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2009年5月29日 (金)

熟眠障害とマイスリー

分類は物事を理解するための武器になる
しかし、分類はある側面からみたものにすぎない
薬歴の役割も別の側面から考えてみた

CASE 27

  47歳男性

  既往歴:高血圧、脂質異常症、不眠症

  他科受診:なし  併用薬:なし

 
前回の処方:
    Rp1)ディオバン錠80mg 1T / 1x朝食後
  Rp2)クレストール錠2.5mg 1T / 1x夕食後
  Rp3)ユーロジン錠2mg 1T / 1x寝る前

 

 今回の処方:
    Rp1)Do
    Rp2)Do
  Rp4)マイスリー錠10mg 1T / 1x寝る前
    
       
 薬歴より:コンプライアンスやや不良
      眠剤は飲まない日もあるので余ってきている

 
 患者のコメント:ぐっすり寝た感じがないので相談した。睡眠薬を変えてみると。

  
 薬剤師とのやりとりで得られた情報:
 ① もともと寝つきは悪くはない
 ② 寝ても疲れがとれないので眠剤の服用をはじめた
 ③ ユーロジンによる持ち越しなどのSE(-)

□CASE 27の薬歴
 ♯1 熟眠障害とマイスリーへの変更
  S) ぐっすり眠った感じがない
  O) ユーロジン(2)→マイスリー(10)
    もともと寝つきはよく、熟眠障害で眠剤を服用
    ユーロジンによるSE(-)
  A) マイスリーω1選択性→睡眠Stage3,4増加→熟眠障害に適
    ユーロジンとの違いの理解必要
  P) 今までのタイプと異なる点を説明
    ①すぐに効果がでるので服用したらすぐ床につくこと
    ②効果持続が短いので睡眠時間自体は短くなるかも
    ③睡眠の質がよくなり、ぐっすり感を得やすい

  
□解説
 高齢者の睡眠時の脳波は、睡眠Stage4がなく、2くらいが多い。つまり、睡眠の質が悪い。浅いのだ。高齢者は、睡眠時間を長くすることによって、睡眠の質を補っているのであろう。

 今回の患者は47歳と働き盛りだ。熟眠障害にてユーロジンを服用している。たしかに、BZ系の服用により睡眠時間は延長するだろう。しかし、睡眠の質の面では、睡眠Stage2を増加させ、3,4を抑えてしまう。つまり、高齢者の脳波に近いといえる。これが「ぐっすり感」の改善がない原因と思われる。

 そこで処方医はω1選択性のある非BZ系のマイスリーへと舵を切ったわけだ。ω1選択性のあるマイスリーでは、睡眠Stage3,4が増加する。若者の眠りとなり、「ぐっすり感」が得られる寸法だ。

 以上までが、医師の仕事だ。ここからがわれわれの仕事となる。ユーロジンからマイスリーに変わることによって起こることを予想する。マイスリーの服用方法と健忘、持続時間の違い、BZ系から非BZ系への変更による離脱症状などだ。離脱症状はコンプライアンス的に大丈夫だろうと考え、服薬支援は①~③の3点を行っている。

□考察
 A)の「マイスリーω1選択性→睡眠Stage3,4増加→熟眠障害に適」のくだりは必要だろうか。P)の③「睡眠の質がよくなる」の根拠であるので間違ってはいないが、「マイスリーとユーロジンの違いの理解が必要」だけでも十分だとも考えられる。

 だが、私はあえて記載するようにしている。なぜなら、薬歴は“スタッフのレベルを上げるツール”だからだ。睡眠薬を考える際に、半減期を基にした分類のみで考えている薬剤師もいるかもしれない。今回のケースでは睡眠の質、睡眠Stage的な分類・視点が必要だ。

 ナマの症例で学んでいれば、モノになりやすいものだ。

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2009年5月22日 (金)

分布・蛋白置換反応

また見つけました。なつかしい未熟な薬歴。
ADMEのD、蛋白置換反応。
科学は仮説にすぎない、そんな一例だ

CASE 26

  68歳男性(当時)

  既往歴:心筋梗塞、糖尿病、不眠症

  他科受診:なし  併用薬:なし

 
  定期処方:
    Rp1) バイアスピリン錠 1T・タナトリル錠5mg 1T・アマリール錠1mg 2T / 1x朝食後 
  Rp2) ベイスンOD錠0.2mg 3T / 3x毎食直前
  Rp3) リピトール錠10mg 1T / 1x夕食後
  Rp4) レンドルミン錠0.25mg 1T / 1x寝る前

 臨時処方:
  Rp5) PL顆粒 3g・ダーゼン錠10mg 3T・ムコスタ錠100mg 3T / 3x毎食後
    
       
 薬歴より:HbA1c 5.8%、コンプライアンス良好

 
 患者のコメント:風邪ひいた。のどが痛い。

  
 薬剤師とのやりとりで得られた情報: 咽頭痛の他に、鼻汁(+)

□CASE 26の薬歴
 ♯1 AM-PLによる低血糖  *AM:アマリール
  S) 咽頭痛(++)、鼻汁(+)
  O) AM服用中・血糖コントロール良好
     PL顆粒処方
  A) AM+PL→AM[Cu]↑ ←この内容は誤り
  P) 併用中は低血糖にいつもより注意し、ブドウ糖にて対応を

  
□解説
 

  従来、血漿蛋白結合部位における薬物間での競合と追い出し(置換)が重要な薬物相互作用の原因になるとされた。事実、そのような記述は医薬品添付文書にも多く認められる。しかし、この機序による重大な薬物相互作用は現実にはほとんど生じない。(*1)

 遊離形となった薬物は血液よりはるかに大きい分布容積をもつ組織へ移行する。結果、瞬時にもとの平衡状態にまで希釈される。危惧されていた薬理作用の過剰発現による副作用は起こらない。したがって、用量調節を行う必要もないわけだ。

 AMとPLを併用しても、AMの遊離形血中濃度([Cu])は上昇しない。しかし、低血糖のリスクは高まる。これは、PLに含まれるサリチルアミドなどのサリチル酸系自体に直接血糖値を下げる作用があるからである。

□考察
 同様な例に、WF-パラミジンやSU剤-ベザトールSRなどの組み合わせがある。前者はパラミジンによるCYP2C9の阻害と解明されている。後者ではベザトールで糖尿病の発症予防効果(*2)が報告されている点などが関係しているのだろうか。

 
 in vitroのデータは仮説にすぎない。いや、常識や科学、ガイドラインといったものも仮説なのだ。

 われわれは、いくら白にみえる仮説でもいつグレーから黒に変わるかわからない、と肝に銘じておくべきなのです。もちらん、その逆も然りです。
 ようは先入観や固定観念にしばられずに、知的かつ柔軟に対応することが大事だと思うのです。(*3)

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*1:図解 薬理学―病態生理から考える薬の効くメカニズムと治療戦略

おすすめポイント:
薬理作用にエビデンス、さらには構造式まで。大活躍の1冊です。

*2:Circulation,2004;109;2197-2202

*3:99・9%は仮説 思いこみで判断しないための考え方 (光文社新書)

おすすめポイント:
科学はすべて仮説であり、近似にすぎない。

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2009年5月15日 (金)

プレミネントと水毒

漢方的視点を感じる薬歴を書くことができた
はじめてクライフ・ターンを決めたときのような気分だ
自分の得意なプレーの1つにしていきたい

CASE 25
  50歳女性
  既往歴:高血圧症
  他科受診:なし  併用薬:なし
 
    Rp1)プレミネント錠 1T / 1x朝食後   14TD(今回が2回目)
       
 前回の薬歴より:BP150/90 ディオバン錠80mg→プレミネントへ変更
 
 患者のコメント:まだ下(の血圧)が高い。
         利尿剤が入っているからか頻尿になった気がする
  
 薬剤師とのやりとりで得られた情報:
 ① のどが渇くようになった、水分は意識して取っている。
 ② BP140/90
 ③ 色白、ぽっちゃりの水太りタイプ
 ④ 血糖の指摘を受けたことはない

□CASE 25の薬歴
 ♯1 プレミネントへの誤解と水毒
  S) 利尿剤が入っているからか頻尿になった気がする
         のども渇くようになった。
  O) 口渇・多尿(+)、水太りタイプ
        水分を意識してとっている
     DMの指摘(-)
  A) プレミネントのHTCZで利尿効果が続くのは考えにくい
     水分の取りすぎによる水毒症状では
  P) プレミネントに配合されている量では利尿効果は考えにくく、
     水分の取りすぎが原因ではないかと提案
  R) 利尿剤が入っているから水分をとらないとと思っていた

  
□解説
 口渇・多尿・多飲といえば高血糖の症状だ。糖尿病を含め、漢方でいうところの水毒の症状である。血糖の指摘を受けたことがないうえに色白・ぽっちゃりの水太りタイプであった為、水分の取り方に注目した。水分の過剰摂取も水毒の原因になる。
 服薬支援のあとに有益な情報を得ることは多い。そのような情報はSOAP記載の中に組み込むことはできない。(S)(0)の患者の情報は服薬支援(P)を行うための情報であり、服薬支援後の情報はリアクション(R)として記載している。今回のリアクション(R)は患者の理解度ならびにプレミネントの薬識を確認できる内容なので記載した。また、プロブレム(#)もリアクション(R)まで含めてネーミングしている。

□考察
 プレミネント投薬時に利尿剤のイメージを相手に強く与えるのは得策ではない。まず、ARB合剤に配合されているHTCZの量は利尿作用が発現する量よりもはるかに少ない(CASE 23参照)。さらに、高齢者ではコンプライアンスに影響することも考えられる。
 
 今回のCASEは服薬支援が功を奏したのか、次回来局時には、水毒症状はなくなっていた。さらに、漢方的視点からのアプローチで患者の薬識をつかむことができた。そういえば、今までに意識したことのないアプローチだった。漢方が処方されたときのみ、気・血・水や陰陽理論を使っていた。無意識にスイッチを切り替えていたのだろう。

 西洋薬or漢方薬、A or B の日本人的な二者択一的な考え方。そこから脱却した新しいアプローチを技としていきたい。クライフ・ターン(サッカーでボールを蹴ると見せかけて軸足の後ろ側を通すフェイント)のようなアプローチが決まればチャンスは広がるだろう。

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2009年5月 8日 (金)

芍薬甘草湯

芍薬甘草湯の用法・用量って・・・
「治療上必要な最小限の期間の投与に・・・」って曖昧
疼痛時頓服でいいのでは?

CASE 24
  74歳男性
  既往歴:高血圧症、逆流性食道炎、腰痛症、前立腺肥大症
  他科受診:泌尿器科  併用薬:ハルナールD錠0.2mg、エビプロスタットDB
 
    Rp1) アダラートL錠10mg 2T / 2x朝・夕食後
   Rp2) タケプロンカプセル15mg 1P・ディオバン錠40mg 1T / 1x朝食後
    Rp3) モーラスパップ30mg  28枚
   Rp4) ツムラ芍薬甘草湯エキス顆粒 7.5g / 毎食前

 
 薬歴より得られた情報:
 ① 前回より Rp4)処方
 ② 夜中にこむら返りが起きて飛び起きるとコメントあり
       
 患者のコメント:こむら返りなく、よく効いているみたい。
  
 薬剤師とのやりとりで得られた情報:
 ① 芍薬甘草湯を1日3回服用中
 ② 手足のだるさや筋肉痛などはない

□CASE 24の薬歴
 ♯1 ツムラNo.68の副作用と用法
  S) こむら返りなく、よく効いている
  O) 夜中のこむら返りにツムラNo.68 3x服用中
     手足のだるさ(-)、筋肉痛(-)
  A) 甘草6g含有、漫然服用で偽アルドステロン症の恐れ
     ツムラNo.68への理解が必要
  P)  3xで漫然と続けると手足のだるさなどの副作用が現れやすい。
     夜中のこむら返りの予防であれば、寝る前に1包で十分。
     即効性があるので、つった時だけでもOK。
    

  
□解説
 甘草は急性の痛みや痙攣によく効く生薬である。約7割の方剤で使用されているポピュラーな生薬だが、その目的は副作用防止であることが多い。しかし、甘草は量が多いと「偽アルドステロン症」などの重大な副作用を惹起する恐れがあるので注意が必要だ。
 今回のCASEの芍薬甘草湯は、1日量(3包)で6gもの甘草を含む。さらに、切れ味がよいことと常用しても体質改善にはならないことも考慮すると、頓服として用いられるのが一般的と思われる。
 また、夜中に起こるこむら返りに対しては、その都度、服薬するのは現実的ではない。そこで、予防として、寝る前の服用を勧める。服用量が最小限で済めば、副作用のリスクも低くなるだろう。

□考察
 漢方薬の用法・用量はどうしてこう杓子定規なのであろうか。痛み止めを痛くもないのに常用するのとなんら変わりはないように感じる。
 
 こむら返りの特効薬。特効薬とは、その用途こそがはっきりしているものだ。

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