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2010年1月29日 (金)

「間接話法」

「いったん血圧の薬を飲み始めるとやめられないんでしょ?」
この質問の王道に対して
伝家の宝刀「間接話法」で応対する

CASE 49

51歳 女性

新規処方
Rp1) アムロジピン錠2.5mg 1T / 1x朝食後

フォーカスした患者のコメント:「いったん血圧の薬を飲み始めるとやめられないんでしょ?」

患者から得られた情報
① BP 160/95、自覚症状(-)
② 健診にて指摘(+)、降圧剤を服用したことはない
③ 降圧剤の服用を続けることへの漠然とした不安(+)

□CASE 49の薬歴
#1 血圧コントロール・降圧剤服用への理解
 S) いったん血圧の薬を飲み始めるとやめられないんでしょ?
 O) BP 160/95、自覚症状(-)、降圧剤初
 A) 血圧コントロール・降圧剤服用への理解がまず必要
 P) 高血圧を放置して脳卒中にならないように、血圧のコントロールは一生続けていく必要があります。今は手段として薬が必要な状態だということです。

□解説
 この質問を受けたことのない薬剤師はいないのではないだろうか。まさに質問の王道。
 
 まず断っておきたい。今回の応対では「降圧剤の継続服用への漠然とした不安」は解消しているとは限らない。反応が鈍い場合は#2として申し送っておくことが多い。ここでは、正しい薬識形成のファーストステップともいえるプロブレムを#1として取り上げている。

 フォーカスした質問の王道(S)に対して、YES or No、つまり日本人的な二者択一の思考をしてはいけない。だいいち、この質問に直接的に正確に答えられる薬剤師なんていやしない。

 ではどうすればよいか。直接的に答えなければいい。つまり間接的に答えるのだ。私たちが伝えたいことは何か。何を患者に認識してもらえばよいか。そこを考え(A)、服薬支援を行っている(P)。

□考察
 私の考える‘薬学’は「人間」が中心にある(CASE 48)。「人間」が異なれば、文脈や背景も当然異なる。いつも同じように答えればよいというわけではない。

 コンプライアンスの問題を本当に解決するためには、人間の感情に注目しなければならないことが多い(参照:感情の矛盾構造的アプローチ)。しかし、さまざまな制約があり、いつも試みることは難しい。

 そこで、私が提案したいのは、「間接話法」という技だ。

 日本酒の旨さなどそのもの自体を言葉でどう書いたところで表現できないのです。製造原理を説明し、できた旨味をいくら形容詞を書き重ねたところで無理です。言葉を超える旨さだからです。にもかかわらず、もったいぶった修辞に頼ろうとするコピーがよくありますが、無駄です。直接的に描写しようとすればするほど、モノの核心に届かず、歯がゆくなるだけのこと。
 それを知っているコピーライターは、別な道を行きます。

       ( 中略 )

 説明は説明でも真っ正面からの直接話法では無理だと思いましょう。本書にも数例を紹介してありますが、ここは伝家の宝刀を抜くしかありません。間接話法という、上等な表現方法を使いましょう。伝家の宝刀ですから免許皆伝の腕の持ち主でないと抜いても使えませんけどね。(*1)

 患者の質問に対して真っ正面からではなく、間接的に応対する。「患者にとって何をきちんと認識してもらえばよいか」を考えて、伝家の宝刀を抜くのだ。

 もっと抽象的に使いこなす薬剤師もいる。
「高血圧の薬はメガネのようなものです」。いわんとするところはおわかりだろう。眼そのものがよくなるわけではない。

 伝家の宝刀「間接話法」。相手に合わせて使いこなせる腕の持ち主になりたいものだ。

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*1:名作コピーに学ぶ読ませる文章の書き方(日経ビジネス人文庫) 鈴木康之 著

 

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2010年1月22日 (金)

チラーヂンS-プロマック

チラーヂンSとプロマックによるキレート
いわゆるふつうの併用注意
どう対応し、どう薬歴に残すか

CASE 48

42歳 女性

定期処方:
Rp1)チラーヂンS錠50μg 1T / 1x朝食後
Rp2) マイスリー錠5mg 1T / 1x眠前

フォーカスした患者のコメント:「最近、身体がなんとなくきつい」

患者から得られた情報
① Drからは様子を見るようにと言われている、採血(-)
② 他科受診:2週間前に胃痛(+)→胃潰瘍と診断
③ 自覚症状:痛みはないが、重い感じは残っている
④ 併用薬:パリエット錠10mg 1T / 1x朝食後
      プロマックD錠75mg 2T / 2x朝・夕食後

□CASE 48の薬歴
#1 チラージンS - プロマック のキレート回避
 S) 最近、身体がなんとなくきつい
 O) 2週間前からプロマックD併用中、採血(-)
 A) チラーヂンS-Zn → チラーヂンS[C]↓ の為に不定愁訴が出ているのでは?
    採血(-)なので次回チラーヂンSが増量になることもないだろう。
 P) チラーヂンSを起床時に服用するように提案

□解説
 チラーヂンSはAl、Ze、Fe、Caといった金属カチオンとキレートを形成する(カマはチェックフリー)。

 チラーヂンSの添付文書にはプロマックとの併用注意の記載はないが、プロマックの方にはチラーヂンSとの併用注意(キレート)の記載がある。臨床問題としてはその程度の相互作用と見ることもできる。

 しかし今回は、実際にプロマック併用後から不定愁訴がおきている。かつ採血などDrが対策を講じていない。そこでキレート回避の用法を提案することにした。

 後日、「チラーヂンSを起床時に飲むようにしたら、身体のきつさがだいぶ楽になった気がする」とのコメントが薬歴に記載されていた。

□考察
 今回のケースではチラージンSとプロマックをもうすでに併用してしまっている。もし体調が安定していたなら、特にキレート回避案を提案することもなかっただろう。

 しかしキレートを回避してもしなくても、その根拠はしっかりアセスメントして薬歴に残しておきたい。次の薬剤師への申し送りもさることながら、「患者の状態の把握なくキレートを回避する」「相互作用を見落としているのではと思われる薬歴」ではかっこ悪い。

 #2 チラーヂンSとプロマックの併用の経過観察
 S) 胃の重い感じが残っているがその他に気になる事はない。
 O) 2週間前から胃潰瘍治療にてプロマックD併用中
  A) チラーヂンSとZnでキレートを形成するが、臨床上NPのようだ
 P) 疲労感がぬけないなど気になることがあったら申し出て

とこんな感じになっただろう。杓子定規にキレート回避策を講じるのではなく、患者の状態まで視野を広げて対応していきたい。

 併用注意だから対応する。併用注意だからスルーする。ここには「患者」の存在がない。「人間」が中心にない。

 「人の外に道無く、道の外に人無し」  (上巻・第八章)

 

 人間である。学問は人間のためにある。自分を高めるために人間性を知り、修行する。人間を中心に置かない学問は、すべてどこかがおかしい筈である。 (*1)

 江戸時代の儒学者、伊藤仁斎の言葉だ。

 私の考える‘薬学’も「人間」が中心にある。キレートを回避するかどうかも「人間」を観ないとわからない。「人間」が変われば、自ずと答えも変わってくるはずだ。

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*1:【中古】【古本】人間通でなければ生きられない/谷沢永一

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2010年1月15日 (金)

補中益気湯への誤解

漢方薬にまつわるコンプライアンスの問題
「原因は食前・食間といった用法に問題がある」
これは医療者側の単なる思い込みに過ぎないのでは?

CASE 47

75歳 女性

定期処方
Rp1)ツムラ補中益気湯エキス顆粒(ツムラNo.41) 5g / 2x朝・夕食前

薬歴から得られた情報:
① 胃がんで胃を1/3切除
② ツムラNo.41は術後に開始
③ コンプライアンス不良、体調NP

前回の薬歴:
#1 ツムラNo.41の飲み忘れ時の対応について
  S) 漢方は飲みにくいことはないけど、よく忘れる
 O) SE(-)、服薬状況不良
 A) 飲み忘れ時の対応について
 P) 食前に飲み忘れたときは食後でもOKです

患者のコメント:
「これ(ツムラNo.41)は抗がん剤みたいな働きなものも入っているんでしょ?」

□CASE 47の薬歴
#2 ツムラNo.41の薬識補正
 S) これ(ツムラNo.41)は抗がん剤みたいな働きのものも入っているんでしょ?
 O) 誤解→服用状況不良、飲みたくなさそうな(不安な)様子あり
 A) 補気剤へ薬識を補正すれば解決する
 P) 「身体の‘中’を‘補’って‘気’を‘益’す薬(湯)」という名前で、
   われわれも疲れたときはよく飲みます。
   抗がん剤が身体にダメージを与えるマイナスのイメージなら、これは
   元気が出るプラスのイメージですよ。
 R) もう飲むのをやめようかと思っていた。

□解説
 このおばあちゃんには明らかに雰囲気があった。‘薬を飲まないといけないの・・・’みたいな雰囲気が。そこで視線の高さを合わせてゆっくり感情を聞き出す。

 フォーカスを当てた患者のコメント(S)と先の雰囲気(O)さえわかれば、やることは1つ。誤解を解いて正しい薬識を身につけてもらえばいい(A)。そこで薬の名前や普通の人でも飲む薬であることを紹介し、プラスのイメージを持ってもらった(P)。

□考察
 漢方薬にまつわるコンプライアンスの問題を考えてみた(やみくもにコンプライアンスを良くすることがいいことだとは考えていないが、今回はそのことを抜きに考えている)。

 ‘漢方薬のノンコンプライアンスの原因は食前・食間といった用法に問題がある’という思い込みが、われわれには少なからずあるように感じる。
 患者の方も「食前(食間)は忘れるのよね」とただ理由付けをしているだけかもしれない。そのことを意識していない患者もいるだろう。

 高齢者では、漢方薬を‘何のために飲んでいるのか’を理解していない方が多い。時間が経ち体調もよくなり、漢方薬の薬情を見て「何でこんな薬を飲んでるのかしら」なんて思っている患者も多いのではないだろうか。
 この場合は薬識を形成すれば問題ない。相手によっては薬の必要性を繰り返し伝えることも大切だろう。

 問題は‘感情’が原因の場合だ。今回のように、その‘感情(飲みたくない)’の原因が薬識と判れば対応は容易い。ただし薬識は常に変化する。投薬時や薬歴記入時に定点観測のように、その変化を感じとることがわれわれには求められいる。

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