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2009年12月25日 (金)

前立腺肥大症と麻黄湯

前立腺肥大症(BPH)の方には麻黄湯は慎重投与だ
病態禁忌の抗ヒスタミン薬やPLでも疑義照会をしないことが多い
マオウ剤ではいかがだろうか?

CASE 46

70歳 男性
他科受診:泌尿器科  併用薬:フリバスOD錠50mg、エビプロスタットDB錠

<前回(CASE 45)の処方>
定期処方
Rp1)アムロジン錠5mg 1T・ブロプレス錠4mg 1T / 1x朝食後 14日分
 2) ツムラ白虎加人参湯(ツムラNo.34) 9g / 3x毎食前
 3) タケプロンOD15mg 1T / 1x夕食後
臨時処方
  4) ツムラ麻黄湯(ツムラNo.27) 7.5g / 3x毎食前 3日分
 5)カロナール錠300mg 1T / 1x発熱時 5回分

<今回の追加処方>
  6) ユリーフ錠4mg 2T / 2x朝・夕食後 7日分
 7)アボルブカプセル 1P / 1x朝食後 7日分

患者のコメント:
「尿閉、恐かったよ。オペはしたくないから、こっちのDrになんとかならないか相談した。新しい薬を試してみようって」

患者から得られた情報:
① 救急病院でユリーフの処方、「これ以上強いのはない、ダメならオペ」と言われた。
② 導尿、フリバスからユリーフへ変更後、尿量は確保できている。
② ツムラNo.27は2回服用後、中止。
③ 泌尿器科のDrもたぶんツムラNo.27が原因だろうと言っていた。
  

□CASE 46の薬歴
#1 アボルブ初回服薬指導
  S) ユリーフでも尿閉になるならオペと言われている。
   オペはしたくないから、こっちのDrになんとかならないか相談した。
   新しい薬を試してみようって
 O) 併用薬は中止→ユリーフ、アボルブに変更
 A) アボルブ初回
 P) 前立腺自体をだんだん小さくしていく薬。
   効果発現に時間がかかるが、尿閉やオペのリスクは半減します。
   光・湿気に弱い。かまない。カプセルを外さない。

#2 BPHを悪化させる薬への注意
 S) 尿閉、恐かったよ
 O) ツムラNo.27が原因で尿閉
 A) BPHを悪化させる薬への理解が必要
 P) 麻黄湯以外にも葛根湯や小青竜湯などの麻黄の入っている漢方薬や
   鼻水に効果のあるカゼ薬で、尿閉を起こす可能性があるので、
   当分、手を出さないように。こちらも注意します。

□解説
 2つのクラスタ(塊)に分けて記録している。ひとつはアボルブが初薬で薬識に関すること。もうひとつは尿閉を繰り返さないようにするための注意。

 「BPH」などの分類に近いプロブレムをつけてしまうと、2つがごちゃごちゃになったSOAPができてしまう。
 
 まず、こういう時は指導 P)がいくつあったかと考えて、それに対応するS)O)を抜き出すとA)や#がクリアになる。

□考察
 今回紹介しているケースは、前回の続編。CASE 45では他科受診・併用薬は???としていたが、実はわかっていた。いわゆる指導もれで、たいへん申し訳ないことをしたと思っている。反省。

 話は変わるが、緑内障の病態禁忌薬で疑義照会をかけたことは数回しかない。オペ待ちの患者や眼科より指示があっている患者くらいだ。なぜなら、緑内障の9割は病態的に禁忌ではなく、残り1割もレーザーを施していたり、白内障のオペをしていれば考える必要がないからだ。

 BPHもどこか同じように考えていたのかもしれない。泌尿器科でコントロールされていれば大丈夫だろうと。危ないのはBPHと診断されているが、自己中断で服薬を止めてしまっている患者だと。

 その時その時の尿の状態を確認し、疑義照会をするかしないかは別としても、適切な指導をしていきたい。今回のケースでも、麻黄湯の2服目がなければ大事には至らなかったかもしれない。

 文学は、作者と読者の協同によって生ずる現象です。作者は不変ですが、読者は不特定多数ですから、作品像は読者の数だけ多様に存在することになります。 (中略) 

 

 現象としての文学を解明するのが、文学の学問ということになります。そのためには、文学作品だけ読んでいては話にならないでしょう。「だれが水を発見したのかはわからないが、魚でないことだけははっきりしている」ということばがあります。文学三昧の人が、文学認識論を構築することはできないでしょう。(*1)

 
 作者をDrが処方した薬、読者を患者に置きかえれば、薬学も同じことが言える。薬剤師は‘慣れ’によって「魚」になるようなことがないようにしたい。
 
 

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*1:自分の頭で考える(中央公論新社) 外山滋比古

みなさま、1年間おつかれさまでした。

今年はCASE 46で終了します。最後は反省ネタでした。来年はもっと成長していきたいと思います。

自分でこの1年書いた原稿を読み返すと修正を入れたいところが多数。特に、副作用機序別分類の考え方は理解が深まってきたので、来年まとめてみるつもりです。

薬剤師としてのスタンスがブレないように、安きにながれないように、「行いは自分、批評は他人」でがんばっていきます。

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2009年12月18日 (金)

麻黄の方向転換

イフルエンザの影響で品薄の麻黄湯
麻黄はおもしろい生薬だ
漢方方剤の骨格や方向転換の概念について

CASE 45

70歳 男性
他科受診:??  併用薬:??  副作用歴:なし

定期処方
Rp1)アムロジン錠5mg 1T・ブロプレス錠4mg 1T / 1x朝食後 14日分
 2) ツムラ白虎加人参湯(ツムラNo.34) 9g / 3x毎食前
 3) タケプロンOD15mg 1T / 1x夕食後
臨時処方
  4) ツムラ麻黄湯(ツムラNo.27) 7.5g / 3x毎食前 3日分
 5)カロナール錠300mg 1T / 1x発熱時 5回分

患者のコメント:
「(インフルエンザの検査)陰性だったけど、怪しいって」

患者から得られた情報:
① KT:37.8℃、寒気・関節痛(+)、自汗(-)
② ツムラ白虎加人参湯の服薬についてDrより指示なし

薬歴より得られた情報:
① 口渇のため、ツムラ白虎加人参湯を服用中
  

□CASE 45の薬歴
#1 ツムラNo.34とツムラNo.27
  S) (インフルエンザの検査)陰性だが怪しい
     KT37.8℃・寒気・関節痛(+)自汗(-)
 O) 表寒証にツムラNo.27処方
   口渇のため、ツムラNo.34を服用中(Drより指示なし)
 A) 漢方併用により発汗されずに、さらに身体が冷える恐れあり
 P) ツムラNo.34を併用すると汗をかきにくくなるので中止しておきましょう。
   発汗・解熱すれば、ツムラNo.27を中止してNo.34を再開して構いません。

□解説
 インフルエンザ疑いで表寒証とくれば、麻黄湯の出番だ(本当は麻黄湯を処方するケースは少ないらしいが・・・)。「麻黄+桂枝」の組み合わせで、発汗作用が強く現れる。
 
 ここで問題になるのが定期処方で服用している白虎加人参湯だ。この寒性の方剤には大寒の石膏が入っている。これが問題だ。「麻黄+石膏」の組み合わせになると、麻黄の発汗作用がおさえられて、むしろ汗を止めてしまう。

 また、時間をずらして服用したとしても、温・寒の問題の解決にはならない。

 麻黄湯・白虎加人参湯の特徴を「漢方診療ハンドブック(*1)」よりまとめてみる。

 麻黄湯
 <方剤構成> 
  麻黄(温) 杏仁(温) 甘草(平) 桂枝(温)
 <方剤構成の意味>
  温めて発汗させ、病を駆逐する方剤
 <適応>
  カゼや熱性疾患の初期、発汗剤として用いる。

 白虎加人参湯
 <方剤構成>
  知母(寒涼) 粳米(寒涼) 甘草(平) 石膏(強い寒性) 人参(温)
  *石膏の寒性と比べれば、人参の温性はほとんど邪魔になるものではない
 <方剤構成の意味>
  白虎湯は熱証で燥証向きの方剤。人参が入ることによって、白虎湯よりも、より虚証向きとなる。
 <適応>
  口渇が強く、1日に水を何杯も飲むという症状を目標に、広く用いられる。
  糖尿病、さむけのない熱性病で口渇が著しい場合、熱証で口渇の強い乾性皮膚疾患などに用いられる機会が多い。

□考察
 各方剤にはベースとなる生薬があり、さらに骨格のようなものをなしているところがおもしろい。
 
 今回の主薬は麻黄。発汗薬の代表格であるが、本来は水をさばく生薬といったところか。麻黄は桂枝と組むか、石膏と組むかで水をさばく向きを変える。「麻黄+桂枝」ならば水は表に向かい、発汗作用が強く現れる。「麻黄+石膏」ならば水は裏に向かう。結果、汗は止まる。
 
 
 投薬・薬歴記入時には考えなかったが、大青竜湯という方剤がある。麻黄湯に越婢加朮湯を足したものだ。これは「麻黄+桂枝・石膏」となる。これは麻黄湯よりもさらに強力な発汗作用を持つ。石膏の配合目的は‘煩躁’(=身体に煩わしい不快な熱感があり、手足のふるえや手足をバタバタ動かしながら苦しむこと)のためである。

 この点についてはよくわからないが、これには構成生薬の量(分量比)が関係していると思われる。今回のケースでは石膏の量が圧倒的に多く、恐らく桂枝は負けて止汗と向かうであろう。

 方剤は一定の配合法則や分量比に従って構成されている。漢方併用時には、その骨格が変化していないか、薬効が方向転換していないかといった視点も必要になるだろう。

 

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*1:健保適用エキス剤による漢方診療ハンドブック

 
 
 
 
 

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2009年12月11日 (金)

リレンザが効かない!?

タミフル・リレンザは解熱剤ではない
この誤解は根強い
熱が急激に下がるのは副作用かもしれない

CASE 44

18歳 男性
他科受診:なし  併用薬:なし  副作用歴:なし

処方内容
Rp1)リレンザ 4BL / 2x朝・夕食後 5日分
  2)カロナール錠300mg 1T / 1x発熱時 5回分

投薬2日後にTEL:
「リレンザでは熱が下がらない。以前、タミフルを飲んだときには1日で下がった。
 タミフルでなくて大丈夫か?」

薬歴より得られた情報:
① 平成17年12月タミフル服用歴あり
② 2日前にリレンザを投薬。薬局にて1回分(2吸入)実施。手技に問題なし。
  

患者から得られた情報:
① KT:38.6℃ 夜になると高くなる。
② 熱以外に症状はなく、食事も取れている。
② 手技、用法・用量は問題ない。

□CASE 44の薬歴
#1 リレンザへの誤解
  S) リレンザでは熱が下がらない。以前、タミフルを飲んだときには1日で下がった。
    タミフルでなくて大丈夫か?
 O) H17.12にタミフル服用歴あり。
    リレンザの吸入手技、用法・用量NP。
    2日経過し、熱(KT:38.6℃)以外症状なし。
 A) 抗ウイルス剤への理解が必要
 P) リレンザやタミフルは解熱剤ではありません。
    ウイルスの増殖を抑えて、インフルエンザで苦しむ期間を短くする薬です。
    そのまま吸入を続け、高熱できついときはカロナールで対応してください。

□解説
 新型インフルエンザ騒動でおざなりになってはいるが、10代へのタミフルの投与は原則禁忌となっている。そこでリレンザが選択され、投薬の際は納得して帰られている。熱が下がらないことと過去に経験したタミフルの効果(ここではそう表現しておく)から、「タミフルでなくて大丈夫か」との電話を受ける。

 ‘タミフルやリレンザは熱を下げる’といった誤解は根強い。「どのくらいで効きますか」との質問の意も同じだろう。そこで、リレンザの吸入手技や用法・用量そして患者の全身状態を確認してうえで、リレンザの薬識の補正を行っている。

□考察
 タミフルが登場したとき、ほんとうに驚いた。‘タミフルは効く’。まさに特効薬。高熱がすっと下がるからだ。ウイルスの増殖を抑えれば、きっと身体が発熱しなくても済むんだろうなんて思っていた。

 しかしそれは見当違い。タミフルの未変化体が脳内の体温調節中枢を阻害する。結果、熱が下がる。この機序は中外製薬も認めている。タミフルの副作用に‘低体温’もある。これが‘タミフルは効く’の正体と考えればスッキリする。

 精神神経系の症状はインフルエンザそのものが原因のこともある。それは高熱状態でおこる。しかしタミフルでは、熱が37℃台まで下がって異常行動を起こしているケースがある。やはり、タミフルの副作用と考えるのが自然だろう。

 タミフルが脳に移行することはよく知られている。最近は患者も知っている。ではリレンザはどうだろうか。リレンザはBAも低くほとんど吸収されない。理論的には低体温も起こらないはずだ。添付文書にも記載はない。

 ところがGSKに確認すると、なんとリレンザでも、数例ではあるが、低体温の報告があるそうだ。たった1度の吸入で39℃から34℃台になった症例もある。全身性の副作用は考えにくいが原因は不明…。

 薬剤師の目からみれば、安全性ではリレンザが一枚も二枚も上手だ。しかし過信は禁物。患者を安心させようと言い過ぎてはいけない。過ぎたるは及ばざるが如し。

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