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2010年4月23日 (金)

ジャヌビアとSU剤 その2

期待の新薬、DPP-4阻害剤「ジャヌビア」
SU剤の減量は半量では足りないケースもある
新薬は2週に一度の観察が必要だ

CASE 57

67歳 女性

前回の処方:
Rp1) アマリール錠3mg 1.5T / 2x朝・夕食後
Rp2) ベイスンOD錠 3T / 3x毎食直前
Rp3) クレストール錠2.5mg 1T
      ミカルディス錠20mg 1T
      プロテカジン錠10mg 1T / 1x朝食後

今回の処方:
Rp4) アマリール錠1mg 2T
      ジャヌビア錠50mg 1T
      クレストール錠2.5mg 1T
      ミカルディス錠20mg 1T
      プロテカジン錠10mg 1T / 1x朝食後

患者から得られた情報:「HbA1cが7.8%もあって、新しい薬を試すことにした」

□CASE 57の薬歴
#1 ジャヌビア-アマリール併用による低血糖への対応
 S) HbA1cが7.8%もあって、新しい薬を試すことにした
 O) ジャヌビア錠追加(ベイスンはカット)
    アマリール 4.5mg→2mgへ減量
 A) アマリールは適切な量に減量されているが初回なので低血糖への注意要
 P) 低血糖発作の症状を確認。
    発作時は速やかに糖分を補給し、早めにに受診を。
    受診できないときは、アマリールの服薬は控えておいてください。

□解説
 CASE 55において、「DPP-4阻害剤を併用するときは、SU剤を半量にする」と書いた。その後、4月20日に萬有製薬より下記の情報提供を受ける。

注意案内喚起文書
重篤低血糖例ラインリスト
インクレチンとSU薬併用の適正使用に関する委員会のステートメント

SU薬ベースで治療中の患者でシタグリプチンを追加投与する場合、SU薬は減量が望ましい。特に高齢者(65歳以上)、軽度腎機能低下者(Cr 1.0mg/dl以上)、あるいは両者が併存する場合、シタグリプチン追加の際にSU薬の減量を必須とする。アマリール2mg/日を超えて使用している患者は2mg/日以下に減じる。(中略)シタグリプチン併用後、血糖コントロールが不十分な場合は、必要に応じてSU薬を増量し、低血糖の発現がみられればSU薬をさらに減量する。
もともとSU薬が上記の量以下で治療されていて、血糖コントロールが不十分な場合はそのまま投与のうえシタグリプチンを併用し、血糖の改善がみられれば、必要に応じてSU薬を減量する。 

 今回の症例はアマリールを適正な量まで減量できている。しかし「重篤低血糖例ラインリスト」を見ると、アマリールを6mgから1.5mgまで減量しているにもかかわらず、低血糖を発症している症例もある。それを踏まえ、低血糖への指導ならびに対応を指示している。

□考察
 CASE 55の考察は以下に改める。

 DPP-4阻害剤を併用するときは、SU剤を減量する。
 (
高齢者や腎機能低下例では減量を必須とする)
     アマリール:2mg/日以下に減量
     オイグルコン:1.25mg/日以下に減量
      グリミクロン:40mg/日以下に減量
     *上記量以下の場合は、必要に応じて減量する

 おそらく、ジャヌビアの添付文書も改訂されるだろう。

 SU剤の量についての見解が発表されたことにより、低血糖の発現も減るだろう。しかしまだ心配だ。なぜなら、高齢者では無自覚性低血糖(CASE 51参照)が多い。インスリンとの併用が認められていないジャヌビアの対象患者は内服治療患者だ。SMBGを行っているかたは少ない。また、β-ブロッカー併用患者では低血糖がマスクされてしまう。
 
 やはり新薬は2週間に一度は注意して観察しないといけない。

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2010年4月16日 (金)

「コンプライアンス=服薬遵守」は誤訳

「コンプライアンス」という概念
わたしたちは使いこなせているのか?
それとも振り回されているのか?

CASE 56

60歳 女性

処方:
Rp1) ディオバン錠40mg 1T ・アダラートCR錠40mg 1T / 1x朝食後
Rp2) リポバス錠5mg 1T / 1x夕食後

薬歴から得られた情報:
① もともとアダラートCR錠40mg 1Tで血圧をコントロールできていた
② 4ヶ月前に血圧150/95と高く、ディオバン錠40mgが追加になる
③ 最近は血圧120/80台で安定しており、薬歴上ではコンプライアンス良好となっている
④ 血圧とコレステロール以外に治療中の疾患なし

患者から得られた情報:
① BP 126/80 いつもこのくらいで安定している。
② 血圧高くないので、じつはディオバン錠はずっと飲んでいない
③ Drには伝えていない

□CASE 56の薬歴
#1 ディオバン錠を飲んでいないことをDrに伝えていない
 S) 血圧高くないので、じつはディオバン錠はずっと飲んでいない
 O) BP 126/80 いつもこのくらいで安定
   服薬状況をDrには伝えていない
 A) 状態的にはNPのようだが、Drに伝えておかないと
   今後の治療に支障がでる恐れあり
 P) Drは血圧の薬を2つ飲んで今の血圧と思っている。
    今後の治療に支障が出ないように早めに状況を伝えておきましょう。
    こちらから伝えましょうか?
  R) 次回、自分で言います。

□解説
 現在、「コンプライアンス」という言葉を使わないようにしている。いや正確には、コンプライアンスという概念を用いないようにしている。その結果がCASE56の薬歴だと考えている。

 「血圧の薬2つもいるの?」「じつは○○は飲んでないのよ」といったケースはよくある。コンプライアンスを改善することは薬剤師の大事な仕事であることは間違いない。‘その薬がなぜ必要なのか’を理解してもらう。そして、納得して飲んでもらう。

 しかし今回のケースではその必要はないと考えた。であるならば、問題点は‘服薬状況をDrに伝えていない’ことだ。そこに焦点を当てている。

□考察
 コンプライアンスは「服薬遵守」と訳され、「処方された薬剤を指示に従って服用すること」とされている。われわれ薬剤師は、このコンプライアンスという概念を用いて患者応対にあたっている。

 このコンプライアンスという概念はわたしたちに何をもたらしているのか。以前の私ならば、CASE56のような症例では、ARBの臓器保護作用や降圧剤の併用のメリットを説くことを考えただろう。つまり、いかに患者に薬を飲んでもらうかだけを考えていた。本当にその薬がその患者にとって必要なのかも考えずに、コンプライアンスという概念に縛られ、振り回されていた。

 『直観でわかる数学』で有名な畑村先生は、「コンプライアンス=法令遵守」を誤訳と考えている。

 じつは「コンプライアンス」という言葉は、工学の世界でも使われています。この場合の意味は、相手のものの形に従ってそのものが変形するときの「柔らかさ」や「柔軟性」などを示しています。(中略)たとえば、「コンプライアンスが大きい」というと、小さな力で大きく変形する状態を表します。これを人間関係に当てはめてみると、社会や相手の変化に順応するように自分が柔軟に変化している姿が想像されます。社会が何を求めているかをきちんと見極め、それに順応しながら柔軟に動いていくこと、これがまさしく「コンプライアンス」の本当の意味であり目的であると私は理解しています。(*1)

 「コンプライアンス=服薬遵守」は誤訳である。

 「コンプライアンス」という言葉を持ち出すことにより、その言葉の(誤訳の)イメージに引きずられる。思考が止まる。つまり、問題の本質が捉えられない。

 概念は使いこなせないなら、使わないほうがよい。概念とは「考える道具」にすぎないのだから。

 医者は患者を助けたい、そして患者は健康になりたいと考えている。薬剤師が‘ただ薬を指示通りに飲んでいるか’だけを考えるのはおかしい。薬さえ飲んでいればよいのか。それは法律さえ守っていれば(何をしても)よいという発想と変わらないのではないだろうか。
 
 

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*1:畑村洋太郎『回復力 失敗からの復活』 講談社現代新書

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2010年4月 9日 (金)

ジャヌビアとSU剤

期待の新薬、DPP-4阻害剤「ジャヌビア」
期待以上の効果と単剤での安全性の高さ
ただし、SU剤併用時には要注意

CASE 55

55歳 女性

前回の処方:
Rp1) アマリール錠3mg 1.5T / 2x朝・夕食後
Rp2) セイブル錠50mg 3T / 3x毎食直前

今回の処方:
Rp1) Do
Rp2) ジャヌビア錠50mg 1T / 1x朝食後

患者から得られた情報:
① Drの勧めで薬を変更することに。
② 副作用がなく、膵臓を守る新薬との説明あり。
③ HbA1C:7.7%(前回 7.5%)

疑義照会:
(内容)ジャヌビア併用時はSU剤を半量に減量を提案
(回答)α-GI切っているしHbA1cが7.7%あるから、アマリール4.5mgを3mgに
    Rp1)→Rp3) アマリール錠3mg 1T / 1x朝食後

□CASE 55の薬歴
#1 ジャヌビア-アマリール併用による低血糖への注意を促す
 S) Drの提案で、副作用がなく膵臓を守る新薬に変えると
 O) HbA1c:7.7%、セイブル錠→ジャヌビア錠
    疑義照会にてアマリール錠4.5mg→3mgへ減量
 A) ジャヌビア追加で、アマリールによる低血糖が心配
 P) 新薬はそれ単独ではほとんど副作用はない。
    ただ、アマリールがよく効くようになるので低血糖に注意を。
   発作時はすぐに糖分を補給し、アマリールの量についてDrの指示を受けるように。

□解説
 ジャヌビア錠の切れ味は鋭い。患者によってはデータ以上、HbA1c1%以上軽く下がってしまう。低血糖を起こす症例も確認した。原因はすべてSU剤の減量不足だ。

 疑義照会にてアマリールを半量に減量するように提案するも、α-GIをカットしていることとHbA1Cのコントロール不良を理由に、4.5mgから3mgへの減量にとどまる。

 さらに、患者はDrより「新薬は副作用がない」との説明を受けている。低血糖への注意を怠る恐れもある。そこで、併用するとアマリールがよく効くようになることを伝え、アマリールの低血糖に注意をするように促し、対応を指示している。

□考察
 DPP-4阻害剤を併用するときは、SU剤を半量にする。

 DPP-4阻害剤を併用すると、SU受容体がふ活するのか機能を取り戻すのか詳細はわからないが、効いていなかったSU剤が効き出す症例があるようだ。

 私の薬局で低血糖を起こした症例は、今回のケースのようにα-GI等からの変更でSU剤を減量していない症例のみだ。α-GIからの変更時でもSU剤の減量がないときはやはり疑義照会が必要だろう。

 いや、低血糖防止だけではない。DPP-4阻害剤をいれることによって、SU剤を減量したり離脱していくことが理想だと考えると、やはり最初の併用の段階でSU剤をできるだけ減らすべきだと考える。
 
 

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平成22年4月16日追記

参考資料:【医療従事者向け】「インクレチンとSU薬の適正使用について」

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