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2010年3月26日 (金)

本当の肝機能

禁忌「重篤な肝障害のある患者」
どんな状態? 何を指標にする?
本当の肝機能とは?

CASE 54

65歳 男性

処方:
Rp1) ニューロタン錠25mg 1T
    バイアスピリン錠100mg 1T / 1x朝食後 28日分
Rp2) ウルソ錠100mg 3錠 / 3x毎食後
Rp3) ロキソニン錠60mg 1T / 1x疼痛時

Drより相談:「ニューロタンが保険でカットされた。他のARBもダメか?」

薬歴より得られた情報:
① ニューロタンは服用3年になる
② 血圧コントロールは良好

カルテより得られた情報:
① 肝硬変・肝がんの既往(+)

□CASE 54の薬歴
#1 ARBと肝障害
 S) ニューロタンが保険でカットされた。他のARBもダメか?
 O) 肝硬変・肝がんの既往(+)
 A) ニューロタン・ミカルディスは重篤な肝障害に禁忌であり、
   他のARBは慎重投与。ACE-Iは腎排泄のためNP。
 P) ニューロタン・ミカルディス以外は使用可。ACE-Iは腎排泄のため使用可。
   ARBはすべて肝排泄なので少量の使用を勧める。

□解説
 Drとの協議の内容を薬歴に残したもの。これは本来、SOAPで記載する必要がない。いわゆるクセに近いものかもしれない。

 患者に肝硬変や肝がんの既往があることは全く把握できていなかった。Drより相談された際にカルテの病名より確認した。

 ARBはすべて肝排泄型であり、肝障害があれば血中濃度の上昇や排泄遅延・蓄積といったものが考えられる。しかしARBごとに、やや差があるようだ。各社のPDR(米国の添付文書)やIFによると

 軽症から中等症の肝障害における投与量の調整
 ニューロタン  少量から投与すること(PDR)
 ブロプレス    中等症では少量から投与すること(PDR)
 ディオバン     少量から投与すること(IF)
 ミカルディス   重篤な肝障害の患者では投与禁忌(IF)
 オルメテック  必要なし(IF)
 
  *藤田敏郎編集「ARBの新しい展開」(日本医学出版)を参考

 添付文書上では、「重篤な肝障害」に対してニューロタンとミカルディスの2剤が禁忌となっている。イルベタン(アバプロ)まで含めた他のARBは慎重投与であるのでカットされる可能性は低いと考え、回答している。

□考察
 「重篤な肝障害のある患者には禁忌」の線引きをどう考えればよいだろうか。そもそも添付文書上での「軽症の肝障害」とはどんな状態を指しているのだろうか。GOT・GPTが上昇している状態のことなのか。

 ヒントとなる言葉が‘Child-Pugh分類’だ。以下はミカルディスの添付文書からの抜粋である。

 5. 肝障害患者への投与
肝障害男性患者12例(Child-Pugh分類 A(軽症):8例、B(中等症):4例)にテルミサルタン20mg及び120mg注)を経口投与したとき、健康成人に比較しCmaxは4.5倍及び3倍高く、AUCは2.5倍及び2.7倍高かった。16)
[16)は外国人のデータ]
注)肝障害のある患者に投与する場合の最大投与量は1日40mgである。

 つまり、添付文書上での肝障害の軽症、中等症といったものは‘Child-Pugh分類’に基づいている。これは‘肝硬変の重症度分類’のことなのだ。軽症といったその言葉自体のイメージに惑わされてはいけない。

 であるならば、何を指標に薬学的な判断(疑義照会など)をすればよいか。GOTやGPTは本当の肝機能ではない。障害を受けると結果的に上がってくるものであり、腎臓で例えるとBUNやたんぱく尿のようなものだ。
 
 本当の肝機能を示すものは、血小板、アルブミン、コレステロールといったものである。これらの合成能こそが本当の肝機能だ。いちばん最初に減少してくるのは血小板、そしてアルブミン、コレステロールが減少してくる。

 血小板が減少してきたら、肝機能は低下してきている

 こう考えるとスッキリする。血小板が15万~20万くらいあれば肝臓は悪くない。肝硬変で10万、肝がんになると6~8万くらいといわれている。

 血小板が10万以下ならば、肝排泄の薬は減量を考える。

 これが僕の疑義照会やトレースレポートのラインとなっている。

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2010年3月19日 (金)

「仕方がない」は立派な心ばえ

「仕方がない」
と思えるから現状が受け入れられる
あきらめではなく、前進だ

CASE 53

80歳 女性

処方:
Rp1) コメリアンコーワ錠100mg 3T / 3x毎食後 14日分
Rp2) メバロチン錠5mg 1T・ブロプレス錠8mg 1T・バイアスピリン錠100mg 1T / 1x朝食後 14日分
Rp3) クレメジン細粒 6g / 3x毎食間 7日間

患者のコメント1:「クレメジンは飲みにくいし、この間の結果は食事のせいだと思うし・・・」

薬歴から得られた情報:
① 前回からクレメジン追加
② S-Cr:1.8、eGFR:21くらい、CKDステージ4

患者から得られた情報:
① Drからはしっかり続けるように指示(+)
② クレメジンの残薬があと7日分ある。
③ 患者のコメント2:「透析にはなりたくない」
④ 父親が透析を受けていた。

□CASE 53の薬歴
#1 クレメジン継続には現状を受け入れることが必要
 S) 粉(クレメジン)は飲みにくいし、この間の結果は食事のせいだと思うし・・・
 O) 父親が透析を受けていた
   クレメジンを7日分は服用している
  「透析にはなりたくない」という感情(+)
 A) 現状を受け入れることが必要
 P) 確かにクレメジンは飲みにくいが、身体には全く吸収されず副作用は便秘くらい。
  透析になるのを遅らせることができるから、飲んでで損はないのでは?
 R)「仕方ないわね」

□解説
 コメント1前半の「クレメジンは飲みにくい」は納得できる。しかし後半の「食事のせいだと思うし・・・」にはひっかかった。さらに患者応対のなかで「透析にはなりたくない」というコメント2と父親が実際に透析を受けていたとの事実が聞き出せた。

 患者の病識や薬識といったものに問題はないと思われる。現にクレメジンを7日分は服用している。つまり、患者が現状を受け入れていないのだ。「透析にはなりたくない」という感情は、「クレメジンを医師の指示通りに服用することは、透析になるかもしれないということを認めてしまう」という感情に近いのだと思う。

 患者自身が現状を受け入れるしかない。それには正しい薬識形成ばかりを考えていてはダメだ。患者に薬を飲もうという意志を持ってもらう必要がある。

 
□考察
 感情面へのアプローチは服薬指導の内容そのものより、そのプロセスに価値がある。今回のケースでは「透析にはなりたくない」という感情を患者自身に確認してもらうことがそれにあたる。

 コメント1と2は矛盾している。自己矛盾と呼ばれるこの状態は誰にでも起こる(参照:感情の矛盾)。しかしそこに患者自身が気が付けば、あとは現状を受け入れるだけだ。

 「仕方がない」という日本人がよく使ってきた言葉がある。これは今日ややもすれば消極的なあきらめを示すものとされて、一般に敬遠される傾きがある。しかしぎりぎりのところまでつめて「仕方がない」というのは立派な心ばえではないか。大体、現実というものは自分の思うようにはいかぬものである。したがって人間精神にとって不可欠な現実感というものは「仕方がない」と感ずることにおいて成立すると言ってよい。(*1)

 「仕方がない」と思えるから現状を受け入れられる。

 この言葉はあきらめの後ろ向きな言葉ではない。前向きな言葉であり、「仕方ない」と思える人は感情のコントロールができる大人なのだ。

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*1:土居健郎『続「甘え」の構造』 弘文堂

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2010年3月12日 (金)

若い女性を見たら、妊娠を疑え

「若い女性を見たら、妊娠を疑え」 これは鉄則だ
急性期疾患なら必ず確認している事項だが・・・

CASE 52

28歳 女性

処方:
Rp1) メバロチン錠5mg 1T / 1x夕食後 28日分

患者のコメント:「このお薬、妊娠してても大丈夫ですか?」

患者から得られた情報:
① 健診にてコレステロールが高いと指摘(+)
② LDL-C:152mg/dL、家族歴(+)
③ Drより、「家族歴(+)なので、やさしい薬を飲んでおこう」と話あり
④ 子供を望んでおり、妊娠の可能性(+)

疑義照会:処方削除、病院に戻るように伝言依頼(+)

□CASE 52の薬歴
#1 妊娠希望・可能性のためスタチンは不適
 S) このお薬、妊娠してても大丈夫ですか?
 O) LDL-C:152、家族歴(+)にてスタチン処方
   子供を望んでおり、妊娠の可能性もあり
 A) スタチンは催奇形性が高く不適
   状況的にも薬物療法は不適と思われる
 P) 疑義照会
   薬は中止、病院に戻るように伝える

□解説
 何となく違和感を感じていた。一通りのやりとりを終えた後、患者からの質問が「このお薬、妊娠してても大丈夫ですか?」だった。

 スタチンは催奇形性の高い薬である。

<催奇形性の危険度の高い薬剤一覧(*1)>
5点:サリドマイド、チガソン、ワーファリン、アレビアチン、デパケン、ミノアレ散、リウマトレックス
5点~4点:チョコラA
4点:ストレプトマイシン、テグレトール、リボトリール、コルヒチン、セルシン、ボンゾール、リーマス
   フェノバール、マイソリン、サイトテック、卵胞‐黄体ホルモン配合剤(高用量)
   レベトール、HMG-CoA還元酵素阻害薬
妊娠後期4点:ACE阻害薬、ARB(←現在は妊娠初期も注意が必要
       テトラサイクリン系抗生物質
(抗がん剤などの細胞毒性・遺伝毒性を有する薬剤は取り上げていない)

*1:2005年4月1日 日本薬剤師研修センター発行
 「正しい薬物療法のために病態整理と薬効薬理から処方せんを見る‐婦人科領域‐」より引用
 

 疑義照会にてDrに感謝された。私は患者さんに感謝しながら、疑義照会の内容を伝えた。

□考察
 言い訳にすぎないが、慢性疾患の薬であったために、確認を怠ってしまった。

 「若い女性を見たら、妊娠を疑え」

 これは鉄則だ。調剤の段階で確認できるようになりたい。
 
 
 違和感は確かに感じていた。しかし慣れた薬と混みあった薬局の雰囲気が、判断力をミスリードさせた。
 

 私たちはよく「違和感がある」と言っているが、その正体をとらえるところまで考えようとしないことが多い。何がその違和感をもたらしているかまで意識を掘り下げないうちに、忘れたり、慣れたり、流したりしてしまう。違和感を曖昧なものにしているのは、自分自身なのだ。
 心に「ん? あれ?」というかすかなさざなみが立ったら、それを感情の動きとしてすくい取る。メモにしてみたり、口に出してみたりして、違和感を意識化する。なんとなく埋もれてしまわないようにつかまえる。そしてその正体を見抜いていく。(*2)

 「違和感を流さず、リスクを回避する」

 リスクマネージメントには欠かせない原則だ。

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*2:齋藤孝『違和感のチカラ-最初の「あれ?」は案外正しい!』角川oneテーマ21

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