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2010年10月29日 (金)

セフゾンと鉄のキレート

セフェム系で唯一、キレートを起こすセフゾン
とくにFeとの親和性が高く、微量のFeでも影響大だ
キレート回避について考える

CASE 77

90歳 女性 
他科受診:なし 併用薬:なし

前回の処方内容:
Rp1)ブロプレス4mg 1T・アムロジピン錠5mg 1T・バイアスピリン錠100mg 1T・スローフィー錠50mg 1T / 1x朝食後 28日分
 2) レバミピド錠100mg 3T・ウルソ錠100mg 3T / 3x毎食後 28日分
 3) アローゼン顆粒 0.5g / 1x寝前 28日分
  4) マグミッド錠330mg 4T / 2x朝・夕食後 21日分
 5) ボナロン錠35mg 1T / 1x起床時(日曜日)4日分
 6) セフゾンカプセル100mg 3C / 3x毎食後 4日分
 *Rp1)~2)は一包化薬

前回の薬歴:
#1 セフゾンのキレート回避
 S)排尿痛があるみたい。膀胱炎ですって(娘より)
 O) Fe、Mg服用中にセフゾン追加
 A) キレートを回避する
 P) 抗生剤といつもの薬は1~2時間あけて服用を

今回の処方内容:
 6) セフゾンカプセル100mg 3C / 3x毎食後 4日分

患者の娘のコメント: 「少しはいいみたいだけど、まだ菌(+)だった」

患者の娘から得られた情報:
① 起きてすぐセフゾンを服用。食後にいつもの薬で1時間くらいはあけている。
② なんとか忘れずに飲めているが、(服用回数が多くて)たいへん。

疑義照会:
(内容)セフゾンとのキレート回避は難しい。他のセフェム系を提案。
(回答)Rp6)→7)へ変更
    Rp7) フロモックス錠100mg 3T / 3x毎食後

□CASE 77の薬歴
#2 キレート形成をしない抗生剤をしっかり飲んでもらう
  S)少しはいいみたいだけど、まだ菌(+)だった
 O) 起床時にセフゾンを服用、食後に定期薬→1時間程度しかあいていない
   明日は日曜のため、 BP系の服用にも支障あり
   服用回数が増え、家族の負担も大きい    
 A) 現状ではセフゾン‐Feのキレートは回避できていない
   状況的にも他剤変更が望ましい
 P) 疑義照会にて、フロモックスへ変更。
    今回の抗生剤は時間をずらす必要がありません。
   いつもの薬と一緒にしっかり飲ませておいてください。
 R) 助かります

 
□解説
 抗生剤でキレート形成といえば、ニューキノロン系にテトラサイクリン系。意外とノーマークなのが、セフェム系のセフゾンだ。

 セフゾンはFeやZn、Cuとキレートを形成すると考えられている。とくにFeとキレート結合を起こしやすい。ちなみにAl、Mgとはキレートではなく吸着により、吸収が低下する。

 #1の対応は結論から言ってアウトだ。おそらくセフゾンはまったく効いていないだろう。セフゾンの添付文書を以下に示す。

併用注意(併用に注意すること)

薬剤名等:鉄剤

臨床症状・措置方法 :本剤の吸収を約10分の1まで阻害するので、併用は避けることが望ましい。やむを得ず併用する場合には、本剤の投与後3時間以上間隔をあけて投与する。

機序・危険因子: 腸管内において鉄イオンとほとんど吸収されない錯体を形成する。

 セフゾンとFeとのキレート回避には、セフゾン服薬後3時間以上の間隔が必要とされている。つまり、#1の対応ではキレート回避はできていない。また、仮に3時間あけたとしてもAUCの低下は免れない。

 図9の実験では、徐放性Fe剤(フェロ・グラデュメット錠)との同時服用の結果であり、徐放剤であるため、セフジニルはかなり微量のFeとキレート形成すると判断してよい。したがって、セフジニルとFeの併用は、基本的に避けたほうがよい(原則禁忌)。やむをえず併用する場合には、図9に示すように、セフジニル投与後3時間以上あけてFe剤を投与する。これは、セフジニルのTmaxが4時間であることにも起因するが、3時間あけた場合でもセフゾンのAUCが36%低下することは留意しておかなくてはならない。

(杉山正康「薬の相互作用としくみ第9版」医歯薬出版株式会社 p48)

 さらに、マグミットやボナロンなどの問題にくわえ、家族の負担。他剤変更しかないだろう。
 

□考察
 ADMEに関する相互作用の中で、A(吸収)に関する相互作用の対処はシンプルだ。時間をずらせばよい。

 もしくは休薬できるものは休薬する。貧血症状もなく、つづけて飲んでいるFe剤なら4日休薬したところで問題はないだろう。

 CASE77では、一包化であったことにくわえ、さまざまな要因があり、キレート回避は難しい。患者やその家族の視点を考えれば、容易に想像ができる。

 薬剤師は疑義照会の労を惜しんではならない。

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2010年10月25日 (月)

齋藤孝先生講演「言葉のもつ力」

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 齋藤孝先生の書籍を何冊読んだだろう。
 とにかく前向きになれる。何か行動をおこしたくなる。過剰なまでの力が流れ込んでくる。私淑しているおひとりだ。

 その齋藤孝先生がなんと来熊。

 「くまもと教育の日」県民フォーラムにて講演。

 よくこんな九州の真ん中まで。もちろん聴講する。ただし1人ではもったいない。小4の長女をつれていく。

 着席するやいなや、「眠い」と長女。昼食後すぐでは眠くなるのもわかる。「こんなチャンスはめったにないんだよ」の言葉も届かない。そこは、さすが齋藤先生。長女を寝かせない。さすが、講演冒頭に「誰も寝かせない」と豪語しただけのことはある。

【コミュニケーションの意味】

 「コミュニケーションとは何か? やりとりするものは2つある。」

 では、コミュニケーションとは何か。それは、端的に言って、意味や感情をやりとりする行為である。(中略) やりとりするのは、主に意味と感情だ。情報伝達=コミュニケーション、というわけではない。情報を伝達するだけでなく、感情を伝え分かち合うこともまたコミュニケーションの重要な役割である。

 (齋藤孝「コミュニケーション力」岩波新書 p2)

 意味は分かるけど(感情的に)納得できないということは往々にしてある。コミュニケーション力のある人とは、感情に対してのアプローチができる人ということになる。

【コミュニケーションの基本】

 「目を見る、微笑む、頷く、相槌を打つ」

 感情にアプローチするためには、まず相手の心を開く必要がある。そのためにコミュニケーションの基本がある。目を見る、微笑む、頷く、相槌を打つことによって、まず相手に同調するわけだ。

 この4つの対人関係での身体的基本原則は、齋藤先生の提唱する概念「上機嫌力」をつける前段階として必要なものとして挙げられている。

 その時々の気分に揺れることなく、常に安定した上機嫌の心持ちを維持継続して物事に対応できれば、世の中から対人関係のトラブルはなくなります。
 つまり、円滑なコミュニケーションのための手段として、「上機嫌」な状態を自分の「技」にすることを提唱したいのです。

 (齋藤孝「上機嫌の作法」角川oneテーマ21 p12)

 齋藤孝コミュニケーション部(本日、熊本支部設立?)では、この基本を1人でもやる。気持ち悪くてもやる。やらないよりもマシだからである。

 そして、もう1つ大切な基本。それは「拍手」。拍手は相手を褒めたたえるだけにあるのではない。やり終わったあとの疲れをとるためにある。拍手を上手に使いこなせるようになりたいものだ。

【話すことと書くこと】

 「話しているときは感情が行き来しやすい。書いている言葉は冷静に言葉が理解できる」

 相手との間に1枚の紙があれば、文字の力を利用できる。

 文字にして書き出すと、自分が書いたものであるにもかかわらず、客観性のあるものとして、権威のあるものとして私たちに映ってくる。だからかつて文字には、呪術的な力があると言われていた。そういう文字の力、意識化・客観視させる力を利用するのが、ノートの効用なのだ。

(齋藤孝「教育力」岩波新書 p190)

 言わんとするところはこのノートの効用と同じだろう。

【文脈力】

 「話が広がりながらも、戻ってこれる力を文脈力といいます」

 齋藤先生の話はよく脱線する。脱線では必ず笑いがおきる。長女も脱線のほうをよく覚えている。しかし場を盛りあげた後に、かならず本道に戻ってくる。

 「文脈力とは意味と意味をつないでいく力であり、頭がいいとは文脈力があることなんです」

 ・・・、私たちは「繋がっていくこと」をとても大事にしています。なぜなら、繋がりこそが、物事をスムーズに進め、人間関係を円滑にしていくからです。文字化されたものに限らず、私たちが日常やりとりしているすべての意味には脈絡がある。その連なる意味をつかまえる力を、私は「文脈力」と呼んでいるのです。

(齋藤孝「「頭がいい」とは、文脈力である。」角川文庫 p47)

 繋がりを意識する。つまり、相手の言いたいをつかまえて、相手の文脈に乗ることがコミュニケーションの本質なのだろう。

 その他にも「違和感」の概念やマクベスの音読に体操。充実した1時間20分だった。

 「一流に触れる」ことは大切といわれる。長女が帰宅後、講演内容を思い出しながら、ノートしている姿をみて思う。百聞は一見にしかずと。

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2010年10月22日 (金)

ガスモチンと便秘

ガスモチンを便秘症に処方
なぜ、患者は飲まなかったのか?
SOAP思考を発動させる

CASE 76

80歳 男性 
他科受診:なし 併用薬:なし

処方内容:
Rp1)ワーファリン錠1mg 2.5T / 1x夕食後 28日分
 2) マグラックス錠330mg 3T・ガスモチン錠5mg 3T / 3x毎食後 28日分
 3) レンドルミン錠0.25mg 1T / 1x寝前 28日分

患者のコメント: 
 「マグラックスを3錠ではダメなときがある。6錠飲んで下痢したこともある(笑)」
 「ガスモチンはあまり飲んでない。胃はなんともないしね」

患者から得られた情報:
① マグラックスは調整してよいとDrから指示(+)
② ガスモチンの薬情「胃の働きをよくする薬」を見て、ガスモチンを胃の薬と認識

□CASE 76の薬歴
#1 ガスモチンは便秘にも効果があることを理解してもらう
  S) ガスモチンはあまり飲んでない。胃はなんともないしね。
 O) 便秘にはマグラックスのみを調整して対応。
    ガスモチンの薬情が「胃の働きをよくする薬」となっていたため、
    胃の薬として認識 → あまり服用していない。
 A) ガスモチンの間違った薬識を修正する
 P) 薬情の記載の不備を謝罪。
    ガスモチンは胃だけでなく、腸の動きもスムーズにします。
    ○○さんには便秘のために処方されているので、
     マグラックスとセットで飲んでください。
    ただし、ガスモチンは1回2Tなどにはしないように。
 R) はやく言ってよ(笑)

   
 
□解説
 ガスモチンはあまり飲んでいないという事実と「胃はなんともないしね」というコメントにフォーカスする(S)。

 「胃はなんともない」から「ガスモチンを飲まない」のなら、当然、ガスモチンの薬識に問題があるわけだ。言い換えると、この時点ですでに、‘ガスモチンの薬識に問題がありそうだ’というアセスメントが想定されていることになる。

 そこで、アセスメントは固めるために足りない情報を質問していく。それが(O)情報となる。

 薬情が原因で、ガスモチンを胃だけの薬と認識している、といった情報(O)が加わり、想定していたアセスメントは間違っていなかったことがわかった。つまり、(A)を確定させたうえで、服薬支援(P)にうつっている。

□考察
 今回の話題のきっかけになったコメントは「マグラックスを3錠ではダメなときがある。6錠飲んで下痢したこともある(笑)」のほうだった。しかし、ある疑問が思い浮かんだので、これを(S)としては取りあげなかった。

 それは‘ガスモチンはどう飲んでいるのかな?’というもの。得られた回答は「ガスモチンはあまり飲んでない。胃はなんともないしね」であり、わたしは薬剤師として、こちらのコメントに焦点を当てた。ここからSOAP思考が発動する(参照:SOAP記載とSOAP思考)。

 SOAP思考を発動していないSOAPでは、(O)情報がスカスカもしくは処方薬で取り繕ったものになりがちだ。

 ただし、今回のケースでは、(O)情報がなく、(A)が確定していない状態のままで、服薬支援を行っても、そんなに的を外さないかもしれない。原因が薬識にあり、構造が単純だからだ。

 でも、なぜガスモチンを胃薬と認識していたのかはわからないままだっただろう。薬情に原因があると特定できたおかげで、ガスモチンに関しては同じ轍を踏まずに済むだろう。 

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2010年10月15日 (金)

口渇という概念 その2

口渇がすぐに重大なことになることはない
でもリスクをかかえることになる
口渇のリスクを考える

CASE 75

74歳女性 
他科受診:なし 併用薬:なし

処方内容:
Rp1)ガスターD錠20mg 1T・ミカルディス錠20mg 1T・ベシケア錠5mg 1T/1x朝食後 28日分
  2) ローコール錠20mg 1T / 1x夕食後 28日分
  3) セファドール錠25mg 3T / 3x毎食後 28日分
   4) マグミット錠330mg 2T / 2x朝・夕食後 28日分

2週間後、ご主人と一緒に来局時に質問を受ける

患者の質問: 「口の中や口唇の端に白いのがたまる。薬の副作用だろうか?」

患者から得られた情報:
① 口唇の乾燥あり
② のどの渇きあり。暑いからね。
③ めまいは最近ない
④ 頻尿は相変わらず

□CASE 75の薬歴
#1 セファドールを減量して口渇症状の改善を図る
  S)口の中や口唇の端に白いのがたまる。薬の副作用だろうか?
 O) 口唇の乾燥(+)、のどの渇き(+)
    めまい(-)、頻尿(+)
 A) セファドール・ベシケアの抗コリン作用による口渇だろう
   ベシケアは口渇が少ないタイプであることにくわえ、
   症状を考慮すると、セファドール減量がいいだろう
 P) めまいと頻尿の薬が関係しているかも。
   めまい(-)ならば、セファドールを減らして様子を見てください。
   Drにも伝えておきます(トレースレポート提出)。

 ◎口渇症状がきついときは、氷をくわえたり、ガムをかんだりすると
   和らぎます。水をガブガブ飲むのは逆効果です。

   
 
□解説
 のどの渇きは暑いから当たり前だけど、白いものにはびっくり! 薬のせいかも? となったわけだ。患者の質問にそのまま焦点をあてる(S)。

 高齢になると、一般的に、唾液の分泌は低下する。抗コリン作用を有する薬の併用があれば、唾液の分泌はさらに低下する。高齢者ほどそのリスクは当然高くなる。

 今回のケースではセファドールとベシケアが被疑薬だが、高齢者ではベンゾジアゼピン系や抗ヒスタミン系との併用も多い。単剤ではなんともなくても、抗コリン作用は積み重なっていくから注意が必要だ。

 患者の状態(O)を把握し、セファドールなら減量できそう(A)と考え、提案(P)する。

 口渇時の対応については、#1とはプロブレムが異なるので、別項目(◎)として、支援内容のみを記載している。
 
 口渇の対策としては、刺激性唾液を利用するとよい。安静時の唾液分泌は加齢により低下するが、活動時の唾液分泌には年齢差は少ないからだ。

□考察
 生理的現象と副作用概念を結び付けて理解するとわかりやすい。つまり、口の中が乾燥するとどうなるか? を考えればいい。

 口唇や口の中の粘膜が割れやすくなる。唾液がネバネバしたり、白っぽくなったり、泡状になったりするのも乾燥によるものだ。乾燥状態とはカラカラになった状態だけではない。
 
 また、のどが乾燥すれば、声が出しにくくなったり、薬剤がひっかかりやすくなる。

 さらには、味覚異常や入れ歯の不具合、食欲の低下につながる。誤嚥性肺炎のリスクにもなる。

 
 いちばんの対策は無駄な薬を減らすことだ。薬剤師はそのきっかけになれる存在だ。

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2010年10月11日 (月)

2010年10月10日10時10分

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 2010年10月10日 旧体育の日 晴天。

 家族で阿蘇ミルク牧場へ。10時10分到着(10が4っつ!)。10時会場なのに、もう多くの人が入場していた。晴天、ロケーション、かわいい動物にくわえ、入場料300円とリーゾナブルだからだろう。

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ヘアスタイルが笑える。

長女と次女が乗馬(写真は長女)。

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 乗馬の写真の柵の向こうがコスモス畑。満開だ。空と花のコントラストが美しい。

 さて、午後2時過ぎには下山し、道楽サッカーへ。2-1で勝利。ここ2試合で3得点と爆発。その反動は今、からだの節々にあらわれているところ。

 決勝点はゴールキックから。競り合ってこぼれたボールを横からかっさらい、ラインの裏へ抜けだす。ゴールキーパーと1対1。GKが猛然と飛びだしてくるのが視野に入る。そこでトップスピードから急停車。ゴールキーパーは慣性の法則に従って、わたしの目の前を通り過ぎていく。あとは無人のゴールへ。

 つねにトップスピードでいっても、なかなかディフェンスは抜けないものだ。緩急が大事、つまりメリハリ。これが局面打開につながる。これはサッカー以外にも通じる。

 ただし、この急激なギアチェンジは足にくる。かなりの負担がかかる。練習していないからだと言われれば、反論の余地はない。ということは、この技をサッカー以外に応用する際は、常日頃からやっておかないと、手痛い反動を覚悟しておく必要があるかもしれない。

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2010年10月 8日 (金)

口渇という概念 その1

「口渇」という副作用
言葉だけを知って
満足してはならない
道理を知ることが大切だ

CASE 74

90歳女性 
他科受診:なし 併用薬:なし
*本人の来局はなく、いつも娘さんに投薬

処方内容:
Rp1) バイアスピリン錠100mg 1T / 1x朝食後 28日分
   2) メチコバール錠500mg・オパルモン錠5μg・サアミオン錠5mg・セファドール錠25mg 各3T / 3x毎食後 28日分 
    3) プルゼニド錠12mg 2T / 1x就寝前 14日分
    4) オルセノン軟膏 60g

患者の娘のコメント: 「口唇がいつもカサカサで、気になってね」

患者の娘から得られた情報:
① 口唇の端に泡状のものがたまる
② のどの渇きの訴えはない
③ めまいの訴えはない

疑義照会:
(内容)セファドールで口唇がカサカサになっていると思われる。
    めまいの訴えもないので、セファドールを中止できないか?
(回答)セファドールをカットして様子をみてください
    Rp2)のセファドールは削除

□CASE 74の薬歴
#1 セファドール疑義中止による影響
  S) 口唇がいつもカサカサ、口唇の端に泡状のものがたまる
 O) 疑義照会にて、セファドール中止
 A) 口渇・便秘は改善傾向に向かうだろうが、めまいの再発が心配
 P) めまいの薬を減らしました。
   口唇や泡状のもの、ついでに便秘も改善がみられるかもしれません。
   ただし、めまいのほうは様子を見ておいてください。
   
  
□解説
 患者は受診のとき以外は、ほぼ寝たきりの状態。介護者の娘さんに投薬している。

 娘さんから、口唇のカサカサについての相談を受ける。口唇には唾液腺も脂腺もない。口唇の潤いは唾液のおかげだ。口唇がカサカサに乾燥したり、口紅のノリが悪いといったものは唾液の分泌低下に起因している。さらに、口唇の端に泡状のものがたまる、つまり乾燥状態にあるわけだから、間違いなく口渇が起こっている。

 抗コリン作用を持つセファドールは口渇を起こしやすい。めまいの訴えがないことを確認し、疑義照会を行う。

 セファドールを中止した結果、口渇や便秘症状の改善は予想される。いっぽう、めまいの症状再発も否定できない。予想できることを娘さんに伝え、様子をみるように依頼している。

□考察
 この症例は、すでに再来局されている(それで思い出して書いた)。

 口渇症状は改善し、めまいの訴えはなかったとのこと。セファドールは漫然処方だったのかもしれない。

 
 わたしたちは言葉を知って、頭が悪くなることがある。

 たとえば、「抗コリン作用→口渇」というものをインプットしたとする。それで「口が渇く」「のどが渇く」といった訴えがなければ、口渇という副作用を連想できない。これは状態はどういう状態なのか?

 科学的知識というのは、「用語」を沢山知っていることではない。(中略) このように、「ものが見えるのは、光の反射を捉えているからだ」という理屈を知っていることが、すなわち科学的知識である。言葉を知っているだけでは知識ではない。このことが、そのまま技術にもいえる。優れた技術者とは、知識が豊富なのではなく、ものの道理を知っている人のことだ。(*1 p67)

 言葉だけを知って満足してはならない。道理を知ることが大切だ。今回のケースの場合、「口渇」という言葉がなくても、道理を知っていれば、セファドールが原因かもと疑うことができる。

 概念を理解しないで言葉だけに頼ると薬剤師の力は発揮できない。

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2010年10月 1日 (金)

わかりやすいはわかりにくい?

科学では人間をとらえられない。
矛盾に満ちた人間が、不安をはらんで薬を飲む。
臨床哲学講座から患者応対のシーンを考えてみた。

鷲田清一 「わかりやすいはわかりにくい?」 ちくま新書

わかりやすいはわかりにくい?

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【鏡としての薬剤師】

 語るということは、相手に回答をもらうということではない。見えない自分の姿を映すために、その鏡の役を相手にしてもらうことであるのだ。 (p.123)

 答えは患者の中にあることが多い。薬剤師の「回答」ではなく、患者自身が自らの状況や感情に気づくことによって「解答」を得る。われわれはそのための鏡となることも必要だ。

【納得】

 「納得」は、事態の解決というより、その事態に自分とは違う立場からかかわるひととの関係のあり方をめぐって生まれる心持ちなのだろう。 (p.129)

 人間はわかってもらいたいと思っているのに、簡単にわかられると腹が立つ。理解はできても納得はできない。とても矛盾をはらんだ存在だ。

 そんな人間に納得して薬を飲んでもらいたい。患者の望む多くのことは解決できない。それでも納得して薬を飲む。そんな関係を築いていきたい。

【すぐに結論をださない】

 いちばん大事なことは、すでにわかっていることで勝負するのではなく、むしろわからないことのうちに重要なことが潜んでいて、そしてそのわからないもの、正解がないものに、わからないまま、正解がないまま、いかに正確に対処するかということなのである。 (p.183)

 人間は空白に耐えられない。すぐに答えを求めてしまう。それはブロッキングを引き起こし、患者の非言語の訴えから目を逸らさせる。

 価値観が多様化する現代においては、1つの正解というものはほとんどない。薬剤師は科学者としてだけではなく、医療者としての患者応対が求められる。

 

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