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2009年11月27日 (金)

SOAPのバランス感覚~Sについて~ その1

薬歴は薬のプロが行うドキュメンテーションだ
SOAPのバランス感覚
S)とO)は迷わず記載できるようになりたい

参加学術大会
第71回九州山口薬学大会《大分》

日時:平成21年11月22日・23日
場所:別府ビーコンプラザ

講 師: 磯部 総一郎厚生労働省保険局医療課 薬剤管理官
演 題: 「薬剤師の将来について」

 大会特別講演にて磯部先生の講演を聴講した。
講演序盤に薬歴に関する話があった。印象に残った言葉をもとに、「薬歴の書き方」について考えてみたい。

「(薬歴に)なんで茶飲み話を書いてるんだ」

 薬歴は薬のプロが行うドキュメンテーションだ。記録を録り、残し、評価する。そして患者にフィードバックされる。その薬歴に「茶飲み話」しか書かれていなければ、そんなものは必要ない。
 自分の記録したものは残すに値するものであったか、活用しうるものかであったかどうか。オーディットの材料になり得る薬歴なら問題はないだろう。

「これも一種のトリアージ。患者の訴えから当たりを付ける」

 トリアージと言えば「災害医療」で用いる概念だと思っていた。語源はフランス語の triage(選別)。
 患者は千差万別であり、型通りの説明をしていてはダメだ。患者の訴えから何を拾い出すかが問題というわけだ。S)は「薬剤師が焦点を当てた情報(SOAP記載とSOAP思考参照)」であり、患者の訴えから何を拾い出すかは薬剤師の判断による。その際、当然、優先度は考慮される。なるほど、一種のトリアージか。

「言った通りに書くのではなく、何にフォーカスするか」

 患者のセリフをそのまま書くと頭でっかちなSOAPが出来上がる。S)が長くなる。これは美しくない。なぜ、頭でっかちなSOAPに陥りやすいのか。
 薬歴の研修にて、以下のようなことを学んできた。

①S)とO)は迷ったらどっちでも構わない。
②主訴はなるべく患者のセリフを言い換えずにそのまま記録するほうがよい。

 たしかにコンプライアンスに関するテーマにおいて、言い換えはまずい。微妙なニュアンスが伝わらないからだ。しかし、それ以外のテーマにおいて、患者の言った通りに書くことにメリットは少ないように感じる。むしろ、この2つが頭でっかちなSOAPを作ってしまう原因ではないだろうか。
 薬剤師がフォーカスした情報をS)に書く。その他の情報でテーマに関するものはO)に、それ以外は欄外や特記に記録する。つまりクラスタリングの概念だ。
 バランス感覚が美しいSOAPには必要だろう。

「数学をやる上で美的感覚は最も重要です」
「あらゆる理系の学問において、美的情緒こそ最も重要」(*1)

 数学者の藤原正彦先生の言葉だ。薬歴もまた然りである。

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*1:国家の品格  藤原正彦 著

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2009年11月20日 (金)

10代へのタミフル投与

10代へのタミフル原則禁止は継続されている
にもかかわらず、新型では解禁扱い
異常行動のリスクはどうなった?

CASE 43

13歳 男の子
他科受診:なし  併用薬:なし  副作用歴:なし

処方内容
Rp1)タミフルカプセル 1.92Cap / 2x朝・夕食後 5日分(*脱カプセルにて調剤)
  2)カロナール細粒50% 0.7g / 1x発熱時 5回分

母親のコメント:「インフルエンザだった。新型なのに、本人はケロッとしてるんだけど」

患者から得られた情報:
① KT:38.9℃ 他に症状はない
② BW:36kg
③ 過去にタミフルの服用歴があり、新型なのでタミフルを使うとDrより説明あり

□CASE 43の薬歴
#1 10代へのタミフル投与と異常行動
  S) KT:38.9℃、本人はケロッとしている
 O) 過去にタミフル服用歴があり、新型なのでタミフルを使うとDrより説明あり
 A) 10代への投与の現状と異常行動への理解必要
 P) 通常の季節性のインフルエンザでは10代へのタミフルは禁止となっています。
   2日間は目を離さない、服用直後は特に注意しておいてください。
   うわ言をいう、ぼっーとなる、息苦しそうなどいつもと違うときは即中止を。

□解説
 タミフルの10代原則禁止は継続されており、公式には解除されていない。原則禁止が継続となっている理由は2つある。まず、1万人規模の疫学調査において、異常行動のリスクを高めている可能性を否定できないデータが出ていること。もう1つは原則禁止となってから、異常行動による死亡事故が報告されていないことだ。

 タミフルの警告には「この年代の患者には、合併症、既往歴等からハイリスク患者と判断される場合を除いては、原則として本剤の使用を差し控えること」とある。今回の新型はハイリスクとみなされているため、解禁状態になっているといっても差し支えないだろう。

 しかし、異常行動の問題が解決されたわけではない。「2日間は目を離さない」この約束は徹底する必要がある(幸いというか、世間が過剰な対応をしているので、子供がインフルエンザなら親も出勤できないようなケースも多く、この点で問題になることは少ないようだ)。

 さらに、タミフル服用開始から異常行動や精神神経系の副作用が出るまでの時間は短い傾向にある。7割くらいはタミフルを1~2回服用したあとに起こっているようだ。以上の点を考慮して服薬支援を行っている。

□考察
 新型なので10代もOK。この理論は効果面だけを見たものだ。その根拠も怪しい。異常行動(をはじめとした精神神経系の副作用)の問題は議論されていない。

  「インフルエンザ脳症などによっても、同じ様な症状があらわれるとの報告がありますので、同様にご注意ください」と指導箋には書いてある。たしかに起きている症状は表層的には同じだ。しかし、実は違う。インフルエンザで起こるせん妄は高熱状態で起こるが、タミフルによるせん妄は低体温でも起きる。さらに脳症のタイプも全く異なる。

 
 また過去の症例を紐解くと、精神神経系の副作用症状は最初のタミフル服用直後に起こっているケースが多い。タミフルの脳への移行が原因であるならば、未変化体の体内動態が問題となる。未変化体のみがBBBを通過しうるからだ。

 未変化体のTmaxは 非常に早い。これがタミフル服用直後に症状が現れていることと関係しているのではないだろうか。

 未変化体の大部分が肝臓において加水分解されるまでに、脳も自分自身で積極的に解毒を行っている。BBBにおいて、P糖タンパク質が脳に入ろうとする未変化体を汲み出す。「あたかも脳は、一個の生体に寄宿している、排泄機能を備えた別の一個体なのである(*1)」という澤田先生のフレーズを思い出す。しかし、肝臓による代謝やBBBのP糖タンパク質には個人差がある。さらにインフルエンザで全身状態が悪くなり、その機能が弱まっていたとしたら・・・。

  異常行動や精神神経系の症状は、タミフルによる副作用と考えて対応していくことが正しい、と私は考えている。一薬剤師にできることは限られていることもわかっている。しかし、タミフルの副作用を前提とした服薬支援を行うか否かは、各薬剤師に選択できることではないだろうか。

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*1:この薬はウサギかカメか(中公新書) 澤田康文 著 

 
 
 
 
 

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2009年11月13日 (金)

タミフルのTmax

タミフルドライシロップを吐いてしまった
再投与をどうするか?
IFで薬のキャラクターを把握しておこう

CASE 42

9歳 男の子
他科受診:なし  併用薬:なし  副作用歴:なし

処方内容
Rp1)タミフルドライシロップ 4g / 2x朝・夕食後 5日分
 2)カロナール細粒50% 0.5g / 1x発熱時 5回分
  3) アンヒバ坐剤小児用200mg 5個

投薬後に患者(母親)よりTEL:
 「タミフルを飲んで20分ちょっとくらいで吐いてしまった。どうすればいい?」

患者から得られた情報:
① 15:30くらいにタミフルDSを服用。その後寝ていて、ついさっき吐いてしまったと16:00に℡あり。
② 意識ははっきりしているし、息苦しさも見られない。特に熱以外に、体調に変わった様子はない。

来局時の情報
① KT:39℃、その他には症状はなく、わりと元気。
② 検査では陰性だったが、発熱から3時間なのでタミフルDSを出してもらった。

□CASE 42の薬歴
同日 16:00  母親よりTELあり
#2 嘔吐後のタミフルDSの再投与について
  S) タミフルを飲んで20分ちょっとくらいで吐いてしまった。どうすればいい?
 O) 15:30くらいにタミフルDSを服用し、16:00前に嘔吐。
   意識障害や呼吸異常なく、熱以外に体調変化なし。
 A) 再受診の必要はないだろう。
   タミフル未変化体のTmaxは0.71hr±0.27で、最短なら26min程度
   吐いた量にもよるが、吸収されている可能性は高い。
   高熱+タミフル過量でタミフルの脳への移行が心配。
 P) すぐには飲ませず、3時間以上あけて18:30以降に飲ませてください。
   今日はその1回のみです。明日からは朝・夕の2回で。
   タミフルはウイルスをやっつけるのをサポートするだけの薬で、
   絶対に飲まないといけない薬ではないので安心してください。

□解説
 今回の薬歴は、投薬後の℡への対応についてだ。投薬の際の服薬支援が#1なので、℡対応は#2として記載している。

 実をいうと電話を受けたときには、#1をまだ記載していなかった。ここでやってはいけないことは、#1と#2をごちゃまぜに書いてしまうことだ。#1をすぐに書いておけばそんなことは起こらないわけだが・・・。

 さて、今回のテーマは「嘔吐後のタミフルDSの再投与をどうするか」である。S)には患者からの質問内容を記載し、足りない情報を患者から聞き出してO)情報とする。S)O)情報をもとに、再受診の必要性やタミフルの再投与についてどうするかを考え(A)、患者が安心できるような具体的な指示(P)を心がけている。

 「タミフル未変化体のTmaxは0.71hr±0.27で、最短なら26min程度」のくだりは必要ないのかもしれない。だが、あえてSOAPに組み込むのなら、A)である。なぜなら、O)情報は患者の情報であり、先のくだりは薬の情報だからである。

□考察
 タミフルの脳への移行問題、特に小児へのタミフルの必要性といった問題を抜きにして考察を進めたい。本当はこういう問題を薬剤師がどう考えるか、つまり薬剤師の価値観が服薬支援には大きく関与するわけだが・・・。

 
 薬剤師は患者やドクターからの質問に対して、さまざまな情報を加工することで対応している。今回のケースでは「どのくらいのタミフルが吸収されているか」ということを考えている。そこで参考になる情報の1つがTmaxだ。

 しかしここで添付文書が役に立たない。添付文書に記載されているのは活性体のTmax:3.7±0.5hrのみである。タミフルは未変化体のまま吸収され、肝臓にて活性体となる。つまり、活性体のTmaxだけでは効果発現の指標にはなり得るが、吸収の指標にはなり得ない。

 そこでIFを紐解いてみると、未変化体のタミフルのTmaxは0.71±0.27hrとある。なぜ、この程度の情報を添付文書に反映させてくれないのか。スペースに限りがあるのはわかる。しかし、あまりにお粗末。使い手のことを考えていない。想像力の欠如である。

 
 ここでの教訓は、薬のキャラクターを捉えるためにはIFが必須である、ということだ。この媒体には広大なスペースがある。タミフルだと83ページもある。さらに電子化も進んでいるので、すべての薬の最新版がPMDAのHPから一括入手できる日も近いだろう。

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