カテゴリー「(12) 心臓」の2件の記事

2013年5月24日 (金)

心不全患者へのメトグルコ投与は絶対禁忌なのか?

心不全患者へのメトグルコ
これは「絶対禁忌」なのか?
投薬時に必要なアナウンスは?

CASE 141

60歳 男性

定期処方:
Rp 1)  イミダプリル塩酸塩錠5mg  1錠
    メインテート錠5mg       1錠
    アルダクトンA錠25mg     1錠
    ダイアート錠60mg             1錠
    バイアスピリン錠100mg      1錠
    グラクティブ錠50mg          1錠
    グリメピリド錠1mg        1錠 / 1x朝食後 14日分
Rp 2)  ラベプラゾールNa錠10mg    1錠
         アトルバスタチン錠10mg     1錠 / 1x夕食後 14日分
Rp 3) レンドルミン錠0.25mg         1錠 / 1x就寝前 14日分

追加処方:
Rp 4)  メトグルコ錠250mg        2錠 / 2x朝・夕食後 14日分

薬歴(フェイスシート)からの情報:
心不全(+)、肝機能・腎機能はNP、アルコール(-)

疑義照会:
(内容)心不全にメトグルコは禁忌
(回答)今は状態がよいので、このままでよい

患者から得られた情報:
① 体調NP、よく眠れている
② 血糖・体重↑、Drから薬を一つ増やしておくと

□CASE 141の薬歴
#1 メトグルコ初回服薬指導
  S) 血糖・体重↑、Drから薬を一つ増やしておくと
 O) メトグルコ追加
    心不全(+)→疑義照会するもこのまま
 A)  初薬
 P) 飲み始めにお腹のゆるみやはり→じきに慣れることが多い。
    糖尿病薬が増えるので低血糖に注意を。
      嘔吐・下痢や発熱など脱水のおそれがあるときは中止を。
  

□解説
 じつはこれ、相談をうけた症例。「心不全患者にメトグルコが処方されて、疑義照会をしたけれども、『このままでよい』と言われて、そのまま投薬したんですけど…、だいじょうぶですかね?」といった具合だ。

 メトグルコの禁忌は多い。

Photo_3
 多くは乳酸アシドーシスを起こしやすくなるから禁忌となっている。禁忌(1)の7)についてはCASE 112参照。

 心不全は禁忌(1)の5)に記載がある。その内容からすると、たとえば起座呼吸などの状態が悪いときに、乳酸アシドーシスをおこしやすくなるために禁忌に設定されているわけだ。つまりメトグルコ自体が心臓に負担をかけ、心不全を悪化させるわけではない。

心不全や心筋梗塞、呼吸不全、低酸素血症を伴いやすい患者は、嫌気的解糖系が亢進し乳酸産生が増加するため、投与禁忌となります。ショック時も末梢組織での低酸素血症をきたしているため、投与すべきではありません。

ただ、陳旧性心筋梗塞あるいは心不全の既往があるが、現在の心機能は良好に維持されているというような方に関しては、メトホルミン自体が心機能を悪化させるわけではないので、必ずしも禁忌ではないと考えています。しかし、このような患者では、通常に比べリスクが高いことを十分に留意しておく必要があるでしょう。例えば、過去に複数回、突然のイベントを起こした既往があるような方は、今後も再発が懸念されるため投与すべきではないと思います。なお、メトホルミンのAMPK活性化作用により、心機能が改善する可能性も示唆されています。

大日本住友医薬情報サイト「メトグルコ®錠250mgの適正使用における注意点」

 心不全(+)だが、状態はよい。過去に複数回、突然のイベントも起こしていないようだ。さらに肝臓や腎臓に問題もなく、アルコールの摂取もない。現状ではリスクは低いと考えていいだろう。さらに医師の回答の状況からしても、リスクがわかっているようにみえる。またBW↑となっていることから、SU剤を増量したくはないのだろう。

 だから「禁忌だけど、投薬しても構わないと思う」と返答した。だが、ぼくなら次のように指導し記録しただろう。

#2 心不全悪化時にはメトグルコを中止する
  S) 血糖・体重↑、Drから薬を一つ増やしておくと
 O) (動悸や息切れ、起座呼吸がないことを確認)
 A) 心不全悪化+メトグルコ→乳酸アシドーシス
 P)心臓の状態がよくないとき、動悸や息切れ、夜苦しくて横になれないとき、
   メトグルコを続けていると悪さをしてさらに苦しくなるので、中止し受診を。 

 メトグルコの初回服薬指導(#1)は伝えておかないといけない内容ではある。とくにプロブレムを見いだせないのなら、#1だけで構わない。しかし、心不全既往のある患者に対してメトグルコを投薬するのであれば、そうはいかない。それは薬剤師がとりあげるべきプロブレムだからだ。

 心不全が悪化したときにそのままメトグルコを続けていると、乳酸アシドーシスの危険性が高まる。だから禁忌に設定されている。ではどういう状態になったら、メトグルコを中止すべきかということを理解してもらう必要があるわけだ。

 
□考察
 たとえば同じ糖尿病薬のアクトス。これも心不全には禁忌だ。それは心不全の発症や悪化にかかわる。たいしてメトグルコは、心不全が悪化しているときに飲んでいると、乳酸アシドーシスを起こしやすくなる。

 アクトスによる心負荷 ⇒ 心不全の悪化 ⇒ メトグルコによる乳酸アシドーシス

 こんなイメージだろうか? どちらも疑義照会は必要だが、同じ禁忌でもその内容はまったく異なる。絶対禁忌と条件付き禁忌とでもいうべきか。

 禁忌の設定理由。これを押さえておかないと疑義照会しても、処方内容は必ずしも良い方向に流れるとは限らない。
 

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2011年5月13日 (金)

セララを心不全に用いるとき、添付文書は役に立たない

併用禁忌がなぜ併用禁忌ではないのか?
禁忌が禁忌でないこともある
それらは「適応症」の違いに起因していた

CASE 94

60歳 男性

他科受診:A病院  併用薬:なし

処方内容:
Rp 1) フルイトラン錠2mg 1T・レニベース錠5mg 1T・バイアスピリン錠100mg 1T / 1x朝食後
  2) ピモベンダン錠2.5mg「TE」 2T・スローケー錠600mg 2T / 2x朝・夕食後
  3) セララ錠50mg 3T・ラシックス錠20mg 3T / 3x毎食後

疑義照会:
(内容)セララ‐K製剤併用にて、高K血症のリスクが高まるために併用禁忌となっている
(回答)A病院の指示。この処方で安定して退院できたのでこのままでよい。
* さらにセララの用法ならびに用量も添付文書の逸脱となっているが確認できず

患者のコメント:
「体調はもう大丈夫。ただ体重が増えないように言われている」

患者から得られた情報:
① 動悸やだるさなど高K血症を疑うような症状はない
② むくみや息切れ(-)、夜もよく眠れている
③ 利尿剤を夕に飲んでも頻尿で困ることない

□CASE 94の薬歴
#1 セララ-スローケー併用による高K血症のリスク(+)
  S) 体調はもう大丈夫。むくみや息切れ(-)
   ただ体重が増えないように言われている
 O) 動悸やだるさなど高K血症の初期症状(-)
   今回の処方にて体調が安定し、退院となる
 A) セララ-Kの組み合わせは併用禁忌だが仕方ないだろう
   しかし、高K血症のモニタリングは必要
 P) 身体のだるさやドキドキするときはすぐに受診を。
   体重だけでなく、きちんと採血を受けてKの値も見てもらいましょう。   
   
□解説
 
セララとK製剤の組み合わせは、高K血症のリスクが高まるために併用禁忌となっている。当然、疑義照会を行う。その回答は納得できるものではなかったが、その内容と患者の状態を考量した結果、そのまま投薬することにした。

 しかし、その組み合わせが高K血症のリスクを上げることに間違いはない(さらにセララの量も多い)。そこで、高K血症の初期症状を伝えるとともに採血の必要性も伝えている。
 
 

□考察
 
疑義照会の途中に感じた違和感、その正体が後でわかった。それは、なぜ同じアルドステロンブロッカーのアルダクトンAとKが併用禁忌ではないのに、セララとでは併用禁忌なのか? ということだ。そもそも、セララはアルダクトンAの改良型の位置づけのはずだ。

 その答えは「適応症」の違いにあった。セララは「高血圧症」のみの適応なのに対して、米国のセララ(商品名「インスプラ」)には「高血圧症」の他に「心筋梗塞後のうつ血性心不全」に対しても適応がある。そして、その2つの適応に共通の禁忌事項と高血圧症にのみの禁忌事項が設定されている。

<心不全と高血圧に共通の禁忌事項>
以下のいずれかに該当する患者には本剤を投与しないこと:
●投与前の血清カリウム値〉5.5mEq/L
●クレアチニンクリアランス≦30 mL/分
●以下の強力なCYP3A4阻害薬を併用している患者(例えばケトコナゾール、イトラコナゾール、ネファゾドン、トロレアンドマイシン、クラリスロマイシン、リトナビル、およびネルフィナビル)

<高血圧のみへの禁忌事項>
高血圧治療においては、以下のいずれかに該当する患者にも本剤を投与しないこと:
●微量アルブミン尿を伴う2型糖尿病
●血清クレアチニン〉2.Omg/dL(男性)、または>1.8mg/dL(女性)
●クレアチニンクリアランスく50 mL/分
●カリウム補給薬またはカリウム保持性利尿薬(例えばアミロライド、スピロノラクトン、またはトリアムテレン)を併用している患者

 つまり、高血圧にセララを用いる場合のみ、セララとK製剤は併用禁忌であって、心不全に用いる場合には併用禁忌ではないということだ(保険のことは考えていない。あくまでも有用性のみを考慮の対象とする)。

 セララの添付文書は、その効能効果が「高血圧症」だけであるがために、心不全に用いるときのことが想定されていない。

 例えば用量。最高用量は100mgに設定されている。これはセララの降圧効果が100mgでも200mgでも変わらなかったためであって、高血圧のみを想定して設定されたように見える(だからといって、心不全にどのくらいの量が適当なのかはわからない。文献やインスプラの添付文書を見るかぎり、25mg~50mgのようだ。やはり今回の症例は量が多いように思われる)。

 また、アルダクトンAとセララにおいて、高K血症のリスクファクターに違いがある(選択的アルドステロンブロッカ-のすべて P.213 参照)。高K血症のリスクはアルダクトンAが用量依存的なのに対して、セララは腎機能に依存している。そのため、セララの禁忌には

中等度以上の腎機能障害(クレアチニンクリアランス50mL/分未満)のある患者[高カリウム血症を誘発させるおそれがある。]
との記載がある。しかし先に示したように、心不全と高血圧に共通の禁忌事項には
●クレアチニンクリアランス≦30 mL/分
とある。さらに、AHAが作成する、心不全治療薬としてアルドステロンブロッカーを用いる際に高K血症のリスクを最小限にするためのガイドラインにも、「GFRあるいはクレアチニンクリアランス30mL/分以上を目安にする」との記載がある。
 
 よって、セララを心不全に用いるとき、添付文書は役に立たない。
 
 以上、得られた知見をトレースレポートで提出する。
 現在、患者のKは4.6、推定eGFRは75、随時モニタリングしていくとの回答を得る。

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