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2009年3月27日 (金)

ハイペンによる急性腎不全

話題に事欠かないNSAIDs
COX-2理論が実感できない例に急性腎不全がある
COX選択性より半減期に注目すべきだろう

CASE 20

  78歳女性
  既往歴:脳梗塞、高血圧、不眠症、ASO、OAB、緑内障、白内障
  他科受診:眼科  併用薬:点眼のみ(キサラタン・チモプトール・カリーユニ)

 
 定期処方:
    Rp1)ハルシオン錠0.125mg 1T・カルデナリン錠1mg / 1x眠前
  Rp2)バファリン錠81mg 1T・ブロプレス錠4mg 1T・ベシケア錠5mg 1T / 1x朝食後
  Rp3)アンプラーグ錠100mg 2T・ハイペン錠200mg 2T / 2x朝・夕食後
     Rp1)~3) 14TD

 今回の処方:
  Rp1) Do
  Rp2)バファリン錠81mg 1T・ブロプレス錠8mg 1T・ベシケア錠5mg 1T / 1x朝食後
  Rp3) Do
     Rp1)~3) 14TD
  Rp4)ラシックス錠20mg 1T / 1x朝食後
       Rp4) 10TD

  
  
 患者のコメント:時々、足がむくむ。むくむ時に(ラシックスを)飲むように言われた。
           血圧の薬はDrから衣替えしておくと。
  

 薬剤師とのやりとりで得られた情報:
  ①むくむ日とむくまない日がある。
  ②息切れ・動悸(-)だが、体のだるさ(+)
  ③ハイペンは腰が痛い時に頓用。1~2回/日
    ④腎臓を指摘されたことは一度もない
  ⑤BP160/95、頭痛・ふらつき・気分不良(-)
   

□CASE 20の薬歴
 #1 ARB増量+利尿剤による過降圧
  S) Drより血圧の薬を衣替えすると提案(+)
     BP160/95、BP↑による自覚症状(-) 
  O) ブロプレス 4mg→8mg
     むくみの為、ラシックス頓服処方
  A) ARB増量+利尿剤→過降圧の恐れ
  P) 血圧が下がり過ぎないか注意を
     ふらつきや気分不良時は申し出て

 #2  ハイペンによる急性腎不全
  S) 足にむくみ(+)、むくむ日とむくまない日がある
     むくむ日にラシックスを飲むように指示(+) 
  O) BP160/95、むくみ・体のだるさ(+)
     ハイペンは腰痛時に頓用中 1~2回/日
  A) ハイペン連用、2T/日にむくんでいるのでは?
     ハイペンによる急性腎不全の恐れあり
  P) 痛み止めでむくむことがあることを説明
     痛みが大したことなければ、1T/日で様子を見るように
      体重が2~3kg/week 増えるようなら早めに受診を
   
  
□解説
 #1 に関しては CASE17を参照。
 #2 はNSAIDsによる腎前性急性腎不全(腎臓の血流低下によって起こる急性腎不全)を考慮し、服薬支援に至っている。副作用の概要を下記に示す。

NSAIDsによる(腎前性)急性腎不全
 (急性腎不全:腎臓の機能が短期間に低下すること)

 

【初期症状】
「尿量が少なくなる」「ほとんど尿が出ない」「一時的に尿量が多くなる」「発疹」「むくみ」「体がだるい」 

 

【原因】
PG産生抑制により腎血管拡張系が低下し、A-Ⅱやノルエピネフリンなどの腎血管収縮系が優位になることにより腎動脈が収縮し腎血流量を減少させる。

 

【リスク因子】
1)高齢者 2)基礎疾患に慢性腎不全 3)発熱・脱水・食事摂取量の減少

 

【好発時期】
使用開始後、数日以内に起こることが多い。
副作用なく服用していても発熱、脱水、食事摂取量の減少、複数の医薬品の服用、誤って多量服用した場合などの危険因子が途中で加わることにより発症することある。

 

*重篤副作用疾患別対応マニュアルより(*1)

 
 尿量の確認を忘れているが、「むくみ」と「体のだるさ」は初期症状に該当する。さらに、「血圧上昇」も初期症状と捉えてよいだろう。体は血圧を上げて、腎臓の血流量を保とうとするわけだから。

 ところで、#1では「BP160/95」はS)にて扱っているのに対して、#2ではO)である。これは#1つまり血圧の話題では主訴だが、#2の急性腎不全の話題では初期症状の1つ、情報の1つとして扱ったためである。しかし、忙しい日常において、S)かO)かなんていう話はどちらでもよい。ともに患者の情報に変わりはない。

 本題に戻ると、次に、ハイペンの服用状況つまり服用量に注目している。そして、ハイペンを2T/日服用したときに症状が強く出ていると仮定し、服薬支援に至っている。ハイペンを1T/日で様子を見るように提案し、体重の測定を促す。体重は最も客観的な体液貯留の指標になるからだ。

□考察
 NSAIDsによる急性腎不全をすべての患者に考慮しているわけではない。経験的には、女性がむくみやすいように感じる。特に、小柄なおばあちゃんだ。

 そして、最も重要なファクターと感じるのはNSAIDsの半減期だ。この副作用はPG産生抑制が機序なので、青信号の副作用、薬理作用に関与する副作用である。つまり、PG産生抑制効果が強いほど、用量が多いほどリスクが高い。さらにCOX理論でいけば、COX-2選択性の高いものはリスクが低いはずである。

 しかし、NSAIDsを使用しないときの急性腎不全の発症リスクを1とすると、ボルタレンでは3倍、モービックではなんと8倍にもなるというデータ(*2)がある。こうなるとCOX-2理論など机上の空論であり、COX選択性よりも半減期の長さの方が重要なファクターと言える。

 
 潜在的に腎機能が低下している高齢者では、脱水などを引き金として、NSAIDs服用中に急性腎不全を発症というようなことは十分に考えられる。ハイペンやモービックといった(COX-2選択性だが)半減期の長いNSAIDsを服用している患者に対しては、胃障害よりも腎臓の方により注意を払うべきだろう。

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*1:独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 http://www.info.pmda.go.jp/juutoku/juutoku_index.html

*2:Huerta C,et al:Am J Kidney Dis 45:531-539,2005

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2009年3月13日 (金)

ベザトールによる横紋筋融解症

ベザトールによる横紋筋融解症を
腎排泄型の薬剤という体内動態的視点と
副作用の機序別分類という視点で考える

CASE 19

  53歳男性
  既往歴:高血圧、高トリグリセライド血症、CKD
  他科受診:なし  併用薬:なし

 
 前回の処方:
    Rp1)アダラートL錠10mg 2T / 2x朝・夕食後
  Rp2)テノーミン錠25mg 1T / 1x朝食後
  Rp3)ペルサンチン錠25mg 9T・エパデールカプセル300mg 3P / 3x毎食後

 今回の処方:
  Rp1)Do
  Rp4)テノーミン錠25mg 1T・ベザトールSR錠200mg 1T / 1x朝食後
  Rp5)ペルサンチン錠25mg 9T / 3x毎食後

  
 患者のコメント:
中性脂肪が下がらない。エパデールが効いてないみたいなので
       薬を変えようと言われた。
  

 薬剤師とのやりとりで得られた情報:
  ①TG:624
    ②S-Cr:1.7、BUN:25.9
    ③BW:56kg
    ④S-CrとBWよりCLcrを算出:41.6mL/min

 疑義照会
 (内容):S-Crでは禁忌ではなく、慎重投与だが、
      CLcrを算出すると減量か他剤を考慮したほうがよいと思われる
 (回答):禁忌でなければ、TGがかなり高いから出しておいて
 

□CASE 19の薬歴
 #1 ベザトールによる横紋筋融解症
  S) TGが下がらないので薬を変えることに 
  O) エパデール→ベザトールSR 200mg
     TG:624 
     S-Cr:1.7 BUN:25.9
     BW:56kg CLcr:41.6
  A) 50<CLcr<60においてベザトール200mg/日が適量
     CLcr:41.6なので横紋筋融解症のリスク大
  P) 四肢の脱力感やコーラ色の尿
     →中止・水分をたくさんとってすぐ受診

  
□解説
 ベザトールは腎排泄型の薬剤であり、禁忌と用法・用量は下記のようになっている。

禁忌(次の患者には投与しないこと)

 

3. 血清クレアチニン値が2.0mg/dL以上の患者
[横紋筋融解症があらわれやすい。]

 

用法及び用量

 

 通常,成人にはベザフィブラートとして1日400mgを2回に分けて朝夕食後に経口投与する。
 なお,腎機能障害を有する患者及び高齢者に対しては適宜減量すること。

 

用法及び用量に関連する使用上の注意

 

 本剤は主として腎臓を経て尿中に排泄されるので,腎機能障害のある患者への投与には十分注意する必要がある。投与にあたっては,下表の血清クレアチニン値に応じて減量すること。
 また,高齢者では,加齢により腎機能の低下を認める一方で,筋肉量の低下から血清クレアチニン値の上昇が軽微であるため,下表のクレアチニンクリアランスに応じた投与量の調節を行うこと。
 なお,投与量はクレアチニンクリアランスの実測値より設定することが望ましいが,患者の身体状況等を勘案し,実測することが困難である場合には,例えばクレアチニンクリアランスと高い相関性が得られる下記の安田の推定式を用いる等により,用量の設定を行うこと。

 

   男性:(176-年齢)×体重/(100×血清クレアチニン値)
   女性:(158-年齢)×体重/(100×血清クレアチニン値)

 

血清クレアチニン値(Scr):Scr≦1.5mg/dL
投与量:400mg/日(200mg×2)

 

クレアチニンクリアランス(Ccr):60mL/分≦Ccr
投与量:400mg/日(200mg×2)

 

血清クレアチニン値(Scr):1.5mg/dL<Scr<2.0mg/dL
投与量:200mg/日(200mg×1)

 

クレアチニンクリアランス(Ccr):50mL/分<Ccr<60mL/分
投与量:200mg/日(200mg×1)

  当然、疑義照会を行う。しかし、TGが624とかなり高く、今の状態が禁忌と明記になっていないために処方変更まで至らない。医師を説得できず、非常に残念ではあるが、実際に服用するのは患者である。ここは気を取り直して、副作用が重篤化しないような服薬支援を考えるしかない。

 疑義照会の内容は欄外に記した(疑義照会の扱いについては、CASE9参照。)。

 
 次にA)に注目してみる。ベザトールについて調べた情報「50<CLcr<60においてベザトール200mg/日」の記載がある。これはA)に記載で正しい。調べた薬の情報について、O)に記載しているケースをよく見かけるが、O)は患者の情報である。ベザトールが腎排泄型で用量調節が必要という情報は患者の情報ではない。その情報は判断を下すための根拠と考えれば、A)に書くべきであろう(服薬ケア研究会(H21.1.11)参照)。

 最後に、P)はより具体的な服薬支援を行うことにした。初期症状だけではなくその対応まで伝える。副作用の対処方法は「患者ケアのための薬学管理ハンドブック」(*1)が参考になる。

□考察
 どんぐり工房の菅野彊先生が考案する副作用機序別分類にて、このケースを考えてみる。ベザトールによる横紋筋融解症は黄信号の副作用、つまり筋毒性と考えられている。臓器毒性による副作用の場合は、初回から服薬支援をすることは少ない。しかし、それはあくまで適正用量の場合だ。

 実際、この副作用は服用開始から2年の間に発症することが多いが、2週間以内に50%も発症している。これには、ベザトールの用量と腎排泄型という特徴が関係しているのだろう。臓器毒性の副作用は服用期間だけでなく、服用量にも依存する。

 副作用のモニタリング期間を考えるうえで、副作用の機序別分類は非常に有効だ。必要な指導を必要な時期に的確に行える。しかし、各薬効群の特徴と副作用の概要をおさえておくことも重要と思われる。

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*1:患者ケアのための薬学管理ハンドブック―POSを用いた疾患別・標準ケア計画の実践

おすすめポイント:
副作用の初期症状だけでなく、対処方法までまとめて記載している一覧は使えます

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2009年3月 6日 (金)

薬剤性パーキソニズム

薬剤師の重要な仕事の1つに副作用の「判別」がある
そして、疑義照会、患者への対応
いずれを行うにも、副作用の概要を把握しておくことが肝要だ

CASE 18

  88歳男性(CASE17の患者)
  既往歴:高血圧、心房細動、前立腺がん
  他科受診:なし  併用薬:なし

 
  定期処方:
    Rp1)ミカルディス錠40mg 1T・バイアスピリン錠100mg 1T・ハーフジゴキシン錠0.125mg 1T・ラシックス錠20mg 1T/ 1x朝食後
   Rp2)エストラサイトカプセル156.7mg 2P・プリンペラン錠5mg 2T / 2x朝・夕食後

 患者のコメント:むくみは最近ないけど、よくこけてね。
                 さっきも病院行く途中にこけちゃってね。
 
  患者の様子:薬局入店よりチョコチョコ歩きで時間がかかる。
         以前から小刻み歩行の様子はあったがさらに時間がかかっている。

  
 薬歴・薬剤師とのやりとりで得られた情報:
  ① 手足の振るえ(-)、足のふらつき(+)
  ② エストラサイト・プリンペランを服用しだして3ヶ月くらい
  ③ プリンペランはエストラサイトの副作用予防にて服用中 

 疑義照会
  内容:プリンペランによるパーキソニズムと思われる。代替薬としてナウゼリンを提案する。
  回答:確かにパーキソニズムはある。ナウゼリンへ変更。

 処方変更 Rp2)→Rp3)へ
   Rp3)エストラサイトカプセル156.7mg 2P・ナウゼリン錠10mg 2T / 2x朝・夕食後

□CASE 18の薬歴
 ♯1 プリンペランによる薬剤性パーキソニズムへの対応
  S)最近よくこける。足のふらつき(+)手足の振るえ(-)
  O)プリンペランによる薬剤性パーキソニズム(プリンペラン服用3ヵ月)
    小刻み歩行悪化(+)
    プリンペラン→ナウゼリンへ変更
  A)純粋な薬剤性パーキソニズムとして症状改善まで2~3ヶ月は要する
    発症前パーキソニズムの可能性も高いか?
  P)お薬が原因だった場合は2~3ヶ月でよくなることが多い。
    お薬が原因でない場合も考えられるのでその時は
    またDrと相談していきましょう。
    どちらにしても、まず2~3ヶ月は転ばないように注意を。

  
□解説
 プリンペランによる薬剤性パーキソニズムを疑い、まず疑義照会を行う。当然、対策・代替薬を提案する必要がある。原因薬剤の中止が基本であるが、代替薬が必要ならばナウゼリンが使える。

 ナウゼリンは脳へ移行しにくいため、錐体外路症状は少ない(*1)

 次に、副作用の概要を抑えておく必要がある。この副作用は原因薬剤を中止しても回復までには2~3ヶ月を要する。さらに、元々あった軽いパーキンソン病を明白にした可能性もある。これを発症前パーキソニズムといい、頻度としては一番高い。

 以上のことを考慮(アセスメント)したうえで、服薬支援を行う。

 「お薬が原因かもしれないので変えときました」だけでは、薬剤師の信用を失うことにもなりかねない。
    

薬剤性パーキソニズム:副作用でパーキンソン病と同じような症状を示す病態
                 (パーキンソン病との違い→進行が早い、対称性etc.)

 

【初期症状】「手が震える」「動きが鈍くなる」「顔がひきつる」「手足がこわばる」 「歩幅が狭くなった」「表情が固くなったといわれる」

 

【好発時期】投与数日から数週間のうちに発症することが多い。90%の症例が20日以内で発症。 ドグマチール・プリンペランの場合、数週~数ヶ月と長いことが多く、まれに1年以上のこともある。

 

【原因薬剤】
1)抗精神病薬(D2R-B):発症頻度15~60%                         (臨床で問題となるのは15%くらい)
2)1)以外のD2R-B:ドグマチール・プリンペラン
3)テガフールをはじめとする抗がん剤:医薬品による白質脳症の結果として発症する。
4)バップフォー:構造式が抗精神病薬と類似している為。
5)その他

 

【臨床検査・画像所見・病理所見】
特異的検査所見はなく、臨床症状から判断することが重要

 

【副作用の判別方法:パーキンソン病との判別】
1)純粋に薬剤性パーキソニズムだけの患者。→投与中止で2~3ヶ月で改善(時に半年くらい)
2)偶然純粋にパーキンソン病が発症した患者。→投与を中止しても影響なし
3)今回薬剤により元々あった軽いパーキンソン病が明白となった患者。→投与中止により症状のある程度の改善は見られるが、抗パーキンソン病薬必要。
1)~3のどれかである

 

重篤副作用疾患別対応マニュアル(*2)より

□考察
 薬剤性パーキソニズムを考える上で、プリンペランとドグマチールのツー・トップは注意しておくべき薬剤といえる。

 D2Rとの親和性で考えてみる。セレネースの10に対してプリンペラン 667、ドグマチール 249と圧倒的だ。サッカーで言えば、クリスティアーノ・ロナウドとルーニーのツー・トップ、マンチェスター・ユナイテッドくらいのインパクトだ。特に、プリンペランは薬剤性パーキソニズムのバロンドールといってもいいだろう。

 そもそもプリンペランは必要な薬剤なのだろうか。代替薬も多数ある。漫然服用を続けている患者には、服用しておく必要があるのかを確認せずにはいられない。

 重篤副作用疾患別対応マニュアルによると、薬剤性パーキソニズムの「判別」方法は臨床症状のみだそうだ。そういう意味では薬剤師も医者と対等に判断しなければならない。少なくとも意見を言わなければならない。さらに注目すべきは、マニュアルにおいて、「判別」という言葉を用いているところだ。ここが「診断」となっていれば、医者の領分だ。しかし、「判別」ならば薬剤師の領分でもある。

 副作用の「判別」は薬剤師の重要な仕事のひとつになってきている。

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*1:ポケット医薬品集(2009年版) 

新たに重篤副作用のまとめが掲載されており、さらに活用できる1冊に仕上がっている。今回が最後とのことで残念。

*2:独立行政法人 医薬品医療機器総合機構http://www.info.pmda.go.jp/juutoku/juutoku_index.html

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