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2010年2月26日 (金)

暮らしが先に来る思考回路

食事・排泄・睡眠・運動・認知
「暮らしが先に来る思考回路」で薬剤師職能を発揮する!

□参加勉強会
日時:平成22年1月31日
場所:アステム熊本本社

演 題: 服薬指導と薬歴を充実させる手法
    ~在宅や地域連携で薬剤師職能を発揮するために~

講 師:社)日本薬剤師会 高齢者・介護保険等検討会
    社)高知県薬剤師会 常務理事
    くろしお薬局
    川添 哲司 先生

□参加理由
 平成18年のじほう調剤報酬改訂セミナーにて、川添先生の「改正介護保険法における薬剤師の役割」を聴講してから、「暮らしが先に来る思考回路」を意識しての患者応対に心がけていた。

□講演内容
1、食事
 1)嚥下(飲み込み)
   注意する薬剤
   ◇パーキソニズム、ジスキネジア、ミオパシーを生じる薬剤
   ◇注意力・集中力低下、眠気を生じる薬剤
   ◇筋力低下を生じる薬剤
   *つまり、嚥下は筋肉運動ということ

 2)味覚障害
   注意する薬剤
   ◇Znとキレートを起こす薬剤
   ◇口渇・口内炎を起こす薬剤

 3)口渇
   注意する薬剤
   ◇抗コリン作用をもつ多数の薬剤

 4)その他
   注意する薬剤
   ◇NSAIDsなどによる胃障害 <関連CASE 1
   ◇アモバンによる口中の苦味(翌朝に多い)
   ◇粉砕すると苦みのでる薬剤(特にムコスタ・アモバン)<関連CASE 50

2、排泄
 1)蓄尿障害(→治療薬)
   ◇過活動膀胱(1日8回以上、夜中2回以上)
    →収縮しすぎの膀胱を弛緩させる薬剤(抗コリン薬、三環系抗うつ薬)
   ◇尿失禁・夜尿症
    →緩んでいる尿道をしめる薬剤(β2刺激薬・三環系抗うつ薬・エストロゲン)

 2)排尿障害(→治療薬)
   ◇低活動膀胱
    →弛緩しすぎている膀胱を収縮させる薬剤(コリン作動薬、ChE阻害薬)
   ◇前立腺肥大症
    →狭くなっている尿道を広げる(α1遮断薬、抗アンドロゲン薬)
   ◇抗コリン薬による尿閉 <関連CASE 46

3、睡眠
 1)睡眠薬の用法の問題
   ◇服用時間が早すぎる!
   ◇効果のマスク <関連CASE 3

 2)薬剤による睡眠への影響
   ◇不眠 :喘息治療薬、脳循環改善薬、インフルエンザ薬
   ◇傾眠、昼夜逆転 :安定剤、筋肉弛緩剤、抗精神病薬
    *睡眠のリズムを作るポイント
     ①朝、光を浴びて、体内時計のスイッチを入れる
     ②睡眠のゴールデンゾーン(22時~2時)によく眠る

4、運動(高齢者の転倒のリスク)
 1)睡眠薬
   ◇筋弛緩作用の強い薬剤
   ◇t1/2が長い薬剤 <関連CASE 21
   ◇超短時間型(Tmaxが短い薬剤)
  *Tmaxが短い、つまり急激に効いてくる睡眠薬も服薬後の転倒リスクは高い。
   服用後、速やか(15分以内)に布団にはいるように指導を。
   参考資料:藤田茂,他:転倒・転落と薬剤の関係に関する研究.病院管理,41:177-183, 2004.
     
 2)薬剤性パーキソニズム
   ◇ベンズアミド系の3薬剤に注意 :グラマリール、プリンペラン、ドグマチール
    <CASE 18> でプリンペランとドグマチールを挙げたがグラマリールも要注意
    参考資料:CLINICAN 94No432.澤田康文,他
 

5、認知領域(NEW!)
 1)認知機能に影響を与える薬剤 <関連CASE 29

 2)周辺症状(BPSD)への薬剤による対応
   ◇易怒性、攻撃性に対して
    ①定型抗精神薬 :グラマリールなど(レビー小体型認知症(DLB)には避ける)
    ②非定型抗精神薬 :低用量から、FDAでは長期処方を原則禁止としている
    ③抑肝散、抑肝散加陳皮半夏
   ◇DLBの幻覚・妄想 :アリセプト(低用量)、抑肝散
   ◇せん妄 :グラマリール、リスパダール、セロクエルを少量から
   ◇抑うつ(意欲低下)状態 :SSRI、SNRI

□感想
 以前、聴講したときに比べて進化していた。アドバンスド「暮らしが先に来る思考回路」。川添先生のスタンスははっきりしているからブレがない。あこがれる薬剤師の1人だ。

 「患者の人生のどこにどうかかわるのか」をしっかり考えたうえで、患者の人生をしっかり薬歴に残していく。いい状態も記録しておく。食欲がある、おいしい、よく眠れているなどを記録しておかなければ、いつから悪くなってきたのかわからない。

 食事・排泄・睡眠といったものは生きている以上、必ず行っている。運動・認知は高齢者で問題になっきている。そこに薬で不都合が起きていないか。薬剤師ならば薬理作用などから‘この薬のせいかも’と提案できる。
 
 こういう視点は薬局薬剤師には欠かせない。幹となる薬剤師職能だ。職能の拡大とばかりに枝葉に走りがちにならずに、まずはしっかり押さえておきたい。
  

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参考資料:「薬剤師による食事・排泄・睡眠・運動を通した体調チェック・フローチャート」(社)日本薬剤師会 高齢者・介護保険等検討会作成(2007 年3月改訂)

日本薬剤師会のHPのトップページ> 日本薬剤師会の活動(会員向けページ) > 介護保険関連情報 > 「高齢者介護における薬剤師向けツール 体調チェック・フローチャート(改訂版)について 」 にPDFファイルがあります。
近々、改訂が行われ、5)の認知領域が追加されるようです
 

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2010年2月19日 (金)

高齢者の低血糖

低血糖(-)は本当か?
高齢者では無自覚性低血糖を念頭に

CASE 51

75歳 男性
薬歴より:経口糖尿病薬でコントロール不良(HbA1c 9%台)のため、ランタスを導入し、BOT(Basal Oral Therapy)にて3年が経過。現在、HbA1c 6.8%と年齢を考慮すると非常に良好。

定期処方:
Rp1) コメリアンコーワ錠100mg 3T / 3x毎食後 28日分(CKDの為服用)
Rp2) グルファスト錠10mg 3T / 3x毎食直前 28日分
Rp3) ランタス注ソロスター  1日1回朝(20単位) 2キット

印象に残った患者のコメント:
① 血糖50以下になることなんてしょっちゅうですよ。
② 血糖が35のときも何ともなっかった。ちょっと食事を早くして対応している。
③ 先生の指示通りに飲んでいますよ。

患者から得られた情報:
① SMBGノートより、1ヵ月の平均血糖値 朝食前:52mg/dL 夕食前:90mg/dL
② SMBGノートより、空腹時血糖( mg/dL):35、48、50、52などが散見される
③ SMBGノートは病院受付時に毎回提出している
④ 低血糖時に、発汗や生汗、手のふるえなどの交感神経刺激症状は全くなし
⑤ 普段の生活において、集中力の低下や物忘れなど気になることはない
⑥ 薬を打ち忘れや飲み忘れ・飲み間違いなし(患者の性格はとてもまじめ)
⑦ 低血糖時も薬を調整することなく、処方せん通り(特別な指示なし)に服用中

□CASE 51の薬歴
#1 低血糖に対する理解とグルファストの服用について
 S) 血糖が35のときも何ともなっかった。ちょっと食事を早くして対応している。
   薬も先生の指示通りに飲んでいますよ。
 O) SMBGノートより、1ヵ月の平均血糖値 朝食前:52mg/dL 夕食前:90mg/dL
   35、48、50、52などの値が散見されるが、自覚症状はなし
   低血糖時も処方せん通りに服用(低血糖時の特別な指示なし)
 A) 低血糖時のグルファスト服用で、昏睡・けいれんの恐れあり
 P) 血糖が50以下のときは、治療が必要な低血糖の状態です。
   もっと下がると意識がなくなることもあります。
   50以下のときは、グルファストを飲まずに糖分補給などの対応をするように。
   トレースレポート提出

□解説
 「(自己血糖測定の値が)50以下になることありますか」と質問したところ、「しょっちゅうですよ」との返事があり、今回の応対が始まる。 血糖値35mg/dLでも、発汗・ふるえといった交感神経刺激症状が見られない。高齢者の低血糖には注意を払う必要がある。

 “低血糖と臨床症状”
 血糖が80mg/dl以下になると、まずインスリン分泌が抑制される。70mg/dlまで低下するとグルカゴン、エピネフリンなどの拮抗ホルモンが分泌される(counter-regulation)。さらに、60mg/dlまで低下すると、成長ホルモン、コルチゾールなどが分泌される。55mg/dlまで低下すると、発汗、動悸、頻脈、震えなどの交感神経刺激症状(neurogenic symptom)が出現し低血糖を警告する。さらに50mg/dlまで低下すると、頭痛、集中力低下、失見当識、興奮、せん妄、人格変化、傾眠、さらには痙攣、昏睡といった精神機能低下の症状(neuroglycopenic symptom)を呈するようになる。
 しかし、高齢者で血糖が徐々に低下する場合には、交感神経刺激症状が現れずに精神機能の低下の症状が現れる無自覚性低血糖(hypoglycemia unawareness)が存在する。  (中略)

 

 血糖値が50mg/dl以下の異常低値を認めれば、低血糖に対する治療をただちに開始するとともに、低血糖症の原因の鑑別を行う。 (*1)

 患者は高齢で、かつ非常にまじめで服薬状況がよい。いくらグルファストのターゲットが食後高血糖とはいえCKDもあるので、重篤な低血糖のリスクを感じた。そこで、まず高齢者の低血糖の恐ろしさを理解してもらうことに時間をかけた。そのうえで、とりあえず血糖値50以下のときは、グルファストを控えるように促す。

 患者とDrとの関係やSMBGノートから今回の状況が長く続いていることを考慮し、疑義照会ではなく、トレースレポートでの対応とした。

□考察
 BOTがうまくいき、低血糖症状もない。油断していた。

 高齢者の糖尿病治療においては、無自覚性低血糖を念頭におく必要がある』

 ある日突然、意識消失で救急車。低血糖が原因で痴呆になる低血糖性痴呆の問題もある。

 
 「低血糖はありませんでしたか」の問いかけでは、何にもならないことがよくわかった。低血糖の概念が医療者と患者ではぜんぜん違う。

 SMBGを行っている高齢者には、「血糖値が50以下になることはありませんか」というように具体的に質問することが有効だ。また、SMBGを行っていない経口薬(特にSU剤)でコントロールしている患者に対しては、認知や意識障害、傾眠といった症状がないかも注意していきたい。
 

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*1)針谷康夫 東海林幹夫:痴呆症の最新情報:低血糖による痴呆. 内科 Vol.95No.5(2005)

 

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2010年2月12日 (金)

SOAPのバランス感覚~Sについて~ その2

SOAPのSは薬剤師が焦点を当てた情報だ
印象に残った情報とフォーカスした情報は違う
SOAPのバランス感覚を磨けば見えてくる

CASE 50

45歳 女性

前回(半年前)の処方
  Rp1) タケプロンOD錠15mg 1T / 1x朝食後
  Rp2) ムコスタ錠100mg 2T / 2x朝・夕食後
  Rp3) ツムラ半夏厚朴湯エキス顆粒 5g / 2x朝・夕食前

今回の処方
  Rp4) タケプロンOD錠30mg 1T / 1x朝食後
  Rp2) ムコスタ錠100mg  2T / 2x朝・夕食後

患者のコメント:
  ①(GEを紹介したときに)「(OD錠は)味のいいほうがいい」
  ②「錠剤や粉はのどにつまって、薬を飲むのが苦になる」

患者から得られた情報:
  ① 胃カメラにて、逆流性食道炎とびらん性胃炎の診断
  ② 半年前、タケプロンOD錠は飲めた。ムコスタと漢方は飲めないことはないが、のどにつまって不快なので続かなかった。
  ③ 漢方は湯に溶いてみたが、ニオイでダメだった。

疑義照会:
  (内容)錠剤・散薬はのどにつまると訴えあり、服薬が続かない恐れがある
      ムコスタ錠をガスロンNODに変更することは可能か?
  (回答)ガスロンNODで構わない Rp2)→Rp5)へ変更
      Rp5) ガスロンNOD錠2mg 2T / 2x朝・夕食後

□CASE 50の薬歴
#1 錠剤や粉は服薬が苦になるのでOD錠で継続を図る
 S) 錠剤や粉はのどにつまって、薬を飲むのが苦になる
 O) 胃カメラ→逆流性食道炎とびらん性胃炎
   OD錠は半年前に問題なく飲めており、味も気にしている
 A) ムコスタは苦味(+++)で、簡易懸濁法は不適
   ガスロンNODなら続くのでは
 P) 疑義照会にてムコスタをガスロンNODへ変更
   両剤とも唾液で溶けるので苦にならないでしょう。
   炎症の改善には時間がかかるのでしっかり続けて。

□解説
 45歳のかたに嚥下障害の視野は全くなかった。ひっかかったのは、コメント①の「味のいいほうがいい」だった。

 どことなく不安な様子があった。半年前の1回きりの中断理由も話したくなさそうだった。打開の手立てもなく、ジェネリックを紹介すると‘味’にこだわることがわかった。この年代で薬の味にこだわるのは違和感がある。そこで、嚥下について尋ねると、コメント②の「錠剤や粉はのどにつまって、薬を飲むのが苦になる」という情報を得ることができた。

 半年前の情報から、OD錠なら継続服用はいけると判断した。問題はムコスタだ。剤形は錠剤と顆粒でNGだ。簡易懸濁法も不適だ。なぜならムコスタほど苦い薬はないからだ。胃ろうのかたでもゲップで苦い思いをするほどの代物だ。そこで、在庫よりガスロンNODを代案として提案する。

□考察
 SOAPの(S)は薬剤師が焦点を当てた情報である。何をフォーカスしたかである。これは患者のコメントであることが多い。ここで陥りやすいのは、(S)が薬剤師の印象に残ったコメント(きっかけとなったコメント)とは限らないということだ。今回のケースで一番印象に残ったのはコメント①で‘味’を気にしている点だった。これを(S)に取り上げると、SOAPが成り立たない。そもそも薬の‘味’はプロブレムの中心ではない。
 
 『印象に残ったコメントが(S)になるとは限らない』

 SOAPのバランスがとれないときは、まずこの原則を思い出すようにしよう。

 

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