにくくなる
 P) 風邪をひいたことで、一時的に証が変わっています。
    ツムラNo.43を飲んでいると熱が下がりにくくなるのでいったん中止を。

 
□解説
 人参は気虚治療の基本生薬、つまり補気。六君子湯は補気剤であり、その主薬はもちろん人参だ。

 六君子湯を投与する際に注意する点が2つある。まず、手足のほてりやのぼせがないか? これは陰虚の症状で、人参が入っているとひどくなる。つぎに、発熱していないか? 人参を服用していると熱がさがりにくくなるからだ。

 風邪をひいて、証が変わる。六君子湯は一時的に不適となる。そこで「六君子湯はいったん中止して、葛根湯を飲んで、まずは風邪を治しましょう」と服薬支援を行っている。

 

□考察
 わたしの漢方の先生いわく、「風邪をひいたら、証が変わる」。さらにいわく、「発熱時に補気剤を飲むのは、泥棒を家に閉じ込めるようなもの! 邪気が出ていかなくなる」そうだ。

 インフルエンザなどの発熱を伴う急性期疾患では、補気剤の一時中止を忘れずにアナウンスしていきたい。

 *参考 補気剤の3大処方:四君子湯、六君子湯、補中益気湯

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2010年11月12日 (金)

NSAIDs潰瘍と黒色便

体調変化なし 処方変更なし
NSAIDs潰瘍は症状がないことが多い
何をモニタリングしていくべきか?

CASE 78

79歳 女性 
他科受診:なし 併用薬:なし

処方内容:
Rp1)クレストール錠2.5mg 1T / 1x夕食後 14日分
 2) ガスターD錠10mg 2T / 2x朝・夕食後 14日分
 3) プラビックス錠25mg 2T / 1x朝食後 14日分
 4) ボナロン錠35mg 1T / 1x起床時 2回分
  5) ロキソニン錠60mg 1T / 1x頭痛時 20回分

患者のコメント: 「体調は変わりないよ。頭痛はあいかわらずやけど」

患者や薬歴から得られた情報:
① 約1年、処方変更なし
② 胃痛・胃部不快(-)、食欲(+)
③ 便の色には注意を払っていない
④ ロキソニンは1~2回/日、空腹時はさけている
⑤ 潰瘍歴(-)

□CASE 78の薬歴
#1 NSAIDs潰瘍のリスク(+)なので黒色便に注意する
  S)胃痛・胃部不快(-)、食欲(+)
 O) NSAIDs+抗血小板薬に対してガスターのみ
   便の色には注意を払っていない  
 A) NSAIDs潰瘍のリスク(+)
   NSAIDs潰瘍は無症状のことが多い
 P) 症状がなくとも胃に負担がかかっていることがあります。
   便の色に注意し、黒い便がつづくようなら申し出てください。

 
□解説
 NSAIDs潰瘍の発症機序としては、薬理作用に起因するものと薬物毒性によるもの、つまりプロスタグランジン合成抑制によるものと直接的な消化管障害の2つが考えられている。

 たとえばロキソニンのようなプロドラッグやボルタレンサポのような坐薬なら、薬物毒性は回避できる。しかし、NSAIDsである以上、薬理作用の過剰発現による胃潰瘍の発症は回避できない。そして、薬理作用が主たる原因の場合が多く、その発症も早い(CASE 1参照)。また、どちらが主の原因であるにしろ、服用中はつねに注意が必要である。

 抗血小板薬や抗凝固薬が胃潰瘍を引きおこすメカニズムは薬物毒性によるものと考えられている。服用期間が長くなってきた場合は、これらの薬剤を単独で服用していても注意が必要になってくる。

 今回のケースでは、ロキソニンとプラビックスの長期服用であり、NSAIDs潰瘍の予防として、Hブロッカーでは心もとない。よってリスクが高いと考える。
 
 くわえて、NSAIDs潰瘍は、NASIDs自身の鎮痛効果のために、自覚症状に乏しい。

 NSAIDs は、わが国において主に胃潰瘍を惹起することが示されている。胃潰瘍の症状は心窩部や上腹部の疼痛である。NSAIDs 潰瘍では疼痛の訴えがHelicobacter pylori(H. pylori)関連潰瘍より少ないとされている9)吐血や下血などの消化管出血を来すことも多い。NSAIDs 潰瘍の発症頻度は予防薬を併用しない場合、4~43%と報告されている10)

(中略)

(1)自覚症状
 胃潰瘍では、一般的に胃内容が排出される食後60~90 分後に上腹部を中心とした疼痛を来すとされている。鈍い、疼くような、焼けるような痛みであり、一般に持続的である。疼痛は2/3 以上の症例で認められるとされているが、NSAIDs 潰瘍では約半数に留まり、頻度は低い。これはNSAIDs の鎮痛作用によることが推定されている。

(重篤副作用疾患別対応マニュアル「消化性潰瘍」p9)

 ゆえに、黒色便に注意するように服薬支援を行っている。

□考察
 痛み止めが原因でおこる潰瘍は自覚症状がないことが多い。これは薬理作用を考えれば当たり前だ。頭痛で処方されたNSAIDsを胃痛にも効くからと、勝手に転用する患者までいる。

 しかし、この事実を薬剤師が知らないのはまずい。NSAIDs潰瘍のモニタリングとして、胃痛や食欲だけでは不充分だ。

 NSAIDs服用患者には「黒色便」のチェックを呼びかける必要がある。

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2010年11月 5日 (金)

科学者と技術者

 「すべての薬剤師は科学者であれ」

 数年前の学会で聴いた言葉だ。会場の盛り上がりとはうらはらに、ひいている自分がいたことを覚えている。理由はわからなかった。ただ違うんじゃないか・・・と。

Dsc_0059_2

 科学者の意味は文脈上、研究者に近いものだった。そもそも科学者とは科学知識の探求を行う人を指す。間違いではない。だから漠然と違うと感じたのだろうか。

 
 薬局薬剤師は医療者である。誤解を恐れずにいえば、「医療は人間関係」だ。人間関係のうえに医療は成り立っている。では、科学つまり薬学知識は薬局薬剤師にとって、何にあたるのか。

 それは道具だと思う。道具にすぎないが、良い道具は大切だ。

 普通は、目指すものがあって、そこへ到達するために道がある。道具とはそういった「過程」を築くための存在といえる。しかし、良い道具を持つことは、人の視点を変える。素晴らしい道具に触れると、ときとして視野は高くなる。はるか遠くまで見通すこともできるだろう。

 (*1 p6 より引用)

 
 道具を磨くことも大切だ。しかし、わたしは、道具をどう使うか、ということに思考をめぐらすことが大事だと思う。

 患者の服薬行為を支援するために、患者が抱えている問題を解決していくためにはどうすればよいか? それが最大の関心事だ。

 技術者つまりエンジニアとは何者かというと、理由を考え発想を待つ科学者ではなく、目の前にある問題を解決する人のことだ。

 (*1 p108 より引用)

 わたしは科学者ではなく技術者、つまり目の前にいる患者の抱えている問題を解決する者になりたい。目の前の患者に医療をしたい。

 わたしは薬局薬剤師として、科学者ではなく技術者でありたい。

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