« 2009年5月 | トップページ | 2009年7月 »

2009年6月26日 (金)

カマグによる高マグネシウム血症

薬局薬剤師の実力を測りうるバロメータ
薬歴に検査データの記載なしの状態では
薬の適正使用に貢献することは難しいだろう

CASE 30

  80歳女性

  既往歴:腎不全、高血圧、腹部大動脈瘤、腸閉塞x3回

  他科受診:なし  併用薬:なし

 
  処方内容:
    Rp1)オルメテック錠10mg 1T / 1x朝食後
  Rp2)ラックビーN微粒 3g / 3x毎食後
  Rp3)ツムラ大建中湯エキス顆粒 15g / 3x毎食前
  Rp4)酸化マグネシウム 0.67g / 1x寝る前

  Rp1)~3)は前回Do、Rp4)は今回追加

 
 患者のコメント: 「カマグをお願いしたら、夜1回だけならいいだろうって」

  
 
 薬歴から得られた情報:
 ① 採血結果 S-Cr:2.6、BUN:39、Mg:3.0
  ② 前回、高マグネシウム血症のためにカマグ(酸化マグネシウム 2g/3x毎食後)は中止となっている。自覚症状(-)。
 ③ 下剤で腹痛がおこりやすく、効かないので飲みたくない

 薬剤師とのやりとりで得られた情報:
 ① 採血結果 S-Cr:2.8、BUN:39、Mg:2.2
 ② 便が硬く、腸閉塞再発への不安(+)
 ③ 患者希望を認める形で、カマグ再開

□CASE 30の薬歴
 ♯1 カマグによる高Mg血症
  S) カマグは夜1回だけならいいだろうって
  O) カマグ減量のうえ再開 Rp4)追加
     Mg:3.0→2.2
         S-Cr:2.6→2.8
         BUN:39→39
  A) Mg↓だがS-Cr↑のため、高Mg血症のリスク大
  P) Drの指示通り夜1回のみにしておくこと。
     採血をこまめにうけるようにすること。
     吐き気や身体がきつい、力が入らないなどの症状
      →カマグを中止し、受診するように

□解説
  平成20年11月27日の医薬品・医療機器等安全性情報の内容を下記に記す。

 
 酸化マグネシウムは,昭和25年から便秘薬や制酸剤などとして広く使用されており,関係企業が推計したおおよその年間使用者数は約4,500万人(平成17年)である。

 

 酸化マグネシウム製剤における高マグネシウム血症について
 
  酸化マグネシウム製剤による高マグネシウム血症に関しては、これまで「使用上の注意」の「副作用」の項等に記載しておりましたが、国内において、重篤な高マグネシウム血症が25例報告(そのうち死亡例4例)されております。
 
  重篤な高マグネシウム血症(死亡例を含む)が報告されております。
長期にわたり投与する場合や高マグネシウム血症が疑われる症状が発現した場合等には、血清マグネシウム濃度の測定を行うなど十分な観察を行ってください。

 

高マグネシウム血症:本剤の投与により、高マグネシウム血症があらわれ、呼吸抑制、意識障害、不整脈、心停止に至ることがある。悪心・嘔吐、口渇、血圧低下、徐脈、皮膚潮紅、筋力低下、傾眠等の症状の発現に注意するとともに、血清マグネシウム濃度の測定を行うなど十分な観察を行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。

 腎不全があるため、カマグはよくないと患者本人も理解している。Mgが3.0となり高Mg血症と診断(*1)されたために、カマグは中止となっていた。今回、Mgが2.2と下がったのを受け、カマグを減量したうえで再開となる。 

 しかし、S-Crは上昇しており、高Mg血症のリスクはある。

 そこで、カマグの量を守ること、こまめに採血をうけること、初期症状に注意することの3つをお願いする。ちなみに、実際に高Mg血症の初期症状が現れるのは、Mg:4.0mg/dLくらいからといわれている。

 
 
□考察
 カマグ報道のレスポンスはさまざまだった。「もうこんな薬はのまない」というおじいちゃんもいれば、「死んでも私は飲むから」「もう30年飲んでるから大丈夫でしょう」というおばさまもいた。

 安全性情報には「統合失調症や認知症を合併している患者などに対して漫然と長期投与されていたと考えられる症例及び高マグネシウム血症による症状と気づかないまま重篤な転帰に至った症例が認められたことから,・・・」との記載があるが、最大のリスクファクターは‘腎不全’だろう。

 処方薬からだけでは‘腎不全’があるとはわからない。そもそも、患者の腎機能や肝機能の把握なくして、薬の適正使用など無理だ。検査データをみせてもらえるかどうかは、薬局薬剤師としての実力があるかどうかのバロメータといえるだろう。

にほんブログ村 病気ブログ 薬・薬剤師へ

人気ブログランキングへ

*1:熊本県薬剤師会HP 電解質異常の自覚症状のアンサーページ

 

 
 

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2009年6月19日 (金)

ガスターと腎機能

齋藤孝先生が考案したコンセプト‘質問力’
この能力は、薬局薬剤師の力を発揮するためには必須だ

CASE 29

  70歳男性

  既往歴:脂質異常症、胃潰瘍、腰痛症

  他科受診:なし  併用薬:なし

 
  定期の処方:
    Rp1)リピトール錠5mg 1T / 1x朝食後
  Rp2)ガスターD錠20mg 2T / 2x朝・夕食後
  Rp3)アリナミンF錠25mg 3T / 3x毎食後
  Rp1)~3) 21TD

 
 患者のコメント:体調は変わりないよ。薬もいつも通りでしょ。

  
 薬剤師とのやりとりで得られた情報:
 ① S-Cr 1.5、BUN 22
 ② 塩分・腎機能は以前より指摘を受けていた
 ③ 認知症様症状なし

 薬歴から得られた情報:
 ① BW 65kg
  ② ガスター40mg/dayは平成10年より継続中

□CASE 29の薬歴
 ♯1 腎機能低下によるガスター蓄積
  S) 体調NP、せん妄(-)
  O) 以前より塩分・腎機能低下の指摘(+)
     S-Cr 1.5、BUN 22、BW 65kg → CLcr 40
         ガスター40mg/day(H10~現在)
  A) 30<CLcr<60 ではガスター20mg/dayが適量
     蓄積によるせん妄などの副作用のリスク(+)
  P) 患者に対しては塩分指導(塩分十ヶ条提供)
    トレースレポート提出

 トレースレポート内容:
 ①CLcr 40なのでガスターは過量であり、蓄積による副作用の恐れがある
 ②代替案として、ガスターD錠 20mg/dayへ減量 or 肝排泄のプロテカジン を提案

□解説
 CASE29の患者の薬歴は11年の歴史がある。しかし、内容は非常に薄い。処方変更がほとんどなく、コンプライアンス良好。薬歴の内容からは、いわゆる‘とっかかり’が見出せない。そこで、処方薬と基本情報から新たな視点でアプローチを試みる。

 ‘高用量のガスター’+‘高齢者’→‘腎排泄型薬剤の蓄積’といった仮説を立てる。この仮説に必要な情報を患者にインタビューしていく。ガスターの蓄積による認知症様症状などのせん妄は出ていないが、腎機能の低下があるため、そのリスクは高い。

 しかし、ガスターの服用期間と副作用の機序からすぐに副作用が現れることは考えにくい。そこで、患者に不安を与える疑義照会ではなく、トレースレポートによるDrへの情報提供を行うことにした。

□考察
 「お変わりありませんか」この質問は具体的でもなく、本質的でもない。患者は「(あなたに話すほどの)変わりはありません」と答えるだけだろう。つまり、具体的かつ本質的な質問を意識しておく必要がある。

 ‘質問力’があれば、処方変更はほとんどなくとも、薬歴は充実する。今回のCASEももっと早く対応できていたはずだ。勉強不足は‘質問力’のなさを決定的なものにする。70歳ならばS-Crが1.0以上ならeGFRも60以下であり、ガスター40mg/dayは明らかに過量である。

 高齢者の物忘れの原因は、漫然と投薬しているそのガスターのせいかもしれない。

 質問は充分練って作らなければならない。いくつか考えた上で取捨選択して選んでいく。あるいは1つの質問をブラッシュアップさせていく。これが練るという作業だ。質問自体で後の作業が変わってくる。

 

 答えは必ずしも深く練る必要はないが、質問の方はよく練っておかないと、その後のパフォーマンスや結果が大きく変わってしまう。質問は思いつくものではなく、練り上げるものと思うのが上達の近道である(*1)

 滑走路がなければ飛行機は離陸できない。‘質問力’は薬剤師が薬学的知識を発揮するために必要な滑走路といえるだろう。

にほんブログ村 病気ブログ 薬・薬剤師へ

人気ブログランキングへ

*1:質問力  話し上手はここがちがう (ちくま文庫)

   著者:齋藤孝 

 
 

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

« 2009年5月 | トップページ | 2009年7月 »