カテゴリー「(05) 薬物動態学(相互作用学を含む)」の3件の記事

2013年9月27日 (金)

ハルシオンとGFJ(グレープフルーツジュース)

併用禁忌でも併用注意でもないこの組み合わせ。
じっさいに併用すると、血中濃度の推移はどう変化する?
併用を避けていただく理由がそこにある。

CASE 148

女性 65歳

前回の処方:
Rp 1)ロサルタンK錠25mg 1錠 / 1x朝食後 28日分
Rp 2) アモバン錠7.5mg 1錠 / 1x就寝前   28日分

今回の処方:
Rp 1)Do 28日分
Rp 3) ハルシオン錠0.25mg 1錠 / 1x就寝前   28日分

患者の訴え : 「朝起きたときに、口の中が苦いことがあるといったら、薬をかえておきましょうって」

患者から得られた情報:
① 寝つきが悪く、アモバンを開始。
② アモバンで睡眠状況は良好になるも、数か月後に苦味を感じ、Drに訴える
③ アルコール(-)
④ GFJ:常飲はしないが、あれば飲むこともある

□CASE 148の薬歴
#1 ハルシオン服用中はGFJを飲用しない
  S)朝起きたときに、口の中が苦いことがある→薬をかえておきましょうって
 O) アモバン→ハルシオン、GFJ:あれば飲む、アルコール(-)
 A) ハルシオン-GFJ→5時間後も非摂取時のピーク相当濃度を維持
 P)GFJを飲んでしまうと、薬が身体から抜けにくくなって残ってしまう。
   ハルシオンを飲んでいるあいだは、同時でなくてもGFJを摂らないように。

 
□解説
 ハルシオンとGFJについて言及した書籍がある。ぼくの愛用書「ポケット医薬品集(2013年版) (*1)」だ。いったん廃版となったこの書籍は澤田先生のおかげで復活を遂げた。ただ難点をいえば、サイズが大きくなったこと。ちょっとポケットには難しくなった。

 それはさておき、ポケット医薬品集のハルシオンの項には、次のような記載がある。

 8.グレープフルーツジュースを避ける→吸収量増:5時間後も非摂取時のピーク相当濃度を維持。

 この一文の根拠(*2)を次に示す。

Gfj
 これでは別の薬だ。速やかに立ち上がって、素早く消失していくから「超短時間型」であって、この血中濃度の推移では、医師の処方意図を汲むことはできない。

 
 ゆえに、GFJを禁止する服薬指導を行っている。
 

 
□考察
 このハルシオンとGFJの組み合わせは併用禁忌でも、併用注意でさえもない。しかし、眠剤の中でハルシオンだけは、GFJの飲用に気をつけるようにアナウンスをする医療者は多い。

 メーカに問い合わせてみると、海外での併用のデータ(*2)を持ってはいるものの、「改定の根拠となるような有害事象例がないため」に添付文書には記載がなく、また改定の予定もないようだ。

 さきのデータ(*2)は海外のものだが、ハルシオンを0.25mgとGFJを250mLを健常人10名に対して行った試験である。その結果、AUCは1.5倍、Cmaxは1.3倍、Tmaxは1.6~2.5倍に延長とそんなに大きな変化はないように、一見するとみえる。ただそれは数字だけを見ているからであって、上の図を見るとその意味がよくわかる。

 ハルシオンは超短時間型と分類されていて、医師もそのつもりで使う。だが、GFJと併用してしまうと、そう分類するのは難しい。

 だから添付文書に記載がなくても、GFJとの併用は避けていただく。添付文書に記載があるかどうかは、その判断基準がぼくとメーカでは違うのだからしかたがない。

 情報をどう扱うかが、ぼくの仕事だ。

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*1:ポケット医薬品集 2013年版

*2:Clin. Pharmacol. Therap, 58: 127~131(1995)

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2013年2月22日 (金)

アムロジピンとGFJをどのように指導しますか?

Ca拮抗剤とGFJ(グレープフルーツジュース)
ピンからキリまであるこの組み合わせ
リスクの低いと言われた「アムロジピンとGFJ」をどう指導する?

CASE 135

60歳 女性

処方:
Rp 1) アムロジピン錠2.5mg 1錠 / 1x朝食後 28日分

患者から得られた情報:
「ここで薬をもらい始めてから、(血圧が)下がりすぎたことなんて一度もない。
 だいたい120~130くらいで安定している」

薬歴から得られた情報:
① 10年前に初来局。前医ですでに半年、アムロジン錠2.5mgを服用。
  GFJが大好き。アムロジンを服用するために飲まないように指示されていた。
  病院ならびに薬局を変わる際に、当局からGFJによる影響のほとんどないタイプと説明をうけ飲用を再開。
② 飲用再開後も血圧の変化はまったくなし。
③ 現在も週に3~4回はGFJを継続中。

□CASE 135の薬歴
#1 アムロジピン‐GFJによる血圧への影響
  S)10年間過降圧なし。120~130で安定
 O) GFJを週に3~4回飲用→血圧への影響なし
 A) 今のところGFJによる影響はないようだ
 P) ふらつきや動悸、血圧が100を切るようなときはすぐに申し出を

 
□解説
 Ca拮抗剤とGFJといえば、メディアでも取り上げらる有名な相互作用だが、その影響は大小さまざまだ。

 GFJは有名なCYP3A4阻害剤。だが、その作用点は小腸。つまりADMEのA、吸収の過程での相互作用ということになる。そして、その影響の大きさは、その薬剤のBA(バイオアベイラビリティ)によって予測が可能だ。

 たとえば、GFJと禁忌レベルのCa拮抗剤、バイミカードのBAは8.4±1.0%(IF参照。3~10%や3.9%としている文献もある)しかない。そして、添付文書には

本剤の血中濃度が上昇し,作用が増強されることがある。
患者の状態を注意深く観察し,過度の血圧低下等の症状が認められた場合,本剤を減量するなど適切な処置を行う.なお,グレープフルーツジュースを常飲している場合,飲用中止4日目から投与することが望ましい。

 との記載がある。GFJの影響は3~4日くらいあることも考慮された内容だ。同時服用にて、AUCが2~4.5倍、Cmaxが3~5倍にもなると言われている組み合わせなのだから、当然と言えば当然だ。

 うっかりGFJを飲んでしまえば、ふらつきやめまい、動悸、フラッシングなどの副作用が容易に想像できる。

 いっぽう、アムロジンのBAは64%もある。やはり影響は少なそうだ。IFでは、現在でも次のような記載のままとなっている。

 (参考)
グレープフルーツジュースによるアムロジピンの血中濃度の上昇は軽度(Cmax115%、AUC116%に上昇)で血圧と心拍数に影響はなかったとの報告
28)及び薬物動態と血圧に影響はなかったとの報告29)がある。(外国人データ)

 そして当時(10年前)は併用注意にGFJの記載すらなく、その後、2010年8月にアムロジンの添付文書が改定され、記載されることになる。「症例の蓄積」と「外国の添付文書情報等との整合性を図るため」がその理由とされている。

 件の患者は、今も変わらず、GFJを愛飲している。もっとも現在では併用注意なので、その状況を確認しつつ、モニタリングを続けている。

 

□考察
 アムロジピンとGFJの併用。これをどう思いますか? こう尋ねると、じつにさまざまな意見が出る。

 「アムロジピンでもGFJとの併用で低血圧の症例がじっさいに出ている。だからGFJは禁止すべきだ」とか「GFJは飲まないといけないものではない」といった意見がある。

 また、一方では「問題はないとしている文献もある」、「リスクは低く、起こる症状も予想できるのだから、注意を与えておけばいい」という意見も当然ある。

 でも、いろいろな意見があるのは当たり前で、それは一般化された情報だけを取り扱っているからだ。そこに実際の患者はいない。だから、医師や薬剤師の考えが色濃く出てしまうわけだ。

 今回の症例の患者は、ぼくの薬局の患者で10年も利用していただいている。そして薬歴には、血圧とGFJの飲用についての個人データがぎっしりだ。これが「現場の強み」だ(CASE 134参照)。だから添付文書が改定になった後も、GFJを禁止することなく、自信を持ってモニタリングを続けている。

 では、はじめてアムロジピンを飲む患者へのGFJは、どう指導しますか? 

 そこにも一般化された情報しかない。患者がいない。だから、僕なりの考えもあるけれども、決まった解などはありはしないのだ。
 

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2009年11月13日 (金)

タミフルのTmax

タミフルドライシロップを吐いてしまった
再投与をどうするか?
IFで薬のキャラクターを把握しておこう

CASE 42

9歳 男の子
他科受診:なし  併用薬:なし  副作用歴:なし

処方内容
Rp1)タミフルドライシロップ 4g / 2x朝・夕食後 5日分
 2)カロナール細粒50% 0.5g / 1x発熱時 5回分
  3) アンヒバ坐剤小児用200mg 5個

投薬後に患者(母親)よりTEL:
 「タミフルを飲んで20分ちょっとくらいで吐いてしまった。どうすればいい?」

患者から得られた情報:
① 15:30くらいにタミフルDSを服用。その後寝ていて、ついさっき吐いてしまったと16:00に℡あり。
② 意識ははっきりしているし、息苦しさも見られない。特に熱以外に、体調に変わった様子はない。

来局時の情報
① KT:39℃、その他には症状はなく、わりと元気。
② 検査では陰性だったが、発熱から3時間なのでタミフルDSを出してもらった。

□CASE 42の薬歴
同日 16:00  母親よりTELあり
#2 嘔吐後のタミフルDSの再投与について
  S) タミフルを飲んで20分ちょっとくらいで吐いてしまった。どうすればいい?
 O) 15:30くらいにタミフルDSを服用し、16:00前に嘔吐。
   意識障害や呼吸異常なく、熱以外に体調変化なし。
 A) 再受診の必要はないだろう。
   タミフル未変化体のTmaxは0.71hr±0.27で、最短なら26min程度
   吐いた量にもよるが、吸収されている可能性は高い。
   高熱+タミフル過量でタミフルの脳への移行が心配。
 P) すぐには飲ませず、3時間以上あけて18:30以降に飲ませてください。
   今日はその1回のみです。明日からは朝・夕の2回で。
   タミフルはウイルスをやっつけるのをサポートするだけの薬で、
   絶対に飲まないといけない薬ではないので安心してください。

□解説
 今回の薬歴は、投薬後の℡への対応についてだ。投薬の際の服薬支援が#1なので、℡対応は#2として記載している。

 実をいうと電話を受けたときには、#1をまだ記載していなかった。ここでやってはいけないことは、#1と#2をごちゃまぜに書いてしまうことだ。#1をすぐに書いておけばそんなことは起こらないわけだが・・・。

 さて、今回のテーマは「嘔吐後のタミフルDSの再投与をどうするか」である。S)には患者からの質問内容を記載し、足りない情報を患者から聞き出してO)情報とする。S)O)情報をもとに、再受診の必要性やタミフルの再投与についてどうするかを考え(A)、患者が安心できるような具体的な指示(P)を心がけている。

 「タミフル未変化体のTmaxは0.71hr±0.27で、最短なら26min程度」のくだりは必要ないのかもしれない。だが、あえてSOAPに組み込むのなら、A)である。なぜなら、O)情報は患者の情報であり、先のくだりは薬の情報だからである。

□考察
 タミフルの脳への移行問題、特に小児へのタミフルの必要性といった問題を抜きにして考察を進めたい。本当はこういう問題を薬剤師がどう考えるか、つまり薬剤師の価値観が服薬支援には大きく関与するわけだが・・・。

 
 薬剤師は患者やドクターからの質問に対して、さまざまな情報を加工することで対応している。今回のケースでは「どのくらいのタミフルが吸収されているか」ということを考えている。そこで参考になる情報の1つがTmaxだ。

 しかしここで添付文書が役に立たない。添付文書に記載されているのは活性体のTmax:3.7±0.5hrのみである。タミフルは未変化体のまま吸収され、肝臓にて活性体となる。つまり、活性体のTmaxだけでは効果発現の指標にはなり得るが、吸収の指標にはなり得ない。

 そこでIFを紐解いてみると、未変化体のタミフルのTmaxは0.71±0.27hrとある。なぜ、この程度の情報を添付文書に反映させてくれないのか。スペースに限りがあるのはわかる。しかし、あまりにお粗末。使い手のことを考えていない。想像力の欠如である。

 
 ここでの教訓は、薬のキャラクターを捉えるためにはIFが必須である、ということだ。この媒体には広大なスペースがある。タミフルだと83ページもある。さらに電子化も進んでいるので、すべての薬の最新版がPMDAのHPから一括入手できる日も近いだろう。

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